10話:クラスアップ
うずくまる俺に飛び乗った、猿のような魔物コンガは地団駄を踏むかのように。
スタンプ。スタンプ。スタンプ。スタンプ。スタンプ。スタンプ。
一心不乱に背中を踏みつけながら、殺意を込めて吼え猛る。
「がああああああああああ」
スタンプ。スタンプ。スタンプ。
あの悪口のどこが気に障ったのか。怒りと悲しみをない交ぜにしたような慟哭。
「があ! があ! があああああああ! ああああああああああああ!」
魔物ですらイラつかせる友方のウザさ。
……この猿にとっては俺が言ったことになっているのか。
「よし、猫島に狙いは固定されたな。拓也この毒矢を使ってみろ。俺が撃つときの感覚でスキルを付与してみた」
「えっ? 嫌だ! 危ない危険。毒矢を僕に近づけないでよ!」
「倒せたらレベルが上がるかもしれないぞ」
「いーやーだ! 僕は安全にレベルを上げたいの! 手元が狂って矢が僕に刺さったらどうするのさ! 解毒剤は? ないよね!」
「わかった……毒島試してくれるか?」
「任せるでござる――――フッ」
カン。パシュ。
「ダメだ! 衝突音が聞こえた! 孔は空いてない、弾かれてる!」
うずくまり、荒ぶるコンガの踏みつけラッシュを防ぎながら。
咆哮にかき消されないような、大声で結果を報告する。
「っく。俺のスキルはダチに貸すこともできないのか……」
「小鎗君、落ち込むのは後にして! いまは魔物を倒して! 猫島君のうずくまるだって、どこまで無敵なのかわからないんだから!」
物集の心配はもっともだろう。
しかしそのことに対して俺は、不思議なぐらい恐怖を感じない。
根拠はない。だが『うずくまる』に攻撃を防ぐ力があると気づいたときから。
――予感がある。
たとえ神々の黄昏が起ころうと。『うずくまる』は破られないッ!
「悪い物集! 猫島、いま倒すからな! うおおおお――フッ」
パシュ。小鎗のゼロ距離毒矢吹きが炸裂。
「があッ? あぁぁぁぁぁぁ……があ……ぁぁぁぁ…………」
毒の効果は抜群だ。荒ぶる咆哮は痛みの嘆きへと変化する。
「があぁぁぁぁぁ……………………」
真っ赤なお尻のコンガは、またたく間に絶命した。
追放されてから遭遇した魔物で、最初のオークが1番タフだったな。
だが、それでも長くは持たず倒れた。
友方の思考に共感するのは癪だが、近づけられるのすら怖がるのが理解できるレベルの猛毒。
起き上がると見慣れた光景。また小鎗が光っているが――。
「あーまた直樹だけレベル上がってる! いいなー」
「うお……何だ、この感覚はッ!? 力が――――」
――何だこれは。小鎗がかつてないほど光を放っている。
「小鎗君光りすぎだよ! 大丈夫なの!?」
「まぶしいでござるぅ」
「うおおおおおおおおおおおおおおおお」
髪を逆立てながら絶叫。小鎗を中心に光が波紋のように広がる。
「きゃあ」
「ぬお。こけたでござるぅ」
「何なの直樹!? うわぁぁぁぁぁぁぁ」
俺は反射的にうずくまったので影響はないが。
光が質量を持っているかのように、物集たちと周囲の木々を揺らす。
――異常はあくまで瞬間的なモノだったようだ。
これまでと同じように発光が収束していく。
「ッ! 感じた。扉が開いたような。大きくなったような。できないことができるようになったような――悪いッ俺じゃ上手く説明できない」
いまの現象を言葉にしようとする小鎗。何となくだが伝えたいことはわかった。
「普段の発光、レベルアップを一の位の上昇とするなら……いまのはレベルが一定に到達したことで、十の位が上がったクラスアップと言ったところか?」
「ああそれだ! さすが猫島、本質を見抜くのが上手いな」
「いや、このぐらいは普通だろ。それで、できないことができるようになったってのは?」
「あぁ根拠は何もない! だが俺のスキル『極小貫通孔』を矢に付与して、仲間に渡せるようになった感覚がするんだ」
「それは画期的な強化でござる! 拙者らもレベル上げが可能となるでござるよ!」
興奮する毒島。やはり心の中ではレベルを上げたかったらしい。
まあ、それが普通だろうな。
「焦るな毒島。まだスキルを付与した毒矢を受けとって魔物を倒したとき、誰が倒したことになるかわからない」
期待を裏切られるとショックが大きいからな。念のため釘を刺しておく。
まあ武器を用意する方が評価されるなら、毒島と物集のレベルは上がっているはず。
それがないということは受けとった貫通スキル付与毒矢で倒せば、放った奴が倒したことになるはず。
……これで小鎗が光ったら笑うな。