30話:おっはようにゃーん
クラン拠点で一晩を過ごし、翌朝ナウメに起こされ目が覚める。
「おっはようにゃーん」
実体化しており巨大な白黒猫が、俺の顔をふわふわの舌でペロペロしてくる。
首元に抱きつきモフモフする、やべーこのまま二度寝したくなる。
だが今日はカリナから聞いた、魔導具職人に会うため開拓領域に行かないといけない。
移動の時間を考えるとのんびりはできない……いや待てよ?
開拓領域への移動、ナウメを頼ってもよくないか?
朝だからか、思考がだらけてるかも……。
「ナウメー、開拓領域へ転移できるー?」
「『魔胎聖湖』と『始祖たる魔物』つまりⅨ級から遠い場所にならできるにゃん。だけど人類が張った結界壊さないと無理にゃん。壊してオッケーにゃん?」
「いいともー! ってダメだよダメ! ヤベーよ、ガチで凶兆になるじゃねーか! それルミガ大陸滅ぶだろ!」
「主さまったら、寝ぼすけにゃーん」
寝ぼけてるとヤベーな、数秒間『うずくまる』を使う。
――よし完全に目が覚めた。
正直まどろみとか気持ちいいし、これで覚醒はあんまやりたくないんだけどな。
そもそも、うずくまるを使うなら寝る必要すらないしな。
けどうずくまるで睡眠や食事抜きは……なんというか、できるしそれが合理的だけどあまりしたくないことだ。
それに転移から2年以上経過して、俺だけ体が成長してないんだよな。
おそらくうずくまるには強力なアンチエイジング効果もある。
……使うほど人間から離れていく気がしている。
転移が実質不可能な以上、いつも通り馬車で行くしかないか。
いや、俺とナウメだけなら走ってもいいかな、その方が早いだろう。
大量のクリスタルを持って帰るような、狩りをするつもりはないし。
――クラン食堂に行くと水希が、モモを始め亜人の女の子たちと食事をしていた。
「おはよう、みんな」
「おはよう嵐真」
「はにゃにゃ! おはようございます、ランマさま!」
人数が多いので一纏めに挨拶し、俺も食事に加わることにする。
「おらよランマ! 今日の朝飯はハムとハムでチーズハンバーグを挟んだのをトマト煮込みハンバーグとデミグラ煮込みハンバーグで挟んだのをサンドイッチにしたぜ」
『光の意思たち』の料理長をしてくれている、兎獣人のダンダンが豪快なサンドイッチを持ってやってくる。
え、これ肉食の獣人用だよね? 人間が朝食う量じゃねーぞ!
「おいおい、何だよそのツラァ食えよな! 彼方の来訪者でお前だけ全然成長してねーぜ! あの好きなもんしか食わねぇ、トモカタの分も食え! あのわがまま舌好みのハンバーグ3種も作るの結構大変だったのによぉ」
…………。
「うをおおおおおお」
気合いを入れながらかぶりついた。これ完食しても成長しねーだろうけどな!
「おかわりもあるぜ!」
俺は全力で首を横に振った。
――食べ終わり腹をさすりながら食堂を出る。
「はぁはぁ食い過ぎた」
――だがうずくまるで解決はしないでおこう。
「よしよし、頑張ったにゃ」
影が伸びて頭を撫でてくれる――猫形態がいい……。
「お前は何を食べるんだ?」
「食べなくても平気にゃよ。けどさっき食堂にあったプリンを盗み食いしたにゃ」
手癖が悪いにゃ……って出会いからして盗っ人だった。
「食べるのはいいけど盗み食いはやめろ。うちは食材管理キッチリされてる方だから、ダンダンが困る」
まあ……獣人は食欲旺盛な奴が多く、盗み食いは珍しいことではない。
少しぐらいならいいだろう。
……普通なら犯人を見つけ出した、ダンダンの鉄拳が落ちるんだがな。
「おいしかったにゃ。いい腕にゃあ」
「まぁな。正直ゴツい見た目と、かみ合わないけど」
「ダァアアアアアアアアア。誰だぁぁあプリン全部食ったのワァァァァァァァ」
食堂からダンダンの怒声が上がる。
…………全部?
「おい、全部って?」
「『量産魔導具冷気箱』にあったのみんなにゃ」
そうじゃない。
「何で全部食べたの?」
「にゃはは。美味しそうだったからにゃ」
……俺はナウメを連れて、ダンダンに謝った。
神獣だろうとためらわず、鉄拳を落としたダンダン――だが拳はすり抜けて。
主として代わりに責任を取ろうとしたが、クラスⅧによる防御補正を必死に下げても、ダンダンが拳を痛めただけだった。
――アニマの格が違いすぎた。……すまんダンダン。
馬車に頼らず、自らの足で開拓領域目指して疾走する。
風切る感覚と、またたく間に後ろに流れていく風景。
これは――何度味わっても爽快だ。今の俺なら新幹線と併走もできるはず。
アニマの位階補正で、飛躍的に強化される肉体だが。
位階の上昇は容易でなく、冒険者の過半数は最低条件であるⅡ。
ベテランでⅢな世界。
そこから先は選ばれし者たちの位階と呼ばれている。
――たいていの人間には、味わうことができない感覚を堪能していると。
間もなく暫定支配領域へと到着。
ここから聖女結界を越えて開拓領域に入り、第21区画を目指す。
俺は冒険者ギルドの受付嬢カリナから教えてもらった情報を振り返る。
接触目標たる人物の名前はトリウィア。
彼方の来訪者のクリスタルで、『固有魔導具』を作れる可能性がある人物。
そして……開拓領域の第21区画に家を建てて、1人で住んでいる。
異常すぎる、もはや自殺の域だ。
開拓領域は浅いところですら、森林竜のような魔物が徘徊することがあるのに。
Ⅷの俺ですら、うずくまるなしで1人で暮らすのは困難だろう。
生存に使える天星スキルを持った、選ばれし祝福者か。
それとも高位の魔物が来ないことを願って、一か八かの運頼りで暮らしてるのか。
――どちらにせよ、まずは会うことだな。
見知らぬ相手の生存手段を俺が気にしてもしょうがない。




