43話:100年前に王家が失墜した原因
俺というⅨを狩った存在を、第3騎士団に強く印象づけておくため砦での歓待を断らず、一晩の宴に参加する。
いつか事を起こしたときに味方、せめて敵にならないでくれればいいのだが。
王国軍最強戦力たる第3騎士団が暫定支配領域を離れ王都への援軍として動けば、戦況がひっくり返される可能性がある。
そうなるとトリウィアの超広範囲攻撃などで、彼らを一網打尽に吹き飛ばす必要が出てくるが、それは嫌だ……。
何より彼らが壊滅すればいったい誰が、日夜境界線を守るというのか。
腐敗した王国を潰すのが主目的ではない。
民衆がいまよりも、幸せに暮らせる国を作ることこそが主目的。
だからこそ第3騎士団は事前に押さえておきたい。
立場上表向きは俺たちの味方になれずとも、境界守護を理由に王都への援軍を断り、この場に留まり続ける選択をとってもらうことは可能なはず。
コンコン。
俺は扉を叩き――返事が聞こえたのを確認してから扉を開き、第3騎士団団長の執務室へと入っていく。
「英雄たる彼方の来訪者殿を呼び出す形になってしまい、申し訳ない」
席を立った騎士団長は、開口一番頭を下げてくる。
「構わない、この砦で1番偉いのはあなただ。それに英雄はあなたたちもだ、ルミガ大陸人類圏の守護者第3騎士団。境界線を日夜命がけで守り続ける。俺にはできないことだからな」
「ありがとうございます、ランマ殿」
破顔したガッシリとした体格を持つ偉丈夫と握手を交わす。
「ですが我々では此度の危機は防げませんでした。『襲来する始祖炎霊』の再来を防いでいただいたこと、ルミガ人を代表してお礼させていただきます」
『襲来する始祖炎霊』――ここに来る前トリウィアに尋ねたところ。
100年前に王家が失墜した原因たる大惨劇のことで、眞朱から要点のみを聞いていた話だった。
開拓領域より突如聖女結界を越えて人類圏に襲来してきた、Ⅸ『始祖炎霊』によって王都は人口の過半数を失った。
当時のルミガ王は守護者たる神獣『山羊の悪魔』に、助けを求めたが神獣は従わず。
王に神獣への命令権がないことが明らかとなるだけだった。
結局『始祖炎霊』がルミガ王を殺そうとしたことで、ようやく動いた『山羊の悪魔』によって討伐され惨劇は終息。
そして王を殺そうとしないかぎり神獣は何もしないと知った、悪臣たちは多大な犠牲の責任を追及。
ルミガ王家は力を失い、悪臣たちが政治を牛耳る国となる。
焼け落ちた王都復興の労働力確保を名目に、亜人種のルミガ国籍剥奪と狩りの許可、奴隷制度。
許されざる悪法が制定されていき、現在の腐敗へと繋がる。
「……名前を聞いていいか?」
第3騎士団の団長を知らないわけではないが、名乗りあったことはない。
「失礼しました。名乗りが遅れましたが、私はルミガ王国第3騎士団団長、剛剣のロベルト。アニマ位階はⅦです」
「俺は『光の意思たち』の彼方の来訪者、紅き聖弓のランマ。位階はⅧ」
お互いに名乗り、ふたたび握手する。
俺の所感だと、この男は信用できそうだが……わからない。
まともな男だからこそ、騎士としての使命感を強く持ち。
どれほど国が腐敗してようと革命を許すことはできず、王と国への忠誠を最優先しても不思議はない。
……その微妙な心の機微を読み取れるほど、俺は人間観察に優れていない。
危険が少ない普通の交渉はクランマスターの眞朱が1人で。
特殊な交渉は眞朱と友方に、俺か直樹が武力兼友方ストッパーとして同伴。
それが交渉時の基本スタイルだった。
……俺1人で判断して、この場で話を持ち出すべきではないな。
俺は第3騎士団長ロベルトとの会話を無難に終わらせた――。
――そして翌朝トリウィアとともに、王都ラプロンへと帰還する。
「クラン拠点を案内しよう」
「それは後でもいい。まずは冒険者ギルドでクリスタルの鑑定証明と、クエストの発行をしようじゃないか」
鑑定証明はわかる、俺も案内した後で行こうと思っていたからな。
「クエストの発行って何をするんだ?」
「『始祖氷狼』のクリスタルを『固有魔導具』化する職人を探すのさ」
「……トリウィアなら作れるんじゃないのか?」
彼方の来訪者とⅨ、どちらの方が難しいのかは知らないが。
「公募の方が話題性が増すだろう? クエストを発行すれば王都だけじゃなく大陸中の冒険者ギルドへ伝えられる」
なるほど、Ⅸのクリスタルがあるということは討伐者もいる。
『始祖氷狼』を狩った、俺の名声はまたたく間に大陸全土へ広がるだろう。
「さらに『固有魔導具』化失敗時の罰金を取らない条件で出せば、大量の応募があるはず」
「それはダメだろ……無駄にするわけにはいかない。変な奴には任せられない」
「話題性を広げるための建前というやつだよ。私も応募しておく。私以上の適任がいなければ私が作る」
「出来レースは好きじゃないな……」
「実力で決めればいい、言ったろ私以上がいなければと」
「お前以上がいるのか?」
少なくとも100年は生きているんだろう。
「私は専門家というわけではないからね。あくまで夢のために研究している手段にすぎない。6本指のローゼンは年下だが私以上の実力を持っていただろう?」
『麒麟槍』を作ってくれた爺さんの名前を出すトリウィア、知り合いだったのか。
しかし実力の話をされても俺にわかるのは、爺さんが人類有数の職人だったということぐらいだ。
「オッケー、わかった。クエストを発行してみよう、凄い奴が来なかったときは頼むぞトリウィア」
「任せなさい」
トリウィアは自信たっぷりに、小さな胸を片手でトンと叩く。




