33話:光の意思たちの目的
「いや、違う。頼みは『固有魔導具』の作成だ」
トリウィアに目的を切り出す。
「珍しいクリスタルでも?」
「あぁ……俺を知っているんだ。死告のトモカタも知っているな? ……あいつのクリスタルだ」
「……私は彼方の来訪者のクリスタルをイジったことはないよ。見たことすらない」
「これだ」
服の内側より取り出した、トモカタのアニマクリスタルを手渡す。
「ふむ……大きさはルミガ人のⅣ級と同じぐらい。だが透き通り方が魔物ともこちらの世界の人類とも少し違うね」
光に透かして見ながらトリウィアが言う。
「そうなのか?」
俺はクリスタルに関して詳しくない。
……そもそも人間が残したクリスタルを見るのが、あまり好きじゃない。
こっちの世界の人類にはまるで理解できない感覚のようだが、日本人ならわかってくれる奴は多いだろう。
そして日本人なら人間が残したクリスタルを加工するというのも、受け入れがたいだろう。できれば俺もしたくなかった……。
「あぁ、普通はわからない変化だろうね。わかりやすく見せるには――そうだな」
トリウィアが指を鳴らし銀色の魔力を放つ、すると部屋が真っ暗になる。
光源は彼女が持つ、クリスタルの白く淡い光のみ。
「さて、クリスタルが白く発光しているだろう? この輝きはサイズ、すなわちアニマの格で発光量が変化するだけで、種類によって色が変化することはない」
サイズで発光量が変化するぐらいは俺も気づいている。
「だが――」
パチンと指を鳴らした音が聞こえ、テーブルの上に発光するクリスタルが2つ出現している。
発光量からすると、すべてⅣ級だろう。
「キミから見て左が魔物。右がルミガ人だ、真ん中に彼方の来訪者のクリスタルも置こう」
同格3種のクリスタル――混ざったら俺には見分けがつかなくなるな。
「さて、後はクリスタルの反応を見るために、私が作ったオリジナルの魔法を使う――『ワンダーレクイエム』」
トリウィアがパチンと指を鳴らすと、銀の魔力光が部屋に波のように広がる。
「ッこれは」
銀の波に撫でられた、3種のクリスタルの内側に風景が浮かび上がる。
友方の風景は――大きな暖炉、ソファー、カーテン。これは日本の家屋だ。
ルミガ人の方は――血、血、血、辺り一面が血だらけの不吉な風景。
魔物の風景は――いっさいの不浄を感じない聖なる湖。
「これはいったい?」
「それぞれの心象風景。魔物はみんなそれが映る。まぁ『始祖たる魔物』のは見たことないけどね」
「現地人の風景はなんでこんな……?」
「それは、大量殺人犯のクリスタルさ。50年ほど昔だが1000人は王都で殺した奴だよ」
王都で1000人!? いくら選ばれし者の領域、Ⅳ級とはいえ多いな。
かなり強力な天星スキルを持った選ばれし祝福者だろうか。
「……行ったことは1度もないが、友方のは地球の自宅だと思う……」
地球にいたころ、家に大きな暖炉があると大声で自慢していたのを思い出した。
「なら自宅が、彼のもっとも深い心象風景なんだろうね」
…………。
俺は何が映るんだろうか? ……地球の家が映ることはないだろうな。
「それぞれ違うのはわかるが、これは種類じゃなくて個の違いじゃないのか?」
「クリスタルに浮かぶ風景の外枠。その色に目を向けるんだ」
? ――言われてからよく見ると。
魔物は青い外枠の内側に湖が映り。
友方は白い外枠の内側。ルミガ人は緑色の外枠。
「魔物は青、この世界の人類は緑になる、これまで例外は見たことがないな」
なるほど、これが違いか。
やはり俺たち彼方の来訪者は、根本的に何かが違うんだな。
「神獣は?」
「見たことないね」
「それでこれには、どういう意味があるんだ?」
「意味や理屈はわからない。ただ発見しただけの知識さ」
これ俺にわざわざ見せる意味はあったのだろうか?
……少しノスタルジックになってしまったんだが……。
「……それで『固有魔導具』にはできそうか?」
「経験がないから、わからないとしか答えられないね。言っておくが失敗時の責任はとれないよ」
「ほかに当てがないから頼みたい。失敗しても責任は求めない」
「それなら任せるといい、私としても非常に興味深い頼みだ。あるいは夢のヒントが見つかるかもしれない」
夢か、出会い頭になんかとんでもないことを叫んでいたな。
「それで成功報酬はいくらだ?」
失敗時ではなく成功時の話もしておこう。
「うん? はは、いらないよ。クランメンバーからの頼みじゃないか!」
「クランメンバーだと? お前『光の意思たち』だったのか!?」
いつの間に加入していたんだ、誰にも聞いてないぞ。
「おや、私は『光の意思たち』への加入を前提に話していたんだが、違うのかい」
「……何で?」
「死告のトモカタだぞ。歴史には彼方の来訪者のクリスタルには、天星スキルの残滓が残っていた記録もある。私個人で守れるとでも? キミは私に暗殺されて死ねというのか?」
だからこそ戦闘力も備わっている職人を探していたのだが。
……たしかに『告げ口』の残滓を求めて、ルミガ王国の暗部が本気で動く可能性もある。
俺か直樹以外に守り抜けというのは、無茶振りかもしれない。
「悪かった、正直そこまで考えが回っていなかった。……さっき正義は成せているかと聞いたよな」
俺たちが成そうとしていることを考えれば、巻き込んでもいいのかと二の足を踏んでしまう。
ほかに行く当てがない、解放した奴隷たちとは違うんだ。
秘密にしたまま加入はダメだろう。関われば責任逃れは不可能なのだから。
「『光の意思たち』は――革命を考えている」
俺はクランが持つ秘密の目的を、初めて外部の人間へと教えた。




