17話:異世界で親友化
麒麟が残していった、得体の知れないクリスタルを拾って眺める。
透き通った綺麗なクリスタルだ。
邪悪な感じはまったくしない……この世界での価値はわからないが、神獣が残した水晶だ。貴重品の可能性は高い。
持っていくリスクと天秤にかける――――持っていこう。
さて……あまり考えたくないが、逃げるわけにもいかない――物集たちは無事だろうか?
散乱する岩とめくれ上がった大地に遮られ、遠くを見渡すことができない。
……あの攻撃に巻き込まれていたら生存は絶望的だろう。
覚悟を決めて。視界を塞ぐ、せり上がった大地を登る。
「これは――」
破壊の痕跡は、あの火力からは信じられないほど狭かった。
――そうか! 麒麟は『うずくまる』を破るため、攻撃範囲を限界まで絞って俺にぶつけていたのか。
これなら無事なはず――探すため周囲を見渡そうとして視界が妙に悪く感じる。
いやこれは強化がなくなって、もとの視力に戻っているのか。
現在の聖弓からは青い光が放出されていない。
「リタアロー。また視力を強化できないか?」
弓に語りかけてみると、青い光が迸り俺を包み込む。
――視界が一気にクリアになった。これは便利。
しかしオンオフが切り替わるということは、このエネルギーは有限なのだろう。
補充手段があるのか気になるところだが、いまは仲間を探すのを優先する。
暗雲の向こうをも見渡す視力で周囲を見渡すと、即座に物集たちを発見できた。
かなり近くてゾッとする。もう少し麒麟が攻撃範囲を広げていたら……。
向こうも俺を探しているのか、警戒しながら破壊の跡地へ近づいてきている。
合流するため、跳躍――。
「うわッ『うずくまる』」
1歩で想定外の距離を移動して、岩にぶつかりそうになったのでうずくまって衝突に備えた。ガゴン。
うずくまっている間は気づかなかったが、視力だけじゃなく全身強化だったのか。
この世界にはこれほどの力を持つ装備が、ありふれているのだろうか?
――さすがに考えにくい。弓となった赤髪の女が規格外だったのだろう。
「おーい、猫島君ー!」
物集が手を振りながら走ってくる。起き上がり答える。
「無事か、物集」
「うん。みんな無事だよ。さっき凄い雷と嵐だったけど何があったの? うずくまって見てたんだよね」
「ああ。説明は合流してからまとめてな」
――――破壊跡地のそばに座って、状況を全員に説明した。
「っう……助けられた借りを返せなかったっ。俺は弱いっ……」
小鎗が涙を流す。女の死を本気で悼んでいる。
「猫島! その弓、僕に頂戴! 猫島はスキルがずるいから、武器はいらないでしょ」
友方は猫島ブチ切れ危機一髪でもしているのか?
さすがに限界だ。キレていいだろう。俺は口を開こうとしたが――。
「拓也ァッ!」
小鎗の怒声に機先を制される。
「ひぅぅ」
「お前は何も話を聞いていなかったのか? お前は助けられた礼も言わずに逃げたんだぞッ! ……彼女は死んだんだぞ? 意思を託された猫島以外にその弓に触れる資格はないッ」
言おうとしたことを先に言われた。
小鎗が本気でキレたのを見たのは初めてだ。
「うぇぇぇん。僕だってヒールできる人が死んで悲しいのにぃぃぃ! また僕が怪我したら誰が治すんだよぉぉぉ」
「拓也ァー!」
小鎗が泣いてる無抵抗の相手に暴力を振るっただと!?
「ぎゃぐ。何でぇぶつの! いくら直樹だって僕への暴力は許さないよ。傷害罪だぁ! ぐふぅ。またぶった! 猫島助けて、直樹を止めてぇぇぇ」
……俺もいっしょに殴ってやろうか?
だがパーティーリーダーの暴力を放置するわけにもいかない。
いまの小鎗はおっかなすぎる。
「もうよせ、小鎗。拳が無駄だ」
小鎗の肩に手を置いて止める。
「……あぁ……すまない……俺はなんてことを……」
フラつきながら小鎗は麒麟戦跡地へと入っていく。
「おい。そっちは危ないぞ」
「あぁ……悪い。少し1人にしてくれ…………」
「猫島ー! ありがとう! 怖かったよぉー」
友方が飛びつこうとしてきた。どんな神経だ。
「――俺に触れるな、友方」
蛇に睨まれた蛙のごとく、友方は硬直する。
俺だって同じようにブチ切れたかったが、小鎗がああなったことで冷静になった。
硬直が解けた友方は、尻尾を巻いて逃げ出した。
……一刻も早く『告げ口』なしで、戦えるようにならないといけない。
俺1人ならどうにでもなるかもしれないが。
友方以外のことは仲間と思っている、切り捨てる気はない。
「険悪でござるなぁ……やはり友方殿は……」
「そうだね……何でまったく自分の行動や言動を反省しないんだろう?」
黙って見ていた毒島と物集も重々しい、こういう空気は苦手だ。
「小鎗の様子を見てくるよ」
場を離れるため、2人に告げて小鎗を探しに行く。
……いた。地面に突き刺さった岩にもたれるようにして空を眺めている。
「大丈夫か、小鎗?」
「猫島か……悪いなリーダー失格だ」
「いや悪いのは全面的に友方だろう」
「暴力は正当化されるべきじゃない」
こいつはこいつで、何か歪なんだよな。
あれは殴って当然。むしろこれまで友方のわがままを受け入れ続けたことが異常。
「……猫島。俺はこういうのダメなんだよ。命がけで誰かに助けられて。俺は何も返せないままその人を失うっていうのが、どうしてもダメなんだ……」
俺の表情を読んだのか、心情を吐露してくれる。
十中八九、昔何かあったんだろうな。
「――そうか。別に弱いところがあるならそれでもいいだろ」
誰にだって思い出したくないことぐらいあるはず。
昔のことを突っ込んで聞くような関係じゃない。
それにこのぐらいの対応が小鎗も楽だろう。
「なぁ猫島リーダー変わってくれないか?」
「――友方を切り捨てていいなら、変わってもいいぞ」
「はっきり言うなぁ。……それはダメだ、俺は認められない。拓也はまだ越えちゃいけない一線は越えてない――ダチだ」
友方ですら、まだ一線を越えてないと判断できるのか。凄いよホント。
お前が一線を越えたと判断したらどうなるのか、恐ろしいな。
「ならリーダーはお前のままだ。頑張れよ小鎗」
「手伝ってもらうけどな――――嵐真」
「――あぁいいぜ、直樹」
男2人岩陰で顔を見合わせ笑い合った。