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3話:吹き矢でござる

「2人に渡しておくでござる。拙者謹製の吹き矢でござる」


 毒島(ぶすじま)から1メートルほどの筒と6本の矢を渡される。


「これはどのぐらいのペースで作成できるんだ?」


 受け取った筒を眺めながら尋ねる。こういう武器って、ちょっとワクワクするな。


「作成は一瞬でござるが。その後しばらく作成できない時間があるでござる。体調や作る吹き矢の大きさによって変わるでござるが、この筒だと1本作ると6時間は作れなくなるでござる。矢は1本1時間程度、量産が効かぬゆえ無駄遣いはせぬように」


 やはり外れスキル扱いされるだけはある。筒の方はともかく。

 矢は遅すぎる。数が重要になる消耗品を量産できないのは致命的だ。


「無駄にするなといわれても、練習なしで当たるのか?」


「練習なしでは厳しいでござるな……吹き矢は見た目より難しいでござる」


「そうか、あぁ使った矢を再利用して練習できるか!」


「……拙者が作る矢の先端強度はお世辞にも頑強とはいえず、何かに当てれば再利用は厳しいでござる」


 ……その程度の強度だと威力は……。


「なぁこれさ……魔物に刺さるのか?」


「……持っていった探索班は、魔物に刺さらなかったと言っていたでござる」


 まあそうだよな。使えるスキルなら追放されてないわけだし……。


 吹き矢は地球だと狩猟に使われていた、実戦的な遠距離武器だったはずだが。

 相手が魔物で破壊光線とかある異世界じゃ、豆鉄砲もいいところだろう……。


「毒島君、私1本試し打ちするね」


 フー……ポト。

 物集(もずめ)が近くの木めがけて吹き矢を撃ったが、矢は途中で失速し地面に転がった。


「……毒島君この筒壊れてない?」


 いや、いまのはお前の吹き方が優しすぎると思うぞ。


「むう? 貸すでござる」


 毒島は言葉より行動で示した方がいいと判断したのか、筒を受け取って物集と同じ木めがけて筒を構える。

 フッ――プス。


「上手いな毒島」


 矢は10メートルぐらい離れた木の幹に、見事命中し突き刺さっている。


「私の使い方がダメなのかぁ……」


 しょんぼりと肩を落として沈む物集。

 あの優しい吹き方、本人は真剣だったのか。


 一方毒島はなぜか肩をブルブル震わせている。


「どうした毒島?」


「…は…め……ざった」


「はぁ、なんだって?」


 声が震えていてよく聞こえない。


「初めてでござった……」


「何だお前、いまの偶然だったのか」


「違うでござるッ!」


 突然の剣幕。どうした悪いキノコでも喰ったのか?

 いや……まさか、さっきの葉っぱか? 大量の食用はダメだったのか?


「おい大丈夫か毒島? 早く吐いた方がいいぞ」


「拙者初めての間接キッスでござったのに。その相手グァ! 相手が男ッ!」


 ……はぁ? 人が真剣に心配したら馬鹿らしい大損だ。

 この公然わいせつキノコ野郎!


「はぁ。別に男同士ならノーカンでいいだろ?」

 

 ため息をつきながら、ぞんざいに答えてやる。


「相手が猫島(ねこじま)殿だったならばさもありなん。しかし相手が美少女にしか見えぬ物集殿ならばノーカンにはできぬでござる!」


 俺相手……いかん。間接どころか直接をイメージしてしまった。吐きそう。


「されど拙者、衆道は嗜まぬゆえ。いかに物集殿が美しかろうと、喜ぶわけにはいかぬでござる。よって男にファースト間接キッスを奪われた慟哭でござる」


「気持ち悪いよ毒島君。私の吹き矢新品作り直してね」


 基本的に優しい物集が、汚らわしい男子を見るときの女子の視線で毒島を見ている。


「キモいのは髪型と口調だけにしろ。思考までキモくなったらおしまいだぞ」


「ござるぅ。お二方拙者への当たりが強くござらんか?」


 ――クラスの奴らが浴びせていた罵詈雑言を思い返して比較すれば。


「……マシな方だろ」


 地球にいたころも、ウザさの友方、キモさの毒島とクラスの嫌われツートップだったからな。

 毒島への俺と物集の対応はかなり優しい部類だ。


「毒島君は因果応報とか自業自得って言葉好きそうだけど?」


「おお、よくわかるでござるな。拙者の好きな言葉たちでござる」


「当たりの強さを嘆く前に、鏡を見た方がいいよ」


「ひゅー」


 口笛を吹いた。物集ちゃんってば、どっくぜつ~。


 激苦い葉っぱを食べて吐かなかったガッツにしろ、可憐な見た目と女言葉からは信じられないほど男らしい奴だ。――それでも女にしか見えないけど。

 だが地球にいたころから女扱いされてからかわれるたびに、私は男だと主張しているのだから。

 友達として、物集のことを女のように扱ってからかうことはできない。


「たしかに鏡を見たいでござるな。ポマードも欲しいでござる。地球では毎朝セットしていた拙者の髪も輝きを失っていることでござろう。……笑われるのもやむなしでござる」


「ぶっは」


 抑えきれずに吹き出してしまった。


 地球でのキノコヘアーのテカテカツヤツヤ、あれ毎朝ポマードでばっちり決めてたからかよ!

 マジで公然わいせつ罪じゃねーか。

 ……勉強できることが頭のよさとイコールではない。実例サンプルだな。


 物集は言葉なく、ジト目を奴の頭に向けている。


「猫島殿、人の崩れた髪を見て笑うのはマナーが悪いでござるよ」


「ま、ママママナー」


 プッーハハハハ。アーハハハハッハ。

 おまいうでヤバい。ツボに入った。


「プッークスクスククス」

 

 俺に釣られたのか物集もクスクス笑いだしたぞ。


「何でござるか! もう知らぬでござる!」


 顔を真っ赤にした毒島はスタスタ歩いて行った。

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