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15話:聖弓とともに

「フォン。――じつに無様よのう」


「なっ人語を喋った!?」


 赤髪の女と同じく日本語ではないが、麒麟(きりん)が何を喋っているのか理解できる。


「フォン。余が人の言葉を(かい)せぬはずがなかろう」


 フッボッ。

 毒矢を吹くが予想どおり纏う雷に燃やされた。貫通できない!


「フォン。怯えるな。汝が彼方の来訪者(エトランジェ)と知ったいま。害なすつもりはない」


「何だと……?」


 こいつ何を言ってるんだ。さっき俺を攻撃に巻き込んでいたと思うがあれは害じゃないのか?


「フォン。お主らチキュウジンであろう?」


「地球を知っているのか!?」


「フォン。余は天星スキルにて産みだされし獣。偉大なる父の同胞(はらから)に手出しはせぬ」


 ――言葉がなくなる。

 天星スキルを使えば、こんな規格外の怪物を産みだすこともできるのか。


「フォン。――ホレホレ」


 バシバシ。

 か細い息をするだけの女を前足で蹴りつける麒麟。

 

「ッ何をする! そもそもなぜ戦うことになった!?」


「フォン。人の幼子」


「……………………。…………? 続きは?」


「フォン。わからぬのか? 偉大なる父は一を聞いて十を知るのがチキュウジンと言っておったぞ」


「そんな真似は地球人でも、ごく一部の天才しかできない!」


「フォーン。それは善きことを聞いた。余の偉大なる父はチキュウジンのなかでも選ばれし者と」


 麒麟は喜ぶように1度、甲高く鳴いた。


「俺は理由を聞いているんだ! なぜ争う?」


「フォン。人の幼子が妖精(フェアリー)悪戯(いたずら)で、余と偉大なる父の聖域へと運ばれ。偉大なる父が眠りし墓標に近づいたので殺したが――余の怒りが収まるはずもなく」


 …………。


「フォン。報復に悪戯妖精の郷と幼子の村を根絶やしにして満足しておったのよ。だというのにこの人間の冒険者たちが、余を討とうとやってきたので返り討ちにしたまでよ。1人取り逃がした、この女を討つために余はここに在る。偉大なる父の同胞ならばわかるであろう。偉大なる父の墓標を汚された余の悲しみと無念が」


 バシバシバシバシ。 

 憎悪を隠さず、瀕死の女を痛めつけるように蹴り続ける麒麟。

 

「……本気で言ってるんだよな…………」


 これは冗談で、本当のまともな理由がほかにあるのならよかった……。


「フォン。余はおかしなことを言ったかの?」


「あぁ……お前の話で俺が許容できるのは、悪戯妖精をぶち殺すまでだな……子供を殺したのも郷と村を滅ぼしたのも、全部が全部最悪だよ。許せない。何が偉大なる父だ。お前の父は地球でならゴミ屑扱いだよ」


 吐き捨てるように言う。うずくまり冷静さを保っている。

 ――だが怒りを感じないわけではない。俺は冷静にキレている。


「フォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン」


 ドゴオオオオオオオオオン。

 凄まじい雄叫びとともに麒麟が地面を蹴り上げ、一条の稲妻となって天へと駆け上がっていく。


「ごほっげほげほ……か、らだが重い……」


 稲妻に焼かれた女が咳き込み、意識を取り戻す。電気ショックか!?


「大丈夫か!? 正気を取り戻させるため毒を打ち込んだ、早く自分にヒールを使え!」


「あぁ……迷惑かけて……ごめんなさい……」


「いいから、早く治療しろ!」


「…………私が治っても勝ち目はないです……」


「仇討ちは諦めるのか?」


 ――不思議だが。

 死に場所を探すように見えた女の眼に、瀕死のいま光が宿っているように感じる。


「いいえ……諦めません……あなたに託します……」


「俺は赤の他人だぞ! 自分の手で果たせ! だからヒールを!」


「……対価もなしに……お願いを聞いてもらおうとは思いません……私を差し上げます……使ってください――」


 意味がわからない。


「――そして麒麟をッ! 仲間のッ! 罪ない人たちのッ! 仇を討ってッ! 彼方の来訪者(エトランジェ)『うずくまる』のネコジマ ランマッ!」


 最期の気力を振り絞るように、赤髪の女は涙を流しながら声を上げる。

 知識がない俺には女が何を考えているのか見当もつかない。

 ――だが何かの覚悟を決めているのはわかる。


「――私の血と肉、アニマのすべてを魔力へと『リタアニマ・コンバージョン』――」


 女が呪文を唱えた瞬間。その体が青い光になって崩れていく。


 ――――あぁ察した。その魔力を俺に使わせようというのだな。

 無敵の『うずくまる』が攻撃手段を得たなら勝機が生まれる。

 

 ……これは死にたがりの自殺でも。無責任な丸投げでもない。

 彼女が麒麟を討つために決めた、光の覚悟ッ!


 ならどうする? ――決まっている。 


「――誓うッ! 麒麟は討つッ! いっしょに征くぞリタッ!」


 うずくまりながら強く、強くッ! 魂の奥底から宣言した。


「――ありがとうございます――『武器転生リタ・リインカーネーション聖弓(アロー)』」


 女は微笑みを浮かべて逝く――――。


 ――そして女が最期を迎えた場所に、青い光が収束し実体を形成していく。

 形状は弓。色は赤、いや――紅い弓。


 弓からは青き光が放たれ、静謐(せいひつ)偉容(いよう)を感じる。

 青き光を纏う荘厳(そうごん)なる紅き弓。


 ――聖弓リタアローがこの世に創造された。

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