38話:始祖氷狼クラスⅨ
「どうだナウメ君、私は『大陸を分け隔つモノ』に届くかな?」
爆炎をニヤリと眺めながら、トリウィアが俺の影へと問いかける。
「無理にゃね。このぐらいじゃ鱗1枚削れないにゃ」
「マジかよ……」
俺は驚愕を漏らす。どんだけ強いんだ究極傑作。
「そうか、やはり夢はまだまだ見果てぬ先にあるな」
トリウィアはまるで気落ちせず、清々しい顔で納得したように首肯する。
よく挑む気になる普通諦めるだろ。
「それで肝心の『始祖氷狼』はどうなんだ?」
「Ⅸは遠視が難しいからにゃ――やっぱり見えないにゃぁ」
ふわりふわり――――爆炎に雪が降る。
ダメージは不明だが、討伐はできていないようだ……。
「生きてるようだにゃ」
降り注ぐ優しい雪が天を穿つ爆炎を、またたく間に凍らせ砕いていく。
砕け散った氷片が常人ならば絶命の槍衾となって降り注いでくる。
俺は『うずくまる』で防ぎ。
「にゃははは」
ナウメは影モードで氷の槍をすり抜けて。
「『ファイアウォール』」
トリウィアは炎の壁を魔法で作り、氷槍を溶かして受け止めていく。
三者三様の防御手段、そして――。
「ワオオオオオオオオオオオオオン」
遠方より、天へ吼えるような遠吠えが聞こえた刹那。
――炎の壁が消え去り。
「むむむむ、さ、寒い」
「にゃうん。にゃんでも寒いにゃぁ」
うずくまっている俺は何も感じないが、トリウィアは歯をガチガチ震わせている。
そして驚くべきことに、たいていの状態異常を無効化できると言ったナウメですら寒いというのだ。
世界がどれほど豹変したのか、感じるため起き上が――『うずくまる』。
少し起きて、即座にうずくまり直した。ヤベーぞ。
「ッ何だよ、いまの寒さ!」
雪に触れてもいないのに、一瞬で凍結してしまいそうだった。
このエリアそのものが、絶対零度と化したような感覚。
「あぁっぁぁ『ふぁふぁふぁふぁふぃっっっぃいぃるど』」
声を震わせながら暖を取るための魔法を発動しようとするトリウィア。
「どうした? 何も起こってないぞ!」
「ダメにゃね。このエリアの物理法則が塗り変わってるニャ。魔法だろうと火は起こせにゃい」
何だと……氷の弱点ともいえる火を根本から封じるのか。
「ワオオオオオオオオオオオオオン」
遠吠えが近づいてきた――。
うずくまりながら聖弓を手に持ち起動。
弓の魔力温存なんて考えない、全力で視力を強化する。
『始祖氷狼』
――その名が示す通り、氷の体を持つ狼が高速で白銀世界を駆け抜けてくる。
「逃げろトリウィア! お前不老不死でも無敵じゃないんだろ」
寒さで震えてることからも明白。
「むむむりり。あああししがうごかなななない」
ダメだ完全に寒さで硬直してしまっている。
「来るにゃ」
ナウメの警告直後『始祖氷狼』が氷の尾を伸ばしながら俺たちを横薙ぎに払う。
音を置き去りにした神速の一撃。
うずくまる俺は絶対防御、よって無傷だが――。
「ッぁ」
トリウィアが胴体から真っ二つとなり、分かたれた体は瞬時に氷漬けとなる。
「ナウメ! トリウィアを拾ってくれッ!」
「にゃい!」
にゅおーんと俺の影が伸びていき、トリウィアの体を両方とも回収する。
『始祖氷狼』が飛び上がり尻尾を俺に叩きつける。
――その後跳躍して一度距離を置き。
「ワオオオオオオン」
咆哮とともに口から氷の嵐を放ってくるが――。
うずくまっている俺にダメージはなく、体が凍結することもない。
「ッ聖弓リタアロー! 全力で撃つ!」
温存なしの最大出力で『青き魔法の矢』を、氷狼の開いた口めがけて放つ。
俺の意志で軌道を操れる魔法の矢――氷の嵐との衝突を避けるため、曲線で矢を口へ突っこませる。
「ガウォン」
氷狼は口を閉じ、俺の最大火力を軽々粉砕する。
――やはりダメか。
麒麟討伐後も聖弓は、私を差し上げるというリタの言葉どおり、俺に力を貸し続けてくれている。
だが現在の出力は麒麟に流血させたときとは、比べものにならないほどに落ちている。
あのときの火力は、リタがアニマのすべてを魔力と変えた直後だったからこそなのだろう。
現状でもⅥの竜を一撃で屠れる出力なんだが……。
さすがにⅨ相手じゃ厳しい。
「ナウメ、分が悪い。ここは退こう」
「退くのはいいけどにゃ。ハティにゃんを倒さないと、トリにゃんは解凍できないと思うにゃ」
何……だと……?
おいおいおい、そもそも俺がここに来た理由は『固有魔導具』を作ってもらうためだぞ。
本末転倒はなはだしい……。
……トリウィアはクランの仲間になった。
――氷漬けのまま、仲間を放置するなんてできないだろッ。
「前言は撤回だ。ここで『始祖氷狼』を倒す! 力を貸してくれナウメ」
うずくまりながら宣言する。
「にゃは! 了解にゃー! それじゃいくにゃ」
俺の影が氷狼に向かってニュルンと伸びていく。
反応した氷狼が尾を振り、影形態のナウメと交差。
――Ⅸ同士の衝突どうなる?
「にゃ! ダメにゃ!」
影が即座に戻ってくる。
「どうした?」
「ナウメ島に干渉してきたにゃ。猫にゃんたちが寒くて震えてるニャ……」
!? 一大事じゃないか!
「この寒さはマズいだろ。みんな無事なのか?」
「にゃんの眷属だからセーフにゃ。けど暖めないと危険かもしれないにゃ……」
「……そうか。ナウメ1度距離をとってろ。俺が削ってみる」
ナウメに後退の指示を出す。
「ここ遠視は難しいからにゃ。退くときは空に矢を放ってにゃ。迎えに来るにゃ」
そしてナウメは体内の亜空間にある、島の猫たちを暖めるため離れていった。
退く気はないが残るは俺だけか。
――俺にも切り札のひとつぐらいはある。
だが現状で使おうと『始祖氷狼』を倒せる気がしない。
完全な無駄遣いになる気がする。




