32話:無尽のトリウィア
「――――爆発! 爆炎! 私には夢がある! 『大陸を分け隔つモノ』を殺す破壊の炎を放つ夢が!」
「は?」
どこからか少女のような声が聞こえてきた。どこだ?
うずくまりながら視線をさまよわせるが誰もいない。
「いくぞ! 巻き込む! そのまま起き上がるなよ、彼方の来訪者。――『魔砲弾発射』」
ゴオオオオオオオオオ。
何かが飛来する音――真上か! 少し後退して、うずくまりながら視線を上に向けた。
銀色に輝く光の足場が中空に浮かび、大砲を構えゴーグルをつけた小柄な少女が立っている。
――砲弾が紫の蝶々舞う花畑へと落ちてくる。
ドゴオオオオオオオオオオオオン。
「にゃははははは。大爆発にゃあ」
「ッあいつか? 探し人は」
ゴオオオォォォォォォ………………。
魔法の爆炎は長引くことなく鎮火していく。
後に広がるのは焼け焦げた花畑。
そして魔物たちのクリスタルのみ。凄まじい範囲火力だ。
「これは想定より火力が低いな」
空から降りてきた銀髪ショートカットの少女が、ゴーグルを外し首へかけながら言う。
「……これでか」
「私はもとの荒野に戻すつもりで放ったからね。花の残骸が残っているのでは想定以下だろう?」
俺が聖弓で放つ『青き魔法の矢』を、範囲全体のダメージ総量ならば上回る一撃だった。十分すぎるだろ。
「まあいいさ。――それで彼方の来訪者がなぜここにいるんだい?」
「あんたがトリウィアか?」
違うなら遭遇はただの偶然となる。
「いかにも、無尽のトリウィアだ。よろしく紅き聖弓のランマ」
二つ名持ち。やはり天星スキル保有者、選ばれし祝福者か。
「俺のことを知ってるなら話が早い、トリウィアに頼みがある」
小さな体躯の赤き目が、俺を値踏みするように射貫いてくる。
「ほう? 彼方の来訪者からの頼みとは興味深い、話を聞こうか」
……見た目は12歳前後の少女だが、何となく俺より年上だと感じる。
女に年齢を尋ねるのは、この世界でもマナー違反だよな。
「あぁじつは――」
「まぁ待て、家を用意する」
片手を上げて俺の発言を制し、腰のポーチから四角い箱を取り出す。
それを少し離れた、花畑の残骸へと放り投げた。
ヒュオン――四角い箱が開くと同時に一軒家が出現する。
『量産魔導具』にこんな代物は存在しないはず、十中八九『固有魔導具』だろう。
自作なのだとしたら、『魔導具職人』として期待できる。
「さて、キミは紅茶とコーヒーどちらが好みかな?」
言いながらトリウィアは家の入り口へと歩いて行く。
「朝一はコーヒー。それ以外ならどっちでも」
トリウィアの後に続き、開拓領域に突如出現した家へと入る。
「では、紅茶を用意しよう」
招かれたリビングの椅子に座り、行儀よく家の主を待つ。
……この『固有魔導具』欲しいな。
広すぎず狭すぎない木造のログハウスを、瞬時に作り出すなんて夢の道具だ。
「待たせたな。先ほどの紫魔蝶のクリスタルを隠し味に使ったぞ」
……クリスタルの大きさ的に、あの魔物はⅢ級だと思うが隠し味に使うとは贅沢な使い方だ。
紅茶の見た目は毒々しくなってはいない。が美味いかは別の話。
「いけるな」
苦味は感じず――サラリとして飲みやすかった。
もっとも素の紅茶を飲んでいないので、隠し味の影響はわからないのだが。
「だろう? やはり料理の隠し味にはクリスタルが最高だと思わないか」
ナウメが回収していたのも餌の味付け用途。
「……Ⅲは贅沢すぎる」
「そうかい? 一般人ならⅠだろうと贅沢さ。キミは五線級クランだろう、Ⅲをおもむきに使う余裕もないのかい」
「うちは事情があって火の車だ」
いや、そもそも普通ないだろ。
魔物だろうと、アニマクラスがぽんぽん上昇していくわけじゃない。
ⅠとⅢじゃ天地の差。
Ⅲなら、1個で1ヶ月普通に暮らせるぐらいの価値はある。
それを紅茶数杯の隠し味に使うとか普通じゃできない。
金に執着がないか。……王国の上層部ぐらいだろう。
「あぁ、そうか。『光の意思たち』は変わったことをしていたね」
「正義を成す。それがクラン理念だからな」
「正義か。――しかし解放するためとはいえ、奴隷を購入している時点でダメじゃないかね? しかも国から国籍を買っているんだろう?」
痛いところを突く。
「キミたちが買えば商人は喜んで次を仕入れるさ。国籍が高く売れて国も嬉しいね」
その通り切りがない、だが意味はある。
――笑顔で水希と食事をする、もと奴隷のクランメンバーたちを思い浮かべる。
そう、少なくともあの子たちを救うことはできたはずだから――無意味じゃない。
「キミたちは根本的に変えるつもりはあるのかい? それとも現状で正義は成せているのかな」
……いつまでもこれを続けるつもりはない。
直樹は王都に来て合法的な奴隷売買を見たその日から、覚悟を決めている。
肉丸個人に向けられた殺意とは別種の光、国を根本から変えようとしている。
俺たちはそのために2年間活動し続けたんだ。
……だが準備はまだ整っていない。
七線級クランを仲間か、せめて敵に回らないようにしなければいけない。
あとは難しいだろうが、第3騎士団も味方にしたい……。
だが果たしてそんな時間はあるのだろうか?
友方派メンバーたちの様子を思い出す。
王国への敵意と憎しみ。……真実を告げた直樹の言葉で1度は静まった。
だが死の真実と、彼ら彼女らの王国への憎悪に繋がりはなく、何も解消されていない。
そして王都の治安が『過剰な光』以前へと戻りつつある。
……友方が治安回復を考え小悪党どもの、過剰な殺戮をやったとは俺には思えない。
ただムカついたから殺していただけだろうが……。
それでもあの一件で、結果的に王都の治安はよくなった。
クランではあいつの最大成果とされている。
それが無為に帰そうとしている。友方派がそれをどう思うか……。
「だがしかし、私は奴隷やその扱いに興味はないよ。だからキミの頼みを聞かせて欲しいところだ。それとも私が興味ないことが頼みかな?」
――痛いところをいきなり突かれて、本題を忘れていた。




