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41話:聖盾の癒やし手リタ

 ――氷狼によってもたらされていたエリア変化がもとに戻っていく。

 満月は消え去り夜が明ける。荒れ狂う吹雪も静まって世界に光が差し込む。


 そして全身に力がみなぎる、超発光。

 どこまで取り戻せるかは大きな賭けだったが――感覚は交戦前と同一。


 (クィーンクェ)より(オクトー)への再飛翔を果たす。


 そして『始祖氷狼(ハティ)』を狩った、その証明。

 『始祖たる魔物(オリジン・ワン)』の(ノウェム)級クリスタルが空より落ちてくる。


「狩った、勝ったぞッ!」


 うずくまった状態から起き上がり、クリスタルをキャッチ――快哉を叫ぶ。


(見事です、ランマ)


「主さまー! にゃー!」


 リタの声が脳内に響くと同時、影が氷狼にも劣らぬ速度で俺へ飛びかかってくる。


「うわっぷ」


 瞬時に白黒の巨大猫形態となったナウメを抱き止める。モフモフ。


「ハティにゃんの気配が消えたにゃ、倒したにゃ?」


「あぁ勝ったぞ」


 『始祖氷狼(ハティ)』のクリスタルを掲げる。


「さすが主さまにゃ!」


 ペロペロ舐めてくるナウメを撫でながら、聖弓に声をかける。


「リタって呼んでいいよな?」


(えぇ構いませんよ。――思い返せば名乗っていませんでしたね)


 リタは名乗る間もなく聖弓へと転生したからしょうがないが。

 これまで聖弓に意識が残ってないかと何度も声をかけたが返事はなかった。


(私は……いまとなってはもとですが、七線級クラン『偉大十字(グランドクロス)』聖盾の癒やし手リタです、冒険者をしていました)


 ルミガ大陸に現在3つしか存在しない七線級クラン『偉大十字(グランドクロス)』。

 麒麟(きりん)のクリスタルを持つ彼方の来訪者(エトランジェ)の俺が、麒麟討伐はリタのパーティーが瀕死にまで追い詰めたから。

 そう証言したことで、人類に敵対的な(ノウェム)級討伐の栄光を得たクラン。


 しかし『偉大十字(グランドクロス)』最強のパーティーが麒麟戦で全滅した影響は大きく。

 線級降格にこそならなかったが、七線級クランでは最弱といわれている。

 ――それでも六線級とは一線を画す力を持っている。


「それでリタ生きてたのか? 人間に戻る手段はあるのか?」


「主さまは誰と話してるにゃ?」


 ピカーン。

 青き光を放ちながら聖弓の形が崩れていく。


「にゃんと驚き」


 ――そして青き光が人型となり幽霊のような像を作る。

 その姿は間違いなく、2年前に見たリタのものだった。


「この姿は思念体、私はすでに人ではなく聖弓です。(ノウェム)があらゆる物理を塗り替えようと、死者蘇生だけは叶わない。それが絶対真理『偉大十字(グランドクロス)』の理念です」


 自分はすでに死んでいると、強く念を押すように紡がれる言葉。


「この世界でも死者蘇生は絶対無理なのか……?」


 (ノウェム)のナウメに問いかける。


「前例は知らないにゃ。それに――死者の蘇生が成されたとき『神々の黄昏(ラグナレク)』は発動し愚かな世界は流転する――『最古の彼方の来訪者(エトランジェ)』が最期にそんな言葉を残してるにゃ」


「はい、それこそが。死者蘇生を絶対の禁忌とする『L・O・D(クライシス)教』の始まりであり、『偉大十字(グランドクロス)』はその信徒クランです」


 生命(アニマ)がクリスタルとして残る世界だ……もしかするとクリスタルから死者蘇生も可能かもしれないと、少しだけ思っていた……無理か……。


「ですから……私の状態も望ましくありません。死者が意思を持つなど……」


「それでも俺は嬉しいよ。また話せて、名前を聞けて」


「……まだお礼を言っていませんでしたね。彼方の来訪者(エトランジェ)『うずくまる』のネコジマ ランマ。麒麟を討っていただいて、ありがとうございます」


 ――柔らかく微笑むリタは神秘的で美しかった。


「麒麟はいっしょに討ったんだ、俺の方こそありがとう。麒麟を倒せたのも、それからの冒険もずっと助けられてきた」


 手を差し出して、実体なきリタの手と重ね合わせて握手する。

 ――温もりは感じずとも、伝わる想いは必ずある。


「……『偉大十字(グランドクロス)』の信徒として望ましくはありません。ですが……悪くないですね、死後の先で言葉を交わせることも」


「……いつまで話せるんだ? その幽霊みたいな思念体は、ずっと保っていられるのか?」


 答えは予感しているが、それでも尋ねずにはいられない。


「――長くは持たないでしょう、いまの状態はランマが(オクトー)という規格外のアニマを、魔力に変換するため聖弓に捧げた影響だと思われます。これまで私に意識はありませんでしたから」


「……そうか」


 ……魔力を使わなければ保てたのかもしれないが、『始祖氷狼(ハティ)』を狩るため惜しみなく使ってしまったからな。

 ――待てよ、もう1度捧げれば!


「それはダメですよ、ランマ。意思を得た瞬間からあなたの考えていることや、これまでのことが感覚的にですが伝わって来ています。アニマを下げてはいけません、成すべきことがあるのでしょう」


 たしかに革命では何が起こるかわからない、弱くなるなど愚行といえる。

 もとの位階にまで戻れたのは偶然にすぎない。

 ――狩った獣に誓ったのだ、無駄な真似は許されない。


「それに私の現状は信仰的に微妙なところなんですよ。下手したら『L・O・D(クライシス)教』から背教者として狙われちゃいます」


 たしなめ諭すように、同時に茶目っ気を感じる声と表情で言われてしまう。


「ですから最後の魔力を使い切り、ふたたび眠りにつきましょう。まだ助けられる仲間がいるのでしょう?」 


 そうだ、俺が退かずに戦ったのは、真っ二つにされて氷漬けになったトリウィアを助けるため。


「ナウメ、トリウィアを出してくれ」 


「はいにゃ」


 影モードになったナウメから、ニュヌヌと氷漬けの肉体が出てくる。


「狩っても氷は解けないか」


「溶かす必要があるにゃ。(ノウェム)の氷結一筋縄ではいかないにゃ」


 それでも現地人類最高峰のヒーラーであるリタならば。


「私に任せてください」


 俺は氷漬けのトリウィア下半身に、トリウィア上半身を乗っけた。


「頼む、リタ」


 死者が生き返らずとも、トリウィアは『不眠不休』のほぼ不老不死。

 まだ死んでいないのならば、氷を溶かせばどうにかなるはず。


「はい――『キュア・リカバリー』」


 氷に触れるように当てられた、思念体の透ける手から青き魔力が迸り。

 見る見る間に(ノウェム)の氷が溶けていく。


 無論『始祖氷狼(ハティ)』を狩っていればこそだろう。

 それでも並大抵のヒーラーにはできなかったはず、さすが二つ名持ち。


 ――聖盾の癒やし手リタ!

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