1話後編:クラス会議で追放される男5人
「追放するのは、役立たずスキルの無駄飯ぐらい野郎5人だ!」
「まず1人目は――」
木村の指が左右に動く。なぜ焦らす。
「お前だ『告げ口』の友方!」
効果がよくわからない外れスキル、『告げ口』の友方 拓也が指差される。
「な、何で僕が!」
「お前この1ヶ月で何の役に立ったよ? わがまま放題でクラスの和を乱しただけだよな?」
「僕の親は警察官僚だぞ!」
実際中学のころ、自分をいじめた相手を少年院送りにしているので、地球ではかなりの効果があった友方の決め台詞。
「だから?」
「帰ったらお父さんに言ってやる。そしたら逮捕だ!」
「やれやれ、何罪ですか……」
月島が呆れたようにため息をつく。
……死地に送り込むのって罪になる気はするけどな。
あぁけどこの場合だと、クラス側からすれば緊急避難か?
いや、そもそも異世界で起こったことに日本の法は適用されるのかな。
「お前、以前からウザかったけど、スキルが『告げ口』ってホントぴったりな」
男子の1人が鼻で笑う。
「ファザコン男。超きもーい」
「タスケテーパパー」
クスクスクスクス。女子たちが笑い出す。
姫宮もいっしょになって笑ってる。ヤベーわ、女子こえーよ。
「うーうーうー!」
友方は顔を真っ赤にして、壊れたように唸り続ける。
「2人目は――」
「うーうーうー!」
友方を無視して木村は話を進める。
「はいッ『極小貫通孔』の小鎗だぁ!」
木村が次に示したのは、地球ではクラスカースト男子1位だった小鎗 直樹。
「木村ァ!」
もと取り巻きだった男をにらみつけて、小鎗が吼える。
「何だ文句あんのか? 葉っぱにすら穴を空けられない、お前のスキル一体何だよ」
「――推測ですが、肉眼で見えないだけで穴は空いているのでしょう。この状況では役に立ちませんが……」
ノリノリの木村と違い、月島は小鎗の追放に乗り気ではなさそうだ。
小鎗はスキルこそ外れだが、統率力もあるし体力もある。
この1ヶ月俺や友方とは比較できないほど、クラスの役に立っていたと思うが。
まぁぶっちゃけ木村の私怨、嫉妬だろうな。
「どうでもいいぜ! ともかく小鎗も追放だ! 異論がある奴は?」
シーン。木村がクラスメイトを見渡すが誰も何も言わない。
当然だ、破壊光線のスキルカーストはダントツの1位。
機嫌を損ねたら自分も追放されかねないのだ。
もと小鎗グループの奴らが、すまないといった顔を小鎗に向けている。
小鎗は気にするなと伝えるように1度だけ頷いた。友方とは大違いの人望だ。
「異論はないようだな。オッケー3人目発表いってみよー!」
友方のときと違ってクラスの雰囲気は暗いが、1人だけノリノリの木村。
小鎗への下克上を果たしたキョロ充のテンションは、どこまでも上がっていく。
「3人目は『物拾い』の物集ちゃんだよぉ」
気持ち悪い声音で木村が言う。
物集 水希。ぱっと見、女子より女らしい男だ。
「ひっ。私も追放……?」
「そうだよぉ。だってさぁ『物拾い』で何が拾えるよ? 石ころじゃん! 誰でも拾えるじゃん。ほらね」
木村は足下に落ちていた石ころを拾いながら、物集を責めるように言い立てる。
最初『物拾い』には期待されていたんだよな。
けど誰でも拾える物しか拾えないゴミスキルと確定してから、反動で一気にヘイトを集めてしまった。
「それに俺さぁ。男の娘って嫌いなんだよね?」
「私男です!」
いやぁ1人称私で高校生になっても声変わりしてなくて、つやつやのロング黒髪が男って主張しても厳しいよな。
ぶっちゃけ男子の制服を着た女子にしか見えない。
「カマホモ野郎が俺に近寄るなぁー!」
ドォン。
木村に詰め寄ろうとした物集の足下に破壊光線が放たれた。
「きゃぁぁぁ」
悲鳴を上げながら、腰を抜かして地面に倒れる物集。
地球ではクラスの愛玩動物的ポジションを確立していたんだが、過酷な異世界は外れスキルの女みたいな男に厳しい。
水希ちゃんかわいいーって。もてはやしていた女子グループも庇おうとはしない。
「ふふん。それじゃ4人目だ! キノコヘッドの毒島まっしゅだぁぁぁぁ」
「キノコキノコキノコキノコ!」
「変態カット! 死ね! キモい! 公然わいせつ罪! 死ね!」
「まっしゅ! まっしゅ! まっしゅ!」
悪い意味でクラスの人気者『吹き矢作成』の毒島 眞朱。
月島と並ぶクラスの秀才なんだが、髪型と口調で人生のすべてを損している男。
小鎗と物集では静まりかえっていたクラスに、罵詈雑言の嵐が吹き荒れる。
地球でも嘲笑されていたが、ここまでひどくはなかった。
それとも過酷な世界にクラス転移すれば、たいていの人間はこうなるのだろうか?
「うるさいでござる! 真のファッションがわからぬ、うつけども」
喋らずに髪を隠せば普通にイケメンの部類なのにな……。
「拙者の髪はキノコではないでござる。漢の象徴ヘッドと呼ぶがよい!」
なおヤバい。
つーか、マジかよ。マッシュルームカットの失敗作だと思ってたのに。
さっきの女子の暴言。公然わいせつ罪って真実じゃねーか。
「マジかよ……マッシュルームカットの失敗と思ってたぜ……」
木村が俺と同じ感想で言葉を失う。
「きゃあああ。いやぁぁぁ死刑にして!」
「さすがに死刑にはしねーよ……だが変態野郎は追放だ!」
……それ実質死刑なんだけどな。
まさかとは思うが。こいつ、この追放がほぼ死刑と同じだと理解してねーのか?
だからこのノリなのか? 追求するか? ――いや手遅れだな。
「いえーい! 変態追放! うぇーい!」
この展開になった以上、木村に追放が死刑と同義だと教えても無駄だ。
キョロ充木村が言葉を引っ込められるはずがない。
むしろクラスの最強戦力を下手に動揺させると、こいつらが全滅しかねない。
この追放はクソむかつくし許さないが。無駄死にはもっとむかつく。
……それにこいつらがまともだったころも知ってるしな……。
――木村には何も言わないでおこう。
「やった。2度と公然わいせつヘアーを見なくていいのね! 追放マジまんじ!」
ノリノリのクラスメイト。
「残念ですね、毒島。あなたとの決着は勉学でつけたかったのですが。せめてもう少し使えるスキルだったなら……」
月島だけは毒島追放に乗り気でないようだ。
「ふん。情けは人のためならず。拙者らを追放したこと、きっと後悔する日がくるでござるよ」
「ないないなーい絶対ナーイ。そんな日はコナーイ。いえーい」
男女がノリノリでハモる。
「そして最後の1人だ――」
俺は『うずくまる』を使った。
「でた、持ちネタ! 猫島のうずくまる! うずくまってるー」
「だから。どうした。役立たず。うずくまる」
「まぁ馬鹿じゃなきゃ自覚してるよなぁ。そうだ5人目はうずくまってる猫島だぁぁぁぁぁぁぁぁ」
ちくしょうちくしょう。
偉そうにお前の『破壊光線』だって、女神から与えられただけの力じゃねーか。
貰い物の力で上から目線でドヤって何が楽しいんだよ。
「あなたも成績はともかく、素の機転は評価していたのですが……あなたたちが当たりスキルならプランBもありえたのですが――」
うずくまる俺に近づいた月島が声をかけてくる。
外れスキル持ちをクラスから追放するのがプランAなら、プランBは強力なスキル持ちだけでクラスを捨て少数精鋭で行動といったところか?
どっちのプランもエグいな……。
しかしあまり追放に乗り気ではなさそうな雰囲気の月島は、なぜこの追放が死刑と同義だと、木村に教えなかった?
……いやわかるけどさ、友方を追放したかったんだろう。
木村は根が小心者だ、教えてしまうと友方すら追放できなくなりかねない。
「つーわけでバイバイだ。友方、小鎗、物集、変態、猫島、さっさと出て行け!」
「待ってよ! そんな突然言われても、こんなゴミみたいなメンツじゃ魔物に襲われたら僕死んじゃうよ」
友方が必死に食い下がる。
「……死ぬ……? ううん? 逃げればいいだろ? まあ、そうだな。まぁクラスメイトのよしみだ。最後に諸鍛冶が作った剣を分けてやるよ」
追放する気がなかった姫宮の叫びでは何も考えなかったようだが。
必死の形相で食い下がる友方を見て、死ぬという言葉を正面から捉えたのか、木村は一瞬冷や水を浴びせられたような真顔になるが――。
予想どおり追放という言葉を引っ込めることはできず。
カランカランカランカランカラン。
取り繕うように幼馴染みの諸鍛治が『剣鍛冶』のスキルで作った、5本の剣を地面に放り投げた。
「僕剣なんて使えな――」
ドォン。
「黙れ。友方お前が喋るとイラつくんだ」
小心者な本性を隠すように、暴力的な顔で木村は威嚇する。
「ひぅ。お父さーん」
友方が転がるように広場の外へ逃げ出した。