21話:ざまぁ×ざまぁ
「……姫宮か?」
「2年ぶりね……猫島……友方」
……声が暗い……。聞いてるだけで気が滅入りそうな陰鬱な声。
俺が知る姫宮は、地球で女子カースト上位だったとき。
転移後外れスキルで、徐々に地位が落ちていったところ。
そして最後に、女子は外れスキルでも追放しないと木村が言った後、俺たち追放組みを笑っていたことだ。
「……よく俺たちの前に顔を出せたな?」
さすがにないだろ。どういう神経をしているんだ。
あの時点での追放は――実質死刑と変わらなかった。
俺たちを追放したクラスメイトたちを、許しているのは直樹だけだ。
「えぇ……ごめんなさい……」
「謝罪されてもな。さすがにあの状況での追放は許せねーよ。俺たちは結果的に生き残れただけだぜ」
「許さなくてもいいわ……ただ話を聞いて……お願いを聞いて……『光の意思たち』」
「はぁぁぁあ? 何様だよ、お前! 話? お願い? 何で僕らが聞かなきゃいけないんだよ! 忘れたの? 自分たちがしたこと? 野垂れ死ねよ!」
友方エンジンが始動した。だがこれは俺たちの前に顔を出した姫宮が悪い。
俺もこれでお金を恵んでとか、クランに入れてと言われたらキレるだろう。
俺と直樹の正義感はおおむね一致している。
だが俺はあいつほど善に極振りしていない。
追放は仕方ないと思う。環境でおかしくなったとも思っている。
――それでも、死地に笑いながら追放したクラスメイトたちを許せるはずない。
直樹がいないタイミングで来た姫宮は運が悪い。あいつ以外はまともに取り合わねーよ。
「眞朱は事情を聞いたのか?」
「まだでござる。拙者1人で判断するには荷が重く。嵐真殿か直樹殿が帰還するのを待ったでござる」
「そうか。まぁそうだな……俺が話を聞こう」
姫宮の前の椅子に腰を下ろして言う。
正直、直樹に投げたいところだが……。
あいつに任せると、許したい直樹と許せない俺たちの間で板挟みにしてしまいかねない。
「ちょっ!? 嵐真? 嘘でしょ! こんな奴の話聞く必要ないって放り出そう! それかクラン拠点侵入で衛兵に突き出そうよ!」
「お前は外出てていいぞ」
「はぁ? ダメだよ! 嵐真意外と甘ちゃんじゃん。クズ女の涙であっさり懐柔されたら困るよ! クランで対詐欺師最強は僕だからね! ここにいるよ!」
俺の隣に腰かける友方。
たしかにこいつは、詐欺師が本題に入る前に見破るレベルで、嘘を見抜くのが上手いんだよな。
だからこそ愚賢者の帰還不可能という言葉を真実と、誰より早く直感的に理解したのだろう。
「――それじゃ話とお願いってのを聞かせてもらおうか、姫宮。だが何も期待するなよ」
「……ありがとう……」
暗い声のまま話し始める姫宮。
「……あなたたちを追放して…………」
「僕らは暇じゃないんだ! 短くまとめろよ!」
「……フゥー。木村をナンバー1、月島を2にして私たちは森を抜けてこの国に到達したわ。この国の文明と魔法を見た月島が、ここからは1人で行くと言ってクラスから抜けた」
1度深呼吸してから姫宮は声に張りを入れて話し始めた。
「クラスのブレイン月島が抜けたのは痛かったけど。木村の『破壊光線』が本当に強かったから、私たちは何とかやっていけた。クラスでクランも作ったわ」
「ふーん。お前らもクランやってたんだ。見たことないけど? 無名すぎぃ!」
煽る友方。
「……そうね。木村は挑みたがってたけど、ほかのみんなが開拓領域は反対して。私たちは王都を離れ北部の辺境で安全にやってたから。そこに挑んだ『光の意思たち』とは活動範囲がまったく違った……私も最近まであなたたちが生きてることも、高位クランなことも知らなかったわ」
「あっははは! 僕らのこと雑魚扱いで追放したくせに、自分らの方がよっぽど雑魚じゃん!」
「……木村を止めるんじゃなく、勇気を出して挑んでいれば違ったかもしれないと後悔する日々よ……だけど私たちは挑まなかった……そして北の大陸が氷獄の魔王を討つ勇者を求めていると知った日。木村は諸鍛治を連れてクラスを抜け大陸越えに挑んだわ……結果がどうなったかは知らない……」
大陸越えだと!? 黄昏の藍世界での大陸移動は命をかけた行軍となる。
北の大陸への移動は、六線級クランが壊滅したこともあると聞いたレベルだ。
俺たちでも挑もうとしたことすらない。
「ばっかじゃねーの? 木村も諸鍛治もくたばってるね! ざまぁざまぁ!」
じつに嬉しそうな友方。
「……まともな月島。言葉でおだてるだけで満足していた木村。彼らがリーダー格だったころはよかったわ……肉丸がナンバー1になってから……私たちの地獄は始まった……」
言葉を句切り、声に入れていた気合いが抜けていく姫宮。
「……肉丸は女子たちに奉仕を求めだしたわ……」
「びいいいいいいいいいいいいいっち! ビッチ! ビッチ! あはははは。ざまぁざまぁざまぁぁぁ!」
「…………この世界は弱い人間には残酷すぎる……私たち女子は肉丸のご機嫌を取るために頑張り続けた……」
「……月島、木村、諸鍛治が抜けても、クラスにはまだまだ男がいるだろ?」
「……猫島なら止めてくれたのかもね……けどアイツらは止めてくれなかった。むしろ肉丸に媚びて取り巻いて。女子をいっしょになって好きにしたわ」
「ざまぁざまぁざまぁざまぁざまぁざまぁざまぁざまぁざまぁざまぁざまぁざまぁ」
友方エンジンフルスロットル。
……気の毒には思う。だが直樹がいたらありえなかったことだ。
因果応報。ざまぁ連呼の友方も完全な的外れではないだろう。うざいが。
「……そして……そしてね……」
姫宮が涙をこぼす。
「はい! 泣いた! ざまぁ! 泣けば許される? わけないじゃん! ざまぁ見ろ!」
「肉丸たちは……飽きた女子から奴隷として売り払っていったの……」
「……は?」
どんな目に遭っていようと同情する気はなかったが、思わず言葉が漏れる。
「……知ってるでしょうけど……この世界で異世界人は彼方の来訪者と呼ばれる。そして……裏社会で好事家たちにもの凄い値段で売れる……」
「彼方の来訪者の人身売買だと、知っていたか?」
「拙者も初耳でござる……」
政治面でもっとも知識をつけた眞朱でも知らないか。王国の闇は深いな……。
「……そして肉丸たちは女子を売ったお金で……この世界の女奴隷たちを買い漁るの……私は必死になって肉丸に媚び続け最後に売られたわ……」
「ざまぁすぎる! ビッチエンド! 今晩のご飯が美味しいよぉ!」
ヤベーな。
俺たちを家族の代替としてからは、俺や直樹の諫めをある程度は聞くから。
無抵抗の弱者相手に、ここまでの暴走はしていなかった。
だが姫宮は俺たちを追放したクラスメイトの一員で、恨みの根は深い。
――結果。友方はかつてないほど解き放たれている。
「……こんなこと頼めた義理じゃないのはわかってる。けど私じゃ……使ったら死ぬかもしれないって、怖くて忘れていた『道連れ』のスキルを思い出したのが、奴隷として売られた後で……肉丸にも試したけど……遠すぎて届かなかったと感じるの……いま、どこにいるかもわからない……だからお願い女子たちの仇を討って『光の意思たち』」
「はぁああ? 何それ! 僕らに何の得があるの? やられすぎて頭にも穴があいたのかぁ? ガバガバかぁ?」
「……ぅぅぅ」
すすり泣く姫宮。
友方が隣から立ち上がる。
両手の人差し指を真っ直ぐ伸ばして、振り子のようにチッチチと動かしながら。
スキップを踏みながら、椅子に座る姫宮を中心にグルグル回り出す。
「ひ~め~み~や~ざまぁ~ざまぁ~ざまぁ~ざまぁ~ざまままぁ~びっち~」
オペラ調に歌いながらの周回。あまりの出来事に俺と眞朱は口をつぐむ。
姫宮ざまぁ――そりゃ俺も少しは思ったよ? 正義極振り人格じゃないし。
けど限度があるだろ。
「ねぇねぇ姫宮、子供は何人?」
姫宮の顔を覗き込むようにして友方が言う。
ッ俺の許容範囲を超えた。友方を殴り飛ばそうと拳に力をこめた瞬間――。
やつれた姫宮の死神のような顔を見て。手が止まった。
――嫌な予感がする。まさか『道連れ』を使うつもりか?
「ごめん、猫島、毒島。迷惑かけるね。いまさらだけど……私は来るべきじゃなかった……さっきのお願いは忘れて。できれば直樹と水希ちゃんにも謝りたかったな…………」
「よせ、姫宮ッ!」
「姫宮ざまぁ」
姫宮の顔の前で、心底楽しそうな表情を作る友方。平常時の勘のよさが嘘のように突き抜けている。
――言葉じゃダメだ間に合わない、ぶん殴って意識を飛ばすッ。
「寝てろッ!」
Ⅷのアニマ補正を全開にして椅子から瞬間的に立ち上がり、姫宮の首に最悪殺す覚悟の手刀を当てた。
「『道連れ』――友方ざまぁ」
――矛盾。俺の手刀はたしかに命中し、姫宮は白目をむいたはずなのに。
「え……? 何? 痛……ゲホッ嘘……僕死ぬの? 嫌だぁ……痛ぉ……ああぁ……何で? ……僕が…………ねぇ……嵐真……眞朱……僕……向こうで……パパ……ママ……に会えるかな………」
血を吐き、胸を押さえながら友方は床へ倒れ込む。
椅子に飲み込まれるように、姫宮の体が沈んでいく。
……天星スキルの発生補正……『道連れ』にもあったのか……。




