47話:ガウとの訓練
さて自由行動か、明確な目的が定まっていないのは苦手なんだよな。
――ちょうど昼ごろだし、まずは飯かな。
「トリウィア、昼飯はどうする?」
トリウィアに声をかけるが、虫眼鏡のような道具片手にクリスタルを真剣に覗き込み――返事はない。
紅茶数杯にⅢのクリスタルを、隠し味として使う贅沢をしていたし。
『不眠不休』のスキル効果で、食事は不用となっており趣味の可能性が高いか。
……邪魔をしないでおこう。
俺は1人で自室を出る。
ナウメも影のなかで昼寝中。声をかけたら目覚めるだろうが、それもな。
クラン食堂に行くため1階に降りると、中庭からブンブン剣を振る音が聞こえてきた。
足を向けるとガウが訓練用の木剣を振っている。
「誰かと思ったらガウか、もう昼だぞ」
クラン馬車を動かすとき御者をしてくれている、犬獣人の少年ガウ。
彼のシャツは大量の汗を吸っており訓練の長さを物語る。
「ランマさま! こんにちは! うるさかったですか? ごめんなさい」
挨拶直後に勢いよく頭を下げてくる。
「いや、アニマ補正は結構都合よく働くんだ。雑音は聞こうとしないかぎり、本能レベルで遮断される、2階では聞こえてなかったよ」
逆に集中していないときに、重要な音を聞き逃すこともあるので一長一短だが。
「ずいぶん長く振ってるだろ? 無理しすぎるなよ」
「ありがとうございます! けど俺もっと強くなりたいんです。いつかⅨとの戦いに参加できるぐらいに」
拳を握りしめて宣言するガウ。なるほど、俺の噂を聞いて火が点いたのか。
……正直トリウィアですら瞬殺されたんだ、どれだけ訓練しても厳しい気がする。
とはいえ夢見る少年にそんな現実を告げるほど、空気が読めないわけじゃない。
「なら俺も少し訓練に付き合おうか」
「いいんですか!?」
思えば俺はあまりクランメンバーと絡んで来なかった。
持ち上げられすぎて気恥ずかしいし。
それにクラン運営資金の稼ぎ柱だから、基本開拓領域で狩りをしていた。
……言い訳か? ……俺以外は結構積極的に交流してる気がする。
「あぁ思えばこれまで、仲間の訓練にほとんど付き合ってなかったからな」
水希は女亜人たちと仲がよく。
モモを始めとした開拓領域は厳しい戦闘員たちといっしょに、人類圏側の魔物狩りへ行くこともある。
眞朱は護衛や事務の手伝いを亜人メンバーたちに任せているし、クランマスターとして必然的に交流も多いだろう。
直樹はコミュ力が高いイケメンで、実質的にクランのリーダーポジション。
……戦闘力が高い亜人メンバーは友方派が多く、俺との相性が悪い。
そのため開拓領域での狩りは、直樹が亜人戦闘員を連れたパーティー。
俺はソロか水希、友方と組むパーティーがクランの基本戦略だった。
そして友方は……ウザいぐらい絡んでいってたな。
ガウやモモのような、過激派じゃないメンバーには引かれ気味だった。
「嬉しいです! よろしくお願いします、ランマさま!」
元気よく返事をするガウ。
俺は中庭に設置されている木箱から、訓練用の木剣を手に取る。
「とはいえ、俺は人に剣技を教えられるわけじゃないからな。実戦形式だ、好きに打ち込めガウ!」
「はい! いきます! たぁあああああ」
バシバシバシバシバシ。
打ち込まれるすべての剣を払っていく。
ガウのアニマはⅡ。
獣人は身体能力に優れる者が多く、人間基準だとⅢ級の動きはできている。
開拓領域でも入り口付近なら、前衛剣士としての役割は果たせるレベル。
純粋な剣技なら、俺よりちゃんとしているだろうが――。
「それ」
パカン。軽く頭に木剣を当てる。
アニマ差が圧倒的なので、集中すればガウの攻撃は止まって見える。
「っまだまだぁ!」
手加減しているがそれでも痛かったのだろう、ちょっと涙目になっている。
だが気合いは十分で怯むことなく斬りかかってくる。
バシバシバシパカン。バシバシバシバシパカン。
――途中で水希が差し入れてくれた食事を食べたりしながら、日が落ちるまでガウの訓練に付き合った――。
「ランマさま! 今日は本当にありがとうございました!」
一方的にボコボコにしただけだが、満足げな表情でガウはお礼を言ってくれた。
……たまには、こんな日もありかな。これまで生き急ぎすぎた。
――そして自分の部屋に戻ると。
「……昼に出たときと変わってないだと?」
まさかずっとクリスタルを眺め続けているとは……。
俺『魔導具職人』には絶対なれないわ。
「なぁトリウィア、それいつまで続けるんだ……?」
昼とほぼ変わらぬ姿勢で手に持ったクリスタルを、虫眼鏡のような道具で真剣に覗き込み続けている少女に問いかける。
「…………うん、いま何か言ったかな?」
「……いや、晩飯はどうする? 昼も食べてないだろ」
「いらないよ。いまは集中したい、私はスキルで食事不要だからね」
「そうか…………」
ちょっと言いたことはあった。
食事や睡眠が不要だからと抜いてしまえば、人間をやめてしまいそうだと。
だが彼女は100年以上生きている大先輩。
いまさら口を挟むべきじゃないか、これまでを否定することに繋がりかねない。
「俺は晩飯食べて、風呂入って寝るぞ」
「ああ、私のことは気にするな。ここはキミの部屋なのだから」
おなざりに小さな手を振るトリウィア。
晩飯から戻ってきても、やはり少女に変化はない。
……『不眠不休』寝られるとは思えないが、いちおう彼女の布団も敷く。
着替えもクラン備品からサイズが合いそうなのを見繕っておこう。
「トリウィア、風呂は入らなくていいのか?」
女で風呂なしで平気って奴はあまり見たことがない。
「…………あぁ代謝がほぼないからな。汚れないかぎり入る必要はない……がさすがに入りたいな、風呂場は借りるよ」
この部屋にも風呂場はあるが――せっかくだ。
「クラン浴場を使うといい。うちの自慢の大銭湯が1階北にある」
『量産魔導具湯水蛇』では不満があったらしい、水希が努力と根性で作った代物。
あれを作るために水属性魔法を取得したぐらいの本気。
さらに拾った水希自身よくわかっていない、謎のパーツを組み込んで作られている。
「銭湯? なんだそれは?」
あるいはトリウィアなら知っていると思ったが、クランメンバーたちと同じく知らないか。




