27話:解き放たれる小悪党
アニマクリスタルには大きく3つの用途がある。
開拓領域を中心として、大陸全土へ出現する低級の魔物たち。
そのクリスタルはまるで電池のように、『量産魔導具』へのエネルギー供給用として日常的に使われている。
多くの冒険者にとっては最大の収入源であり、人類の魔法文明を支えている最重要用途。
大切な故人のクリスタルは遺品としてそのまま保管。
――破壊することを死者の鎮魂とする、大宗教も存在するが。
そして麒麟のような強大な力を持つ存在のクリスタルは、『固有魔導具』の核として用いられる。
俺たちはクラスメイトである友方と姫宮のアニマクリスタルは、遺品としてそのまま保管する予定だった。
――しかしナウメに盗まれて考え直す。
姫宮は無名だが、友方の告げ口は『死告』として王都で知名度がありすぎる。
その力がクリスタルに残っている可能性があるならば、『光の意思たち』を敵に回してでも、手に入れようとする奴が現れてもおかしくはない。
――仲間たちには事後承諾になるが、盗む意味を下げるため。
誰にでも使えるわけではない、『固有魔導具』にしよう。
「主さま、これからどうするにゃん?」
俺の影からナウメの声が聞こえてくる。
「このクリスタルを『固有魔導具』にする」
することがなく悩んでいた俺にすることができた。
……死んでからも友方絡みか。
「いい『魔導具職人』はいるにゃ?」
彼方の来訪者のクリスタルに目がくらんで、失踪されても不思議じゃない。
――職人としての腕に加えて信頼と、自衛できるだけの戦闘力もいる。
「……これから探す」
心当たりはなかった。
『麒麟槍』を作ってくれた爺さんが、作った後に天命を全うしてなければ頼れたんだがな。
――――クラン拠点を出て王都へ繰り出す。
目立つのを避けるため。背負う聖弓には布を巻き、俺はフードを目深に被る。
「にゃはは。主さまとデートにゃー」
影から楽しそうな声が聞こえる。
「……フード被った男の影から声って、ヤベーほど怪しくないか?」
友方起因の最大トラブルである『過剰な光』以降はだいぶマシになったが、それでも王都の治安は根本的なところでどうしようもない低さだ。
少し目立てば絡まれて面倒くさいから、あまり目立つような真似はしたくない。
「にゃら、主さまにしか聞こえないよう話すにゃん」
さすがはクラスⅨの神獣といったところか。
「あぁそれなら安心だ」
返事が独り言に見えてちょっと怪しい気もするが、小声ならいいだろ。
「にゃにゃ。主さまのクランの悪口が聞こえたにゃ」
「何?」
耳を澄ませる――。
――クラスⅧの俺には人類最高峰の補正がかかっているが……。
王都は雑多な音で満ちていて、特定の話し声のみを拾うのは難しい。
聖弓を起動しさらなる強化をすれば、できる可能性もあるが魔力の無駄だろう。
「聞こえないぞ?」
「にゃんにゃかにゃん」
俺の影がニュルリと顔へ伸びてくる。慌てて路地裏へ移動した。
目元にナウメの影で作られた、バイザーのような物ができる。
影に映像が映り、音声が聞こえてくる。
遠視魔法か、高位魔法を詠唱もなくさらりと使ってくれる。
「ちょっと前、悪口の瞬間を映すにゃん」
リアルタイムだけでなく、過去の映像まで映せるのか!?
麒麟より序列は低いようだが、それでも神獣王二十一大傑作。やはり規格外の力。
遠視の先――こぢんまりとした場末の酒場のような場所。
大柄の男と細身の男が酔っ払っているのか、顔を赤くして暴れ回っている。
「もう、やめてください! これ以上店を壊さないで!」
店員であろう若い女性が、制止の声を上げるが男たちは止まらない。
「あぁん? 値段の割にマズい酒を出した店は壊してもいいんだよォ!」
大柄の男が吠える。
「ヒャッホー。今日はいい日だ、めでたいぜェ!」
細身の男は棚のガラスを割りながら、酒瓶を取り出し頭から浴びている。
「やめて! あなたたち『光の意思たち』が怖くないんですか!?」
「ヒャッホー。情弱はっけーん! 姉ちゃん知らねぇのかよ? 死んだんだぜぇ! あのヤバい奴がぁ! 昨日! いえーい!」
嫌がる女性の肩に手を回しながら、細身の男が快哉を叫ぶ。
「そうだ! 死んだんだよ! 『過剰な光』死告のトモカタがぁ!」
大男が酒樽に尻から飛び込み喜びを表現する。
「何を言ってるんですか! 紅き聖弓のランマさまと麒麟槍のナオキさまがいます!」
「はぁん、わかってねぇな。そいつらはたしかにつえぇ。俺らなんざその気になりゃゴミ同然に瞬殺よ。けどな大丈夫な奴らなんだよ!」
「ヒャッパパパパ。そうそうあのクランでヤベーエトランジェはトモカタだけ! 後の奴らは甘ちゃんちゃんこ!」
「こんなことして、バレてもよォ! 無抵抗で土下座して泣いて謝りゃ許してくれるぜぇ?」
「ヒャッホー。その通り! だったらやらなきゃ損損。バレたら謝りゃオッケー、バレなきゃ丸儲ッケー!」
………………は?
「つーかよ! マズい酒の詫びをしろォ! 服を脱げぇ!」
「ひっ」
「ヒャッホー。ヤっちゃう? なぁこの女ヤっちゃう?」
「おう! あ、やっぱ待て。マズい。ナオキは女をヤるのには異様に厳しい。土下座しても去勢されて、両手も切り落とされるかもしれねぇ」
「ヒャハハハ。おいおい『過剰な光』から1年程度で牙抜けすぎだろぉよ! バレたらヤベーけどなぁ? ここにいるのは俺らと女とマスターだけだ! ヤったあとに殺ればオッケー! バレねーよ!」
「天才かよォ!」
逃げようとする女店員に細身の男が飛びかかる。
酒場のマスターが剣を抜いて応戦するが弱い。長くは持ちそうにない。
「ッナウメ! この場所に転移はできるか?」
超高位の魔法だがナウメならば。
「にゃん。結界も妨害もないからいけるにゃん」
「頼むッ」
あれは過去の映像だ。――間に合ってくれよ。
「にゃんにゃかにゃん」
うずくまっていない俺の体が影に沈んでいく。




