35話:いやもういいよ。クランに加入する
「まさか! 神獣を使役していたとは! なるほど王国相手でも勝算は十分あるわけだ」
「待て、勘違いするなトリウィア。俺はナウメ頼りで革命する気はないぞ」
「頼ってくれていいのにニャ。けどバフォにゃん相手だと、にゃんでも抑えるのがやっとにゃよ」
「いま私の興味は神獣にある。――ナウメ君、よければ教えてくれないか、神獣王の究極傑作『大陸を分け隔つモノ』について」
こいつ真剣そうな問答を途中で放棄するのか!?
「まだ問答の途中じゃ――」
「いやもういいよ。私は『光の意思たち』に加入する。革命にも力を貸そう、失敗したらともに死のうじゃないか。――それで『大陸を分け隔つモノ』についてなのだが」
この銀髪少女! あの深刻な会話は何だったんだよ!
「にゃんもあんまり知らないにゃ」
「知識は本人が無価値と思っていても、他者からすれば価値が生じるものだよナウメ君」
「そもそもヨルムにゃんは意思疎通できないからにゃ、話したこともないにゃ」
「それだよ! 神獣同士だろうと意思疎通できないという情報。私が知らなかったことだ」
「うーんにゃ? 父は意思を与えると、ヨルムにゃんが可哀想だから与えないと言ってたにゃ。ずっと海を遮っているだけじゃ退屈にゃよね」
……たしかに意思があれば麒麟がおかしくなったように、狂っても不思議じゃないな。そうなると世界の滅びだ。
「素晴らしい。つまり『大陸を分け隔つモノ』の攻撃に意思はなく、すべて本能的な反撃のみ。攻撃に準備時間がかかろうと、一撃の範囲火力を徹底的に高める私の方向性は正しかった」
興奮したのか雪のように白い肌が、ほのかに赤くなっていくトリウィア。
「……なぁ『大陸を分け隔つモノ』って世界を平和にした蛇だろ。何で殺そうとしているんだ?」
現在のルミガ大陸は悲惨だが、それでも当時の戦乱を終わらせたのが間違いだったとは思わない。
「ふふふ! そうだね。クランの仲間になったんだ。とっておきのお宝を見せてあげよう!」
テンション高くトリウィアが指を鳴らすと、巨大な何かが部屋に出現する。
「何だこのデカいのは」
ぱっと見でも俺の5倍以上はある。
赤い、これは……鱗か?
「『大陸を分け隔つモノ』の鱗の1枚だよ! 凄いだろ!」
「にゃは! ヨルムにゃんの鱗を剥ぎ取るなんて凄いにゃ」
ナウメが感心したように言う。つまりそれほど難易度が高いことなのか。
「あぁいや私は北の海岸で拾っただけなんだ。私の攻撃じゃ、かすり傷もつけられなかったよ」
「にゃーんだ」
「それでもこれは画期的な成果だよ! 六戦級クランが総出で挑んでも、鱗1枚剥ぎ取れぬまま壊滅したこともあるのだから!」
「それいつ拾ったんだ?」
「む、まさか心当たりがあるのか? まさかキミかね?」
「いや、俺たちが挑んだことはない」
「拾ったのは3ヶ月前かな。月に1度は観察に行く、そのとき拾った物だ」
たしか姫宮は木村が諸鍛治を連れて、北の大陸目指して大陸越えを試みたと言っていた。
木村の『破壊光線』でやったのだろうか?
だが世界を塞ぐ大蛇の鱗を1枚剥がした程度じゃな……。
……木村と諸鍛治は、大陸越えに失敗して死んでる可能性が高いな。
――ずいぶんあっけないものだが、月島というブレインをなくした馬鹿の末路だろう、ざまぁない。
「それで心当たりは?」
考え込む俺に、小さな体をテーブルに乗り出し興奮しながら聞いてくるトリウィア。
「ないな、ただ俺らは40人でこの世界に転移した。『光の意思たち』の5人以外が天星スキルで壊した可能性はある」
「40人!? 歴史上最大の数ではないか。キミたち以外の話はまったく聞かないが?」
「あぁひっそり辺境で生きてたみたいだからな。……国上層の屑なら何か知っているかもしれないが……」
「なぜ国の上層が知っている?」
「クラスの一部……女子たちが、奴隷として裏社会に売られたらしい」
「……彼方の来訪者がそう容易く隷属するのか?」
疑問を浮かべるトリウィア。
「一部の戦闘員以外はⅠで、天星スキルの力を引き出せていないはずだからな」
転移後森の中に拠点を作ったとき、女子はすべて拠点班となった。
魔物との戦闘で使えそうなスキル持ちもいたが、それでも探索班は戦闘スキルを持った男子のみと、クラス投票で決まったためだ。
俺たちを追放した後も女子たちが戦わなかったなら、全員Ⅰのはず。
そうなると高ランクの天星スキルを持っていても、本来の性能を発揮できない。
「それでも彼方の来訪者はすべて例外なく強いと思っていたが――同時転移人数が関係している? いやこの推測だと、キミたちの強さとかみ合わないか……」
Ⅰ《ウーヌム》でも強力な『うずくまる』『破壊光線』『告げ口』なども存在するが例外だろう。
SS級の『極小貫通孔』やA級の『物拾い』が、最初は微妙な性能だったし。
現地権力者の奴隷にされても抗うのは難しいはず……。
そういえば姫宮はどうやって売られた後、俺たちのところへ来たんだ?
……たしか異様にやつれていたな。――ッ姫宮がクラン拠点へ来る以前に、不審死か失踪している権力者はいないだろうか?
悪はつるむ。交友関係を洗えば、女子の行方に近づける可能性があるぞ!
「――! 拠点に帰る。トリウィアも行くぞ、部屋はあるッ」
思案顔の銀髪少女に声をかける。
喋っているときは年上に思えるが、頬に指を当て考えこむ姿は完全に年下の少女だ。
「――待て、帰還には早い。せっかくここまで来たんだ、英雄の凱旋にしようじゃないか」




