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16話:麒麟討伐

 うずくまりながら紅き聖弓リタアローを手に持った瞬間、青き光が俺を包み込み。


 ――天空の遥か彼方。

 暗雲の向こう側へと駆け上がり、太陽に照らされる麒麟(きりん)の姿を目視。

 さらにその声までもが聞こえてくる。


「フォオオン。許さぬ許さぬ許さぬ許さぬ許さぬ許さぬ許さぬ許さぬ許さぬ許さぬ許さぬ許さぬ……偉大なる父の冒涜者よ。大陸もろとも滅び去れ」


 許さないのはこちらの台詞だ。

 八つ当たり。駄々をこねて。今度は大陸ごと滅ぼす?

 

 ――あぁお前は絶大な力を持った友方(ともかた)だ。

 この世に存在していい生物じゃない。


 赤髪の女から託された想いだけじゃない。

 お前を産みだしたのが、地球人の天星スキルだというのなら――地球人が討つべきだろう。


「麒麟を討つぞッ! リタアロー!」


 聖弓に声をかけても――女の声は聞こえない。

 だが放たれる青き光が答えるように輝きを増す。


 青き光が集束――矢となり聖弓につがえられる。


「お前がッ! 滅びろッ!」


 うずくまりながらの射撃。

 光の矢が青き軌跡を残しながら、遥か天空へと疾走する。

 

 かなり無理がある体勢からの射撃だったが、放った矢は俺の意思どおりの弾道で飛翔し麒麟へ直撃。


「フォオオオオン。血、余の血ぃ!? 偉大なる父より与えられし余の肉体を傷つける。貴様ッどこまで余を怒らせる!」


 麒麟は絶叫とともに、神雷を纏いながら天空より急降下してくる。

 出会い頭に放たれた一撃と動作こそ似通っているが、感じる力の桁が違う。


 ゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロ。

 バリバリバリバリバリバリバリバリバリバリ。

 バチバチバチバチバチバチバチバチバチ。

 グオオオオオオオオオオオオオオオオオ。


 大陸ごと滅ぼすという言葉には、誇張が含まれていると思っていた。

 ――だがその認識は覆される。


 麒麟は遭遇からこれまで、まるで本気を出していなかった。その状態ですら桁違いの化け物だった麒麟がいま。いっさいの戯れを捨て去り、俺への殺意を迸らせる。


 雷に加え風も操って、スーパーストームを瞬時に創造。

 神の獣と呼ばれる所以(ゆえん)を理解。

 いまならば、大陸ごと滅ぼすという言葉を疑いなく飲み込める。 


「フォオオオオオオオオオオオオオオオオオオン」


 破滅の嵐を纏った神獣が、うずくまる俺目がけ一直線に墜ちてくる。


 激突の刹那――麒麟と目が合う。

 この世のすべてがなぜ自分の思いどおりにならないのかと、イラついているような。

 わがままを言うときの友方と同系統の目。その到達点を浮かべていた。


 ドゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン。


 うずくまる俺と激突。轟音。

 ――さらに麒麟から雷光が爆発するように解き放たれる。


 ドゴオオオオオオオオオオオオン。

 ゴオオオオオオオオオオオオン。

 ダダダダダダダダダダダダダダ。

 ドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴ。


 ――体に浮遊感を感じる。まさか大地が吹き飛んでいるのか!?


 大陸ごと吹き飛ばすと(のたま)う相手だ、不思議はないか。

 だが想定外。広範囲攻撃から仲間を守れない、火力はないに次ぐ。

 『うずくまる』第3の欠点――俺は無敵でもフィールドまで無敵じゃない。

 

 ダダダダダダダダダダダダダダ。

 ゴオオオオオオオオオオオオン。

 ドゴオオオオオオオオオオオオン。

 ドゴオオオオオンオオオオオオオオオオン。


 轟音が奏でる協奏曲。うずくまってなければ一瞬で鼓膜が破裂しているだろう。

 ――そもそも即死か。


 浮遊感が終わる――浮き上がった大地が地面に落下したのかと思えば――また浮遊感。

 俺は決して落とさないように聖弓を強く握りしめながら、両膝を抱く。


 『うずくまる』は俺の装備も守るが、もし手元からこぼれ落としてしまえば、聖弓でも耐えきれない威力だと直感している。


 ゴゴゴゴゴゴゴオオオオオオオオオオオオン。

 ゴンゴンゴンゴンゴンゴンゴオオオオオオオオオオオン。


 神話の破壊劇は無限に続くかと思える――だが『うずくまる』は精神面も守り抜く。

 うずくまり続ける俺にとってこれは森での見張りと変わらず、恐怖も退屈も感じることはない。

 

 無理に聖弓を使おうとして体勢を自分から崩し、うずくまるが解けたら目も当てられない。

 いまは物集(もずめ)たちがこの攻撃に、巻き込まれていないことを祈りながら嵐が静まるのを待つ。


 神々の黄昏(ラグナレク)だろうと終わりは来る。

 麒麟が攻撃を持続するエネルギーもいつか尽きる。


 俺は思考を遮断。目を閉じ攻撃が終わるまで、考えることをやめた――――。

 



 ――――――――いつしか音は止んでいる。痛みはない。

 死んでいるわけでも、極限の痛みを脳がカットしているわけでもない。

 『うずくまる』俺は無傷。聖弓を握る感触もしっかりある。


 目を開く――大地は見るも無惨にめくれ上がり。

 森林の一部を巻きこみ、一切合切しっちゃかめっちゃか。

 ここまでミキサーされると。ある種の芸術性すら感じる。破壊の美学ってやつか。


「ふぉん……。ありえぬありえぬありえぬありえぬありえぬ。なぜ生きてる。なぜ死なぬ……余の全力で突破できないなど。偉大なる父以外には許されぬことだぞ」


 麒麟はか細く鳴き、大好きな父以外のすべてを許さぬと呪詛を漏らす。


「ハッ随分と弱々しくなったじゃねーか」


 帯電もなくなり、一目見てわかるほど弱体化している。

 全力全開の反動。麒麟といえど無限のエネルギーを持ってはいなかった。


「ふぉん……。貴様……その天星スキルは何なのだ。余は……偉大なる父の『造魔工房』によって産みだされし、二十一大傑作の頂点であるぞ。ありえぬ」


「知るかよ、お前にも偉大なる父とやらにも俺は心底興味がない。ただ許せないだけだ」


 うずくまりながら聖弓を構える。


「ふぉん……。待て、余はもはや瀕死。……偉大な父より授かったエネルギーの大半を使い切った。……せめて最期は……そのような無様な格好の者に討たれたくはない。普通に討ってもらえぬか……余の最期の頼みだ」


 ……無様な格好って、人にものを頼む態度じゃない。

 そもそもこいつは友方の同類だ。殊勝な態度で反省なんてするはずない。

 ――だからこそ。


「いいだろう、俺も最後は格好よく決めたかったところだ」


 立ち上がり、弓道の授業で習った射法を思い出しながら姿勢を整えて構える。

 青い光が矢となり聖弓につがえられる。


「ふぉん。感謝する。彼方の来訪者(エトランジェ)『うずくまる』のネコジマ ランマ」


 お前に名乗った覚えはないがな……。


「ふぉん。本当に感謝するぞ――――――貴様の愚かさにナァ」


 ――――雷速の突進。『うずくまる』で防ぐ。

 ドゴゴオオオオオオオンン。


「ふぉん。は……?」


「だろうな、わかってた。俺がうずくまる速度より早く倒せると考えたんだろ? 残念だったな。『うずくまる』は発生に謎の補正がかかっていてな、瞬間的にうずくまれるんだ」


「ふぉん。待て、貴様に余が持つすべてをやろう」


「麒麟――ざまぁ」


 忌々しく言葉を投げ捨て、うずくまりながら聖弓リタアローより誓いの一撃を放つ。


「ふぉ……ん……。偉大なる……父……あなたのところに……余も………………」


 青き矢に貫かれた、麒麟の体が崩壊し消えていく――。


 ――最期に謎のクリスタルだけが消えることなく地面に落ちた。


「勝ったぞリタ……誓いは果たした……」


 クラスアップの超発光に包まれながら。赤髪の女に勝利を告げる。

 ……思い返せば俺しか名前を名乗っていない。名前リタでいいんだよな?


 ――聖弓リタアローは何も答えないが。かすかに青き光を優しく放った気がする。

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