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12話:『うずくまる』のネコジマ ランマ

 俺たちは馬の足跡を辿って道なりに進む。


 何かを考えているのか、小鎗(こやり)が顎に手を当て真剣な表情をしている。


「どうした小鎗?」


「あぁこの先で異世人と遭遇した場合を考えていた。まず日本語が通じるはずないよな。どうやって意思疎通すればいいと思う?」


「……杞憂の可能性もあるぞ。何せスキルに魔物、さらに謎の発光現象で強くなる異世界なんだ。人類同士の意思疎通を司る神さまがいたり、世界の仕組みがあっても不思議じゃないだろ。まるでバベルの塔崩壊前の世界だな」


 最後は冗談めかして言ったが、俺の返答に虚をつかれたような顔をする小鎗。


「なるほど……凄いな猫島(ねこじま)、ホントに凄い機転だ。俺には思いつきもしなかった発想だが、言われてみれば頷ける」


 感心したように深く頷く小鎗。


「まぁあくまで可能性だ。それにいざとなれば友方(ともかた)の『告げ口』を利用すれば、意思疎通は可能な気がするぞ。何せ魔物にすら俺の悪口を告げられるんだ」


 肩をすくめて答える。

 ――いや待てよ、この考え穴があるか? 告げ口が人に有効ならクラスのスキル実験で何も起きなかった結果と矛盾する。

 友方がクラスアップすれば強化されて効くかもしれないが、そうなると俺たちにも告げ口が効くようになってしま――。


 ――ゴロゴロゴロゴロ、ピカーン。

 突如青空に雷鳴が響き暗雲が立ち込める。


「ひぃ雷。怖いぃ」


 友方が地面にうずくまる。こいつ俺の持ちネタをッ!


「――ダメ、傘は拾えないよ」


 雨に備えて『物拾い』を試したらしい物集(もずめ)が、何も持っていない手を示す。


「雨に濡れて体を冷やすのはマズいな。どうする猫島?」


 ゴロゴロ、ピカーン。


「ござる! いま暗雲の向こうに何か見えたでござる」


「ッ魔物か?」


 毒島(ぶすじま)に問いかけながら暗雲に目を向ける。

 雷雲とともに現れる魔物って超強そうだぞ……。


「わからぬでござ――いや! 魔物、魔物でござる!」


 俺にも見えた。雷を纏った鹿と馬を混ぜたような生物が走ってきている。

 頭頂部には2本の大きな角があり、バチバチと帯電している。

 まるで中国神話の麒麟(きりん)だ。


 まだ遠いがそれでもプレッシャーがヤバい。森の魔物とは比較にならない化け物。


「みんな逃げろッー!」


 言いながら俺は『うずくまる』を使う。

 無敵の俺にタゲを集め、それを後ろから毒で攻撃する戦法には大きな弱点がある。

 

 それは広範囲攻撃! 

 たとえ狙いが俺だろうと、周囲一帯を薙ぎ払うような一撃ならば、みんな巻き込まれてしまう。


 そしてこの麒麟には、それができそうな凄みがある。


「うわぁぁぁぁぁ。――僕転んだぁああああ、足首をひねったよぉ」


拓也(たくや)! 掴まれ」


 物集と毒島は順調に離れていったが、友方がこけた。

 倒れた友方に駆け寄ってフォローする小鎗。


 だが麒麟はすぐそこ――無理だ間に合わない。

 うずくまっている俺の精神は冷静さを保てるだろうが、それでも死ぬ瞬間を見るのは嫌だ。目をつむる。


「フォオオオオン」


「うわぁあぁぁぁ」


 バチバチバチバチ。ドゴオオオオオオオオン。

 友方の悲鳴とそれをかき消す雷鳴と震動。

 

「誰だ……?」


 小鎗の声が聞こえた。生きてるのか!? 俺は目を開く。

 友方を攻撃から庇うように抱く小鎗を、守るように立ち塞がる盾を構えた女がいた。

 麒麟は女から距離を取るかのように、空へと下がっている。


「その格好シャーマンのみのパーティーですか。珍しいですね。アニマクラスはいくつですか?」


 人間だ。そして日本語には聞こえないが、何を喋っているのかわかる。

 まさか人類同士の言語補正が本当にあるとはな。


「シャーマン? アニマクラス? 申し訳ないが答えようにも質問の意味がわからないです」

 

 小鎗が真剣に答える。

 格好を見てシャーマン……あぁそうか俺たち全員植物の服だしな!

 植物の服がシャーマンの正装なのだろう。


 そしてアニマクラス――生命の位階と訳せば。あの超発光による強化を連想する。


「――アニマクラスが超発光現象のことなら、1回したのが2人います」


 うずくまりながら推測を伝える。


(ドゥオ)が2人と(ウーヌム)が3人ですか、戦力外ですね。最初に言っておきますが私1人で麒麟は倒せません。可能なかぎり時間を稼ぎますから逃げてください」


 盾を持つ赤髪の女は厳しい顔で、敵の方が強いことを告げてくる。


「僕足首をひねってます。助けてぇ!」


 情けない声を上げる友方。


「『ヒール』」


 左手で盾を構えながら、右手を友方へ向け呪文が唱えられる。

 まさか魔法か!?


 淡く青い光に包まれた友方。


「うわぁぁぁ。――あれ、足が痛くない! 治ってる! やったー!」


 友方は起き上がって飛び跳ねる。

 さすが異世界、魔法があるのか。俺にも使えたりするのかな?


「これで走れますね、行ってください。次も防ぎきれる保証はできません」


「はい、僕逃げます! 頑張って時間を稼いでね!」


 礼も言わずに友方は毒島たちが逃げた方へと走っていった。

 おいおいおい、ヤベーぞ。現地人にアレを俺たちの標準にされたら困る。


「仲間がお礼も言わずに無礼な真似を申し訳ありません。救援と治療、感謝いたします。このお礼はいつか必ずしますので、お名前を伺ってもよろしいでしょうか」


 小鎗が代わりに無礼を詫びるが――。


「お願いですから、早く逃げてください。いま私はあなた方を守るために多くの魔力を消費し続けているのです」


 ――この状況では一目散に逃げ去った友方の方が望みどおりだったようだ。

 女が左手で掲げる盾からは、青い光が膜のように薄く広がり俺たちを包んでいる。


「すみません! 本当にありがとうございました! 必ず無事でいてください! このお礼は必ずします!」


 小鎗は全力で走り去りながらも、力強い声で言葉を残していく。


「俺のことは気にせずに、その盾の魔法を解いてください」


 女のどこか暗い眼。そして麒麟との戦いが気になる。

 うずくまっていれば無敵の俺はこの場に残ろうと思う。


「何を言ってるのですか。相手は麒麟です。クラス(ドゥオ)がどんな力を使おうと戦える相手ではありません。生命としての格が違いすぎるのです」


 たしなめ諭すように、真剣な表情で言われる。


「信じてください。俺は1回も超発光してませんが『うずくまる』を使っているので大丈夫です」


 俺も真剣に言葉を返す。


「『うずくまる』……まさか天星スキルですか?」 


 スキルを天星スキルと呼ぶのが、この世界での正式名称なのか。


「そうです! 俺の天星スキル『うずくまる』はこうしてうずくまっている間、どんな攻撃も効かなくなるんです」


「……天星スキルを所有し、その格好でシャーマンではなく、アニマクラスも知らない。選ばれし祝福者(ゲニウス)ではありませんね。まさか彼方の来訪者(エトランジェ)ですか!?」


 謎の力に翻訳されて理解した語感的にだが、エトランジェというのが俺たち地球からの転移者を示す言葉だろう。


「そう。俺はエトランジェ。『うずくまる』のネコジマ ランマ!」


 それっぽく名乗りをあげた。

 ……二つ名が『うずくまる』じゃどうにも締まらないな。

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