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45話:面倒ごとは起きないさ

 トリウィアにクラン拠点を案内していく、部屋はどうしようか?


 『光の意思たち(ライト・スピリッツ)』では1階を一般メンバー用、2階を彼方の来訪者(エトランジェ)専用にしている。

 1階はメンバーの増加に伴って増築しやすいし、階を分けておいた方が俺たちに気を使わなくていいからな。


 ……友方(ともかた)は自分の部屋より、1階で亜人メンバーと絡んでいる方が多かったから。

 結局気を使うハメになっていた気がするが……。


 ――トリウィアは特殊なメンバーだし、2階の方がいいかな。

 そもそも襲撃があったときに守るためのクラン加入だしな。


「部屋は俺の隣でいいか?」 


「ふむ、私はまだ死ぬ気はない。理想は最強戦力たるキミとの相部屋だが嫌かね?」


 えぇ……部屋の広さは十分あるが……。

 女と相部屋とか、絶対クランで噂されて恥ずかしい。

 しかも実年齢100歳以上なのに見た目が12歳ぐらいだから、あることないこと陰で言われそう……。


「……とはいえ優先すべきは俺の羞恥心より仲間の命だな。いいよ、一緒に暮らそうトリウィア」


 ――何よりこいつも、友方と方向性は違うがヤバい奴。

 クランメンバーに被害を出さないためにも、目の届く場所に置いておいた方が安心だ。


「ははは、安心していいランマ。精神は肉体の影響を強く受ける。私は恋や愛などを知る前に成長が止まったからな。これまで男に恋い焦がれたことなど1度もない、面倒ごとは起きないさ」


 銀髪の少女は笑いながら言うが、やはりちょっとズレている。

 何も起きなくても、いっしょにいるだけで噂されるのが世間なんだよなぁ……。




 ――眞朱(ましゅ)は外部との交渉時以外、基本クランマスター室にこもって雑務をこなしている。


 (ノウェム)狩りと新メンバー加入、トモカタクリスタルの『固有魔導具(アーティファクト)』化を試みること。

 この数日を報告をするため、トリウィアを連れてマスター室を訪ねる。


嵐真(らんま)殿! 噂は聞いているでござる、1人で危険な真似は感心しないでござるよ。無事でござるか?」


 俺の顔を見るなり、眞朱はまくし立ててくる。


「知ってるだろ、『うずくまる』俺は無敵だ、負けはない。……まぁ千日手の可能性はあるから、それは怖かったけどな」


 肩をすくめながら答える。


「拙者報告が入ったときは、耳を疑ったでござる。(ノウェム)に挑むのなら一言欲しいでござる!」 


「心配かけて悪いな眞朱。……俺も昨日クランを出たときは、挑む気は皆無だったんだ」


 盗難の可能性があるトモカタクリスタルの『固有魔導具(アーティファクト)』化のため、職人を探し冒険者ギルドで知った情報からトリウィアを訪ね。

 その後クランに加入したトリウィアからの提案でなぜか、(ノウェム)に挑むことになったと軽く説明する。 


「――ござるぅ。トリウィア殿、嵐真殿が認めた以上クラン加入は認めるでござるが、拙者クランマスターとしての責任があるでござる。思いつきでメンバーを危険に巻き込むような真似は控えて欲しいでござる」


「あぁすまない、だが私はキミたちの目的を聞いている。ならばあの程度の試練乗り越えずして、大陸を救う英雄になどなれるはずがない!」


 小さな拳を握って力強く宣言するトリウィア。


「……嵐真殿、まさか我らの目的教えているでござるか?」


「あぁ教えている。ほかに行く当てがなかったメンバーたちとは事情が違うからな」


 俺の方から訪ねて巻き込んだ、黙っているのはフェアじゃない。


「――つまり(ノウェム)討伐は、そのための箔づけでござるか」


 もともと眞朱の頭はクラスでトップクラスだったが、クランマスターになってからは、少ない情報から事情を把握する能力がさらに増している。


「その通り、そして目的は達成したはず! マスター君も噂を聞いたのだろう?」


「……そうでござるな。鑑定証明も出た以上、近日『光の意思たち(ライト・スピリッツ)』も六線級へ昇格するでござろう」


 クラン線級はクランメンバーの名声、実力、クエストの達成状況を冒険者ギルドが総合的に評価し格付けする。

 『始祖氷狼(ハティ)』に討伐クエストが出ていたわけではないが、名声と実力評価は十分すぎるだろう。


 ――しかもトリウィアの嘘によって『襲来する始祖炎霊ナイトメア・イフリート』の再来を防いだことにまでなっているんだ。


「それと眞朱もうひとつ、こっちはただの閃きだが……姫宮(ひめみや)は異様にやつれてただろう? あれ『道連れ』を自分を買った相手に使って逃げてきたんじゃないかと思ったんだ」


 数日前は友方の死でテンパっていて、奴隷として売られたはずの姫宮がどうやってここまで来たのかに、思考がいってなかった。


「……なるほど! 『道連れ』は自身の命全てではなく、生命力を小出しにして使えるという解釈でござるか」


 俺は頷く。


「――そしてそれならば、彼方の来訪者(エトランジェ)を裏社会で買えるほどの財を持つ人物が、姫宮殿が来る前に死んでいるか行方不明になっているでござる!」


「あぁそこから交友関係を探れば、ほかの売られた女子にも辿りつける可能性があるんじゃないか。裏に社会があるのなら、悪には悪の繋がりがあるはず」


「拙者まったく思い当たらなかったでござる。嵐真殿、さすがの閃きでござるよ!」


「……まだ誰1人助け出せていないさ」


「……嵐真殿に責任は何もないでござるよ、拙者も気づかなかったでござる。度を超して煽りすぎた拓也(たくや)殿も悪いでござる」


 あまりいい表情ができていなかったのだろう、俺を慰めるように言ってくれる。


「そもそも相談に来ておいて拙者らの仲間を殺し、取り返しのつかない傷を負わせた姫宮殿が最悪でござるし。そこまで追い詰めた肉丸(にくまる)こそが元凶といえるでござる」


 特別交友関係があったわけじゃない、ただのクラスメイトの視点で内面はわからないが、肉丸だって地球にいたころは部活動に熱心なまともな男に見えていた。


 ――突き詰めれば。

 この世界にクラス転移したことにまで、行き着くのだろう。


 ……だが不思議と俺は、この世界に転移したことを恨む気にはなれない。

 それは俺が超当たりスキルだったからか? ……それならわかるが、違うんだ。


 『うずくまる』を超外れスキルと心から思っていたころでも、この転移そのものを恨んだりはしていなかった。

 そう最初から、追放仲間の5人で俺だけは地球への未練がほぼなかった。


 地球では特別恵まれていたわけでも、虐げられていたわけでもない。

 普通に苦労して、まぁまぁ娯楽を楽しめるぐらいの生活だった。


 魔物は出る、食料は不足、まともな風呂にも入れない、地獄のような森暮らし。

 ……なのになぜ俺は、地球に帰りたいと思わなかった?


 最初に魔物と遭遇したとき、俺に恐れはなく死ぬ覚悟で囮になろうとした。

 麒麟(きりん)との戦い。『始祖氷狼(ハティ)』との戦い。かつてないほどの高揚感を得た。

 

 ――俺は平凡な高校生だったが、深層心理で英雄願望を持っていたのか……?

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