13話:神獣麒麟クラスⅨ
『うずくまる』が二つ名じゃ締まらない、以前の問題だと気づいてしまった。
うずくまりながら名乗りを上げる時点で、どんな二つ名でもダサい!
――格好よさを求めるのは諦めよう。
「たしかに歴史に名を刻む強者の大半は天星スキル保有者です。それでもクラスⅠで麒麟級と戦える存在など聞いたこともありません。あなたも逃げてください」
――なぜそうまでして逃がそうとする。
明日を生きる気が、まるで感じられない暗い眼と関係があるのか。
「……助けてくれた相手にこんなこと言いたくなかったが……。あんた何でここで死ぬことを決めているんだ? 俺が逃げない1番の理由はな、自殺の言い訳に俺を使われたら気分が悪いからだよ」
こいつの自己犠牲精神が、小鎗のような光の意思から発生したものなら。
他人の俺が口を挟むことじゃない。引き下がってもよかったが……明らかに違う。
ネガティブに死ぬための理由を探して、それに俺を巻き込むのは論外だ!
低クラスの弱い子たちを守って私は死にます? ふざけるなよ!
それでこの女は満足だろうが、助けられた方は最悪の後味だ。
ムカついて丁寧に話す気がなくなった。
「ッ――あなたにッ! 何がわかるんですかッ!」
真紅の瞳に涙を溜めながら、激情を表す赤髪の女。
「生憎俺のスキルは読心じゃないからな。他人の事情を言葉もなしにわかるかよ」
「麒麟がここにいてあなたたちを襲ったのは、私たちのせいなんですよ! そして私の仲間はみんな麒麟に殺されましたッ! シールドヒーラーの私が何で唯一生き残ってるんですか! パーティーの盾役が何で…………」
女が大粒の涙を流す。
「――事情はわかった。言わせておいて悪いけど、俺にあんたを救うことはできない。それでもひとつだけ言うが、いいのかよ! 仲間をやられたんだろ? 仇を討てよ! 何で仲間をやった相手に殺されようとしてるんだよ!」
「何も知らない異世界人が勝手なことを言わないでッ! 私だってできるなら刺し違えてでも倒したいッ! でも麒麟は! あなたが思っているような存在じゃない、勝てないの! あなた、どんな攻撃も効かなくなるって言ってたけど、どんな天星スキルだろうとⅠ《ウーヌム》が麒麟の攻撃を防ぐなんてデタラメできるはずがないの! 麒麟は神獣って呼ばれてる、アニマクラスⅨなのッ! 何で逃げてくれないの……?」
感情のぶつけ合い。
天空からこちらを見下ろす、麒麟の口元が大きく歪んだ。
あいつまさか人語がわかってるのか? 楽しんでいるのか、言い争うのを。
……何が神獣だ。悪趣味すぎる。
「フォオオオオオオオン」
煽るような甲高い鳴き声が癪に障る。
友方に匹敵するほどムカついてきた。
「――逃げろって言うけどさ、きっとそれ無駄だぜ。あいつ悪趣味すぎる。あんたを殺した後まず間違いなく俺たちを追ってくるぜ?」
友方を連想するような悪辣さだ。ほぼ確信できる。
「そんな……」
「あれの初撃を完全に防いだんだ。あんた凄い強いんだろ? ならここで倒すんだよ! 麒麟を! それしか俺たちが生き残る道はない」
「フォオオオオオオオオン」
雷を纏った麒麟が、空中から降下してくる。
「俺のバリアを解いて自分だけに力を使えッ!」
「ッもう知りません、自分の身は自分で守ってください。私はみんなの仇討ちを優先します」
目を拭いながら女は気丈に宣言すると同時、盾より展開されていた光の膜が消え去った。
「フォオオオオオオオオオオオオオン」
バリバリバリバリバリバリバリ。ドッゴォォォォォン。
ヤバい幻想的だ――麒麟から放たれた無数の雷が視界を駆け巡る。
天を穿つ雷。大地を切り裂く雷。
狙いを定める気はないのか、放たれた雷は縦横無尽にこの世を謳歌する。
神話的光景に息を飲みながら心で笑う。あっははははは。
ファンタジーすぎるぜ。オークやコンガが動物園の生き物に思える次元だ。
当然雷が俺を避けることなどなく、幾重もの雷が俺を容赦なく焼き貫く。
――だがうずくまっているので無傷。
以前の予感は正しく、俺の『うずくまる』は神話級の破壊力でも突破することはできない。
「――嘘、あなた……生きてるの?」
盾を構え青い光で全身を覆った女もまた神雷に耐えていた。
そしてありえないお化けでも見たかのように、恐る恐る問いかけてくる。
「言ったろ。『うずくまる』俺にはどんな攻撃も通じないっ――てな!」
ドヤるのは友方みたいで、あまり好きではない。
がまったく人の言葉を信じなかった女相手なら、少しぐらい構わないだろう。
うずくまりながら渾身のドヤ顔を披露した。どやぁ。