44話:鑑定証明とクエスト発行
「ランマだ!」
冒険者ギルドへの扉を開き入ると、即座に誰かの声が上がり視線が集まる。
冒険者の大半を占めるⅡにとって、割がいいクエストの確保は死活問題。
そのため朝も早くから多くの冒険者が集まっている。
「おいおいランマ、Ⅸを狩ったって噂マジなのか?」
大柄の男が半信半疑気味に尋ねてくる。
「あぁこれが『始祖氷狼』のクリスタルだ、鑑定証明に来た」
「ランマさま!」
パタパタと小走りに、ピンク髪の小柄な受付嬢カリナが近寄ってくる。
「凄いです! いまギルドじゃⅨ討伐の噂で持ちきりですよ」
この世界には遠距離通話を可能にする『量産魔導具遠話器』が存在する。
量産品だが、ひとつひとつに固有の魔力パターンが電話番号のように登録されており、運用コスト含めてかなりの高級品。
さらに開拓領域では使い物にならず、実質冒険者ギルドや王国軍、貴族専用の『量産魔導具』となっている。
それでも遠距離通話の情報拡散力は十分であり、わずか一晩でこれだ。
ここにクエスト発行も合わされば、まもなく大陸中に響き渡るだろう。
「これの鑑定と証明書発行をギルドに依頼したい、頼めるか?」
「はい! すぐに鑑定士さんを呼んできます!」
クリスタルを見せながら頼むと、カリナは元気よく了解してくれた。
「もう来とるよ」
しかしカリナが呼びに行くまでもなく。
王都冒険者ギルド専属クリスタル鑑定士の婆さんは、フロントに現れていた。
「Ⅸ級と聞いちゃね、飛び出てくるさ。麒麟に続いて2つめかい、ランマ」
「……麒麟は瀕死の奴に止めを刺しただけだ。これが俺の――初めてのⅨ狩りだ。証明してくれ」
鑑定士の婆さんにクリスタルを手渡す。
「テーブルでするよ」
言葉とともにギルドの奥へと歩き出す、婆さんの後を追う。
カリナ――だけでなく、入り口にいた冒険者たちもぞろぞろついてくる。
トリウィアも冒険者たちに混ざっている。
数十人で利用できる円卓型テーブルに、鑑定士の婆さんは腰を落ち着ける。
その前にクリスタル立てをギルド職員が置いて、婆さんがクリスタルをセットする。
「それじゃいこうかねぇ。――アニマよアニマ、在りし日の姿に想いを寄せよ、それは汝の昔日か、幻像よ浮かべ、真像を見せよ『ワンダークリスタル』」
需要の割に使える者が少ない、クリスタル鑑定魔法が詠唱行使される。
たぶんトリウィアは使えただろうが、公の場でしかるべき信頼を持つ人物が使うからこそ意味がある魔法だ。
「――氷の狼」
テーブルを囲むようにして鑑定を眺めていた冒険者の誰かが声を漏らす。
クリスタルから幻像が浮かびあがり、中空に解き放たれ駆け出した。
それは俺が狩ったⅨ級『始祖氷狼』の姿。
「『魔物図鑑』で見た姿のままだ――『始祖たる魔物』」
冒険者の誰かが呟く。
「『始祖氷狼』だッ!」
声を揃えて冒険者たちが、その名を呼ぶ。
このクリスタルをフェイクであると、疑う者などいないだろう。
「すげーーーーーー!」
「マジか、ランマ! マジで狩ったのか!? 何人パーティーだ? ナオキもいたのか?」
「私、昨日ナオキさまを王都で見たわよ?」
「まさかソロなのか?」
「Ⅸだぞ?」
「私が見届け人となっていたッ! 無尽のトリウィアが保証しよう『始祖氷狼』を狩ったのは紅き聖弓のランマ、ただ1人だッ!」
トリウィアがここぞとばかりに響くような声を出す。砦のときの拡声魔法か。
それにしても見届け人って……氷漬けでナウメのなかにいたのにな。
「トリウィアさま!?」
「無尽のトリウィアが見届け人だぁー!」
……俺はトリウィアのことをまったく知らなかったが、一部では有名だったのか、驚愕の反応を示す者たちが何人かいる。
まぁ100年以上生きてるらしいんだ、有名人でも不思議じゃない。
「ソロでⅨを狩るとかすげーよ! ありえねーよ!」
「むぅ――認めざるをえないな。ランマお前は俺より強いッ」
誰だか知らない坊主頭の男が言葉とともに手を差しだしてくる、握手で応じた。
「きゃー! 私とも握手してください! ランマさまー!」
女の冒険者たちが殺到してくる、やれやれだ。
アイドルのような真似は得意じゃないが、人当たりよく応じていく――。
「間違いないねぇ、たしかに『始祖氷狼』のクリスタルさね。王都ラプロン冒険者ギルド専属クリスタル鑑定士、値踏みのバーバラが保証するよ!」
証明書を作っていたバーバラは氷狼の幻像が消えたころに宣言、クリスタルとともに証明書を渡してくれる。
――よし、次だ。
「冒険者ギルドでクエストを発行したい」
――俺は事前にトリウィアと決めていた内容のクエストを発行した。
『始祖氷狼』のクリスタルを『固有魔導具』化する『魔導具職人』を募集。
失敗時の責任は問わず、罰金はなし。
成功報酬は十分な額。
……報酬はクエスト発行時に先払いでギルドに渡しておかないといけないため、俺の個人的なポケットマネーが空となった。
まぁ道中で回収した、Ⅲクリスタルを売って補充しよう。
――そしてやっとクラン拠点へ帰還できた。
長かった、ちょっとトリウィアに依頼するために拠点を出たのに。
いや日帰り予定が1日伸びただけなんだけどな……。
「はぁ」
「ため息にゃあ。お疲れさまにゃあ」
黙って俺の影でゴロゴロしていた、ナウメが慰めてくれる。
影で頭をよしよししてくれるけど、影形態だとあんまり気持ちよくない。
「せっかく名声をガッツリ上げたんだ。ため息はよくないぞ、疲れてる英雄などかっこ悪い!」
トリウィアに言われてしまうがⅨ戦の後だぞ、無茶振りだ。
というかお前、何で真っ二つにされて氷漬けになってたのにそんな元気なんだよ。
『不眠不休』に俺がうずくまっているときのような、精神補正があるのだろうか。
だがたしかに。しゃんとしないといけないな。
無駄にはしないと誓ったのだから。




