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14話:精神攻撃も無効

「フォオオン」


 麒麟(きりん)は人の会話を理解している。

 俺の言葉どおり雷撃が効いてないことに警戒したのか、いぶかしげに鳴いて空へと距離をとっていく。


 友方(ともかた)を残すべきだったか? いや残っていてもさっきの一撃で即死か。


 そもそも赤髪女の話では、天星スキルは絶対的というわけでもないらしい。

 麒麟に『告げ口』が効くのだろうか?

 ……何となくだが麒麟からは友方の同類のような印象を受けているし、それでなくとも根本的な格が違う。――効かなそうだな。


「遠距離攻撃はあるか?」


「シールドをブーメランのように飛ばすことはできますが、麒麟相手では盾を失うだけです」

 

 どうするか、俺の毒吹き矢が届くはずがない。

 ……そもそも毒矢を吹いても、麒麟が纏っている雷に焼かれて消滅するだろう。

 よしんば命中しても、そこの森の自然毒が麒麟に効くのか?


「なあ麒麟に毒は有効か?」 


「……(ノウェム)の大怪獣ヒュドラの毒ならば、あるいは効くかもしれません」


 同格の毒でも可能性があるぐらいか、残念だ。俺に麒麟を倒す当てはなくなった。

 守りは無敵のチートでも、攻めに難点がある。


「フォン……フォフォフォフォフォーンフォーン」


 何だ? 麒麟が空で鳴き続ける。


「ッあれはマズいです。私のパーティーを壊滅させた精神攻撃です」


「あんたはどう防いだ?」


「私は精神統一で防ぎましたが……パーティーの過半数が精神汚染され同士討ちを…………ぐすぅ」


 話しながら仲間の最期を思い出してしまったのか涙を流す女。

 

「――精神攻撃も俺には効かない」


 睡眠も食事も、うずくまれば不要の俺はこの数日の見張りをすべて1人でした。

 それでも苦痛をまるで感じなかった経験からの推測。


「精神攻撃に対する防御能力まであるんですか!?」


 真紅の目を見開き、女は驚愕する。


 反応的に物理攻撃と精神攻撃に対する防御は、まったく別系統か。

 ――『絶対防御』という言葉が思い浮かぶ。


「――なあ精神を集中しないとダメなんじゃないのか?」


 そんな驚愕してる状態で大丈夫か。


「ダメです。『精神統(メディテ)――』」


「フォオオオオオオオオオオオオオオオン」


 麒麟のけたたましい声が空間に響き渡る。


「ぅぁう」


 女がうめき声を上げながら、頭を抑える。

 俺は推測通り、何の影響も受けていないが……。


「大丈夫か?」


「オマエェー! ワラッタナ! ワタシノムネヲ! ヒンニュウッテ! ヒロメタナ! タイリクジュウニ! ソウダ! ワタシコソ! ヒンソウナルキョウブノリタ――――チガアアアアウ! コロス! コロス! コロスゥ!」


 ガンガンガン、ガガン。


 何これ、ヤバくない? 眼を血走らせ赤髪をかきむしりながら吼え猛り、女が狂ったように俺を盾で殴ってくる。言ってる内容がわからない。

 たしかに女の胸は修道服のようなローブの上から見るかぎり、真っ平らにしか見えないレベルだが。そういう問題じゃない。


「落ち着け! 俺は敵じゃないし。何も言ってない」


 青い光を纏った盾でガンガン殴られてもダメージはない。

 だがこれでは麒麟と戦うどころではない。どうやって正気に戻す!?


「ギヒギヒギヒヒヒヒヒ。ギヒャヒャヒャヒャ」


 ガンガンガンガンガン。

 ヤベー、言葉がまったく通じなくなっている。


 死ぬ気だったこと以外はまともな女だったのに……ここまでおかしくなるとは。

 仲間がこんな最期を迎えたら、生きる気力をなくしても不思議じゃないか……。


 ――俺が選べる選択肢なんて多くない。


「おい。あんたかなり強いんだよな?」


 少なくとも麒麟の攻撃を何度か防いだんだ、かなりの強さがあるはず。


「ギヒヒヒヒヒャヒャヒャヒャ」


 ドカドカドカドカ。

 盾を投げ捨てた女が、青い光を纏った拳でうずくまる俺の顔を殴りつけてくる。


「ええいままよ!」


 フッ。パシュ。


 森で数多くの魔物を屠った、貫通猛毒矢を狂乱する女に打ち込んだ。

 女の全身は青い光に包まれている。毒が防がれても不思議じゃない。


 ――小鎗の天星スキル『極小貫通孔』を信じるしかない。

 そしてもうひとつ、仮に毒が効いても死なないだけの強さを女が持っていることを信じる。


「グヒュ。ガブブブブ。ヒギィィ」


 白目をむいて、泡を吹きビックンビックン痙攣(けいれん)する女。


「頑張れ、頑張れッ! 耐えろッ! 生きろッ! 死ぬなッ! 仇を討つんだろッ!」


 倒れた女にうずくまりながら近づき。頬を軽く叩きながら激励する。


「ヒュー……ヒュー……ヒュゥ……」


 嘘だろ。息が弱くなっていく。


 パッカパッカ、パカパカパカパカパカ。

 いつの間にか地面に降りていた麒麟が、足音を響かせ近づいてきた。

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