31話:開拓領域、21区画へと
開拓領域から人類圏を守るための要素は3つある。
そのひとつが暫定支配領域と開拓領域の境界線に沿うように、大陸の端から端まで築かれる巨大な城壁。
いくつかの箇所には門があり、俺は真ん中に位置する第5区域への門から開拓領域へ入ることにした。
数メートルほどトンネルのような門を進んでいくと、半ばのところに人類圏守護第2の要である白い光の障壁――聖女結界が存在する。
「ニャフン」
聖女結界に触れた瞬間ナウメが声を上げる。
しまった、これは人類以外を阻む結界だった。
Ⅸを防げる保証はないと聞いていたが、ナウメでもくぐれないか?
「大丈夫か?」
「ちょっとピリっと来たにゃん。人間でいう静電気ぐらいの感覚にゃん」
……Ⅷの竜でも絶対に通れない結界のはずだが、その程度か。
本気を出せば、世界の物理法則を塗り替える存在Ⅸ。
かわいい巨大猫でおちゃらけていても、ナウメはやはり別格だな。
問題なさそうなので聖女結界をくぐり抜けて、第5区画へと入っていく。
――さて第21区画に行ったことはない、ここからの最短ルートは――。
「ワオオオオオオオオンン」
幾重もの声を連鎖させながら、魔物の群れが現れた。
そう、これが開拓領域だ。こんな場所に住むなんて異常としかいえない。
牙を剥き出しウルフたちが、飛びかかってくる。
こいつらは『魔胎聖湖』から生まれたばかりだな。
多少の経験値があれば、ここに足を踏み入れる人間のことは警戒する。
第5区画の入り口たるここには多少の設備がある。
それらを壊さない程度に、クラス補正による身体強化を抑えながら。
「ハッ」
ブオオオオオオオン。
腕を横薙ぎ、迫る魔物を一息ですべて葬り去った。
魔物の骸は血すら残さず世界へ吸収され、驚く早さで消え去っていく。
後には存在を知らなければ見逃すほど小さい、Ⅰのクリスタルが残るのみ。
――かつて追放された森では誰も落ちたことに気づかずスルーしていたな、精神的に余裕がなかった状況だしな……。
俺は気づかなかった2年前とは違う理由で拾わない。
いまだと、ビーストタイプのⅠ級クリスタルを拾い集める時間的コストが悪い。
ドロップを拾う時間すら効率に含めて考える。それが高位の冒険者。
歩みを進めようとしたら、ナウメが声を上げる。
「拾わないにゃん?」
「あぁビーストのⅠは時間の無駄だ」
「それならナウメ島の猫たちにあげるにゃん」
そう言って俺の影が伸びて、小さなクリスタルを余さず飲み込んでいく。
「……その影の魔法って魔力を使わないのか?」
ぱっと見それで拾って得られるリターンより、魔力消費の方が重そうだが。
「にゃんを産んだ『造魔工房』は、彼方の来訪者である偉大なる父の天星スキルにゃん。基本の3形態なら魔力は使わないにゃ。人間も腕を伸ばすのに魔力は使わないにゃろ」
影形態。巨大な白黒猫形態。まだ後ひとつ形態があるのか――猫耳獣人化とか?
そうに違いない! クラン拠点に戻った後にでも聞こう。
「まさか転移や、亜空間もか?」
「転移は結構使うにゃ。亜空間は影形態の中にあるから維持と取り込む分には魔力は使わないにゃ。出すときはちょっと使うにゃ」
あの亜空間をほぼノーコストで内包する神獣を産みだすとは、『造魔工房』チートすぎる。
「俺はソロのときはⅡまでのクリスタルは基本拾わない。好きにしていいぞ」
「にゃい」
立ち塞がる魔物を狩りながら、21区画へと向かう。
まずは第5区画を進み第14区画へと。
「グモォォォォン」
もはや通常のオークなど相手にもならない。
デブった腹を蹴り上げる。ドゴオオオンン。一撃で確殺。
空中で肉体は世界に吸収されて、クリスタルだけが降ってくる。
「にゃはははは」
それをナウメが回収して島へ送る。
第14区画から第13区画へと移動。
大森林の雰囲気が変化。毒の沼地がドポォドポォと泡立っている。
「ガヒィヒヒヒヒ」
沼地から突如現れ背後からナイフで斬りかかってくるポイズンコボルト。
ガゴオオオン。裏拳で倒す。
「あっあれⅢ級か。毒沼に沈めちゃったな」
「拾ってくるにゃ?」
「いや、いいだろ」
たとえダメージがなくとも、この程度のことでナウメを毒沼に送り込みたくない。
いくつかⅢクリスタルを回収しながら13区画を抜け。
目的地たる、第21区画へと辿りつく。
毒のエリアから一転。21区画には色とりどりの花が満ちていた。
やれやれ、振り返ると毒沼だというのに、すぐそこはお花畑。
前見た資料だと、21区画は荒野エリアだったはずだがなぁ。
黄昏の藍世界のなかでも、開拓領域の物理法則は一際狂っている。地形学が何の役にも立たない。
求められるのはどんな環境にも、即座に適応できる汎用的な強さ。
それは奥深くに入り込むほど強く求められる。
そのため開拓領域を探索する冒険者は、バランスがいいパーティーでの活動が基本だ。
1人で狩り、まして住むなど正気じゃない。
ここが荒野エリアだったときの適正ランクは、Ⅲなら12人パーティー、Ⅳでも3人は必要とされている。
だがその情報すら花畑に変わっている時点でなんの目安にもならない。
「トリウィア……まともな奴じゃないのはたしかだな」
「にゃは。主さまの方が強いんだから、どんな相手でも関係ないにゃ。武力こそ正義にゃん」
「俺は頼み事に来たんだからな。そんな乱暴な真似する気はねーよ」
カリナが『光の意思たち』の俺に紹介したんだ。
変わり者でも悪人じゃないだろう。
リーンリーンリーン。
音が聞こえたのと同時に『うずくまる』を使用。
蝶々のような魔物たちが、鈴のような音を響かせ俺を囲うように花畑を飛び回る。
……紫色の蝶々たち。羽の柄がドクロで禍々しすぎる。
初めて見る魔物だ、どうする? 俺とナウメが負けるのは考えられない。
だが下手に攻撃を仕掛けて、広範囲に猛毒を散布されでもしたらたまらない。
目的の人物が巻き込まれかねないからな……。




