20話:開拓領域での戦い
開拓領域と呼称される、ルミガ大陸南部全域は数多の魔物たちに支配されており。
人類圏との距離に応じて深度1から10に分類される。深まるほど増していく魔物と環境の脅威。
ここはもっとも浅い深度1に分類される、第6区画大森林地帯。
ある日大森林に出現し、またたく間に超級へと成長したドラゴンタイプの魔物、森林竜が咆哮を上げる。
「バオオオオオオオオオオオオ」
本来深度1にいるような魔物ではなく、だからこそ俺たちが討伐に来たわけだ。
「ッ流石に竜は堅いな」
すでに聖弓より30を越える鉄の矢を放ったが、いまだ倒しきることができない。
「クラスⅥだからね――『ウォーターボール』」
川に足を浸からせた水希が、魔法で水球を次々形成して森林竜へと打ち込んでいく。
「早く仕留めてね! こっちはそんなに持たないよ! そこ! あいつらは君の家族を食い殺す気だよ、頑張れよ!」
『告げ口』を利用してビーストタイプ・ウルフの魔物を使役する友方が、森林竜の配下たる小竜の軍勢を押さえ込みながら声を上げる。
わかっているが、鉄の矢じゃ厳しい――『青き魔法の矢』を使うか?
1発ぐらいなら問題ないが。魔力の補充を考えると気が進まない。
聖弓自体による自然補充を待てば時間がかかり。
水希の魔力量では厳しく。外部に頼めば大金がかかる。
倒すのが目的ならともかく。俺たち冒険者は戦闘で利益を出す必要がある。
――ちょっと贅沢に暮らすぐらいなら余裕の強さを、俺たちは持っているが……。
ルミガ大陸人類圏全域を統治する、ルミガ王国に存在していた奴隷制度。
それにリーダーたる直樹がブチ切れるも、王国に刃向かい奴隷制度そのものを潰せるほどの力を俺たちはまだ持たず。
結果、奴隷を救うためにパーティーの金で購入して解放していく。
……だが大半の奴隷には行く当てもなければ、ゼロから成り上がる力もない。
だから俺たちは受け入れ先としてクランを設立。
そのメンバーとして、解放した奴隷たちを仲間にすることを繰り返す。
奴隷を購入、解放、国籍購入、クランで雇用。ヤベーよ、驚くほど金が吹き飛んでいく。
――俺たちは設立から2年に満たない新参では、トップクラスの五線級クラン『光の意思たち』なのにな……。
びっくりするほど、財政が火の車で笑えてくる。
だからこそ強敵である竜を倒すのにも、戦闘コストを意識する必要がある。
「バオオオオオオオオ」
尻尾を振り回して叩きつけてくる『うずくまる』で防ぐ。
ガゴオオオオオオン。当然無傷。
魔法の矢と違い、普通の矢をうずくまりながら射ることは無理がある。
起き上がり、後退しながら矢をつがえ放っていく。
アニマクラスは俺の方が格上のⅧだが、人間と竜ではⅠの時点でスペックに差がありすぎるため。
身体能力は竜の方が上。素手で殴り倒せる相手じゃない。
「『ウォーターソード』」
横から水希の魔法攻撃。
「バオオオオン」
マズい。ついに攻撃目標が水希に移った。
Ⅵの竜相手じゃ『告げ口』でのターゲットコントロールも効きがかなり悪いな。
――タゲが俺以外になった時点で、コストを考えていられる状況ではない。
「頼む、聖弓リタアロー!」
紅き聖弓に声をかける。
応えるように弓から青き魔力が迸り、『青き魔法の矢』を形成――完了と同時に放つ。
「バアアアアアアアアア………………オ……ン」
ズッシーン。バッシャーン。
巨大な森林竜が体の一部を川に突っ込みながら倒れ伏す。
そして死体はクリスタルを残し、またたく間に消えていく。
「バババ! バッツバババ!」
竜の配下だった小竜たちが、ざわめきながら逃げ出そうとする。
「無駄だ! 僕が逃がさないぞ! お前たちの主はこう言っていた――オレが死んだら後を追って死ねッ!」
死の告げ口が放たれる。
森林竜の庇護をなくした配下では、洗脳効果に耐えきれないだろう。
――小竜たちはグェグェグェ鳴きながら自決していく。
Ⅳにまでアニマクラスを上げた友方の『告げ口』は、格下相手にゾッとするほどの猛威を振るう。
「やった雑魚どもめ! あははは!」
人の本質は早々変わるものではない。
……友方がマシになったのは仲間に対してだけ。
外部の相手に対する悪辣さは、真の仲間になったあの日から2年は経つのに何一つ変わらない。
……友方のせいで何度外部の集団と衝突したか。
なまじ俺たちには、マシな態度になっているだけに切り捨てづらい。
「ほらほら! 2人とも何してるの! クリスタルを拾おうよ」
友方はテンション高く、小竜のアニマクリスタルを拾い集めている。
黄昏の藍世界では死んだ生物の肉体は世界に吸収され消え、アニマの残滓だけがクリスタル化して残る。
クリスタルは用途が多く価値がある。冒険者最大の収入源だ。
森林竜の方はともかく、小竜の方は見逃しかねない大きさだ。
1個たりとも見逃すわけにはいかない、俺と水希も回収に勤しんだ――。
――開拓領域での目的であった森林竜狩りを終え戦果とともに、クランの専用馬車に揺られながら拠点への帰路につく。
大陸中央に位置するルミガ王国王都ラプロン。
驚くほど賑やかな都で、力さえあれば日本と比べても大差ない生活レベルで暮らすことができる。
科学はお粗末だが、魔法で十二分に補って発展している魔法文明世界。
過去に彼方の来訪者たちがいて、科学が発展していないのが不思議だったが。
その理由が黄昏の藍世界はクラスⅨの行動次第で、世界の物理法則が塗り変わることがあるためなのは驚いた。
眞朱が一時期科学の研究をしていたが――物理法則が変わってるでござるぅとお手上げした。
「今日も凄い戦果でしたね。Ⅵの竜を討つなんて! さすがは紅き聖弓のランマさまです!」
王都に入って安全になったことで、馬車を走らせる御者の少年ガウが憧れるように目を煌めかせ。頭部に生える犬耳をピクピクさせながら、隣から声をかけてくる。
「そんな真っ正面から褒めるなよ。恥ずかしくなるからさ」
『光の意思たち』のクランメンバーは大半がもと奴隷であり、ガウもその1人である犬獣人。
メンバーの多くは、彼ら彼女らを奴隷から解放して国籍を買い与え、クランメンバーとして迎え入れる俺たちのことを、英雄か何かと思っているふしがあり過剰に褒めてくる。
――正直照れくさい。
「ガウくん! 僕は僕は!」
友方が荷台から身を乗り出し、少年に褒めてと催促する。
「えっと、はい! トモカタさまも凄いです!」
クランの彼方の来訪者で友方だけは、過激派クランメンバー以外からの評価が低い。
「だよねー! 僕凄いよね! 死の告げ口。雑魚は死ぬ!」
だがルミガ人に強い恨みを持っている過激派の奴らからの人気はあるんだよな。
身内には人間、亜人の区別なく馴れ馴れしく。
外部の奴には極めて好戦的なのが好まれているようだ。
トモカタのアニキと呼ぶ奴すらいる。わからんもんだな。
いまの友方がⅣと強い部類で、口だけじゃなく実力が伴っているというのも大きいだろうが。
ガウは友方をよいしょしながらも、的確に馬車を操り。
目的地たる『光の意思たち』のクラン拠点へと到着する。
拠点は家を持たない大半のメンバーに部屋を用意するため。
五線級クランでは最大の大きさを持つ。
入り口には眞朱が作った、『光の意思たち』のクランエンブレムが掲げられ。
その下にはクランのランクを示す、色違いの横線が5本入った横長のプレートが付けられている。
ランクが上がるごとに線は増えていく。
現状最大のクランが七線級なため、俺たちは2年に満たない期間でかなりの上位まで登り詰めたことになる。
……聖弓になった赤髪の女は、最高位たる七線級クランのメンバーだった。
聖弓の性能が極めて強力なのも納得。誓いを果たしたいまでも……思い出すと少し悲しくなる。
「皆の者ー! お帰りでござるよ! 怪我はないでござるか?」
クランマスター室から俺たちの帰還を見ていたのだろう。
眞朱が扉から飛び出てくる。
「ああ、ただいま。全員無傷だ」
クラン設立が必須になったとき。天星スキルが真の外れだった眞朱が、前線を退き『光の意思たち』のクランマスターとなってくれた。
以降はずっと王都でクランマスターの仕事をこなしてくれている。
「……嵐真殿。少し拙者の手に余る問題がありまして。知恵をお借りしたいでござる」
互いの無事を確認したあと、眞朱が声を潜めて告げてくる。
「あぁわかった。どこで話す?」
「2階の応接室にいるでござる……」
いる?
「わかった。行こう」
俺は水希たちと別れ、眞朱とともに応接室に向かう。
「それで問題って何だ?」
「説明しにくいでござる」
「ふーん?」
別れたはずの友方が引っ付いてきている。
「おい、いてもいいのか?」
眞朱に尋ねる。
「……無関係というわけではござらぬ。拓也殿……事を荒立てないと約束していただけますか?」
「よくわからないけど? おっけー。大丈夫だよ。僕も大人になったからね!」
どこがだよ。トラブルメイカー。嫌な予感しかしないぞ。
コンコンと扉をノックする眞朱。
「入るでござるよ」
「……どうぞ」
消え入りそうな返事を聞いてから、眞朱は扉を開く。
「――――お前は」
応接室の椅子に座る女。服はみすぼらしい物ではないが、異様にやつれていた。
だがその顔にはどこか見覚えがある。
――そうだ姫宮。俺たちを追放したクラスの一員だ!




