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9話:レベルアップが不公平

 ――――夜が明けてきた。


「まぶ……しい。…………まさか朝か!?」


 小鎗(こやり)がガバッと体を起こす。


「よう。おはよう小鎗」


 うずくまりながら顔だけ突き出した体勢で挨拶。


「徹夜か猫島(ねこじま)!? なぜ起こさなかった。いや問答は後だ、まずは寝ろ猫島!」


「いや、それが全然平気で眠くないし疲れてない。絶好調なんだ」


「……それは危険な兆候じゃないのか?」


「……それも考えたが、これは脳内物質の幻覚じゃない。ガチで平気へっちゃら。十中八九『うずくまる』の効果だ」


 これまでクラスでの持ちネタとしてしか使わず、長時間うずくまり続けたことがなかったから気づけなかったが。


 うずくまっている間、空腹感と喉の渇きが減少していき体調が万全へと回復していった。

 さらに退屈に感じた見張りも苦痛に感じず、集中力を保ち続けることができた。


 まさか無敵の防御に加えて、リジェネ効果まであるとはな。


「俺たちはスキルについて、本当に何もわかってなかったんだな。――もっと早く気づけていればッ」


 小鎗が悔やむように唇を噛む。

 昨日戻らない方針に決定したときも沈んでいたが、やはり小鎗の後悔は強い。


 ……たしかに全員の精神に余裕があるうちに気づけていれば、一致団結して本当の効果を研究し、現状の打開策を見つけることもできたかもしれない。


「――だがそうはならなかった。もう仲良くするのは無理だぜ……」


 それができるほど聖人なのは小鎗。お前だけだ。

 だからお前はクラスにこの件を手土産に戻ってもいいんだぜ?

 ……本当に戻られたら困るので言葉には出さない。

 もちろん自ら抜けてクラスに戻るというのであれば、それは小鎗の自由だが。


「――覆水盆に返らずでござるな」


 いつの間にか目を覚ましていた毒島(ぶすじま)が俺の言葉に続く。


「あぁわかっている。俺はクラスの奴らを恨んでないが、お前たちの気持ちもわかるしそれが普通だ。そして俺は理不尽に追放された側を放置することはできない」


 ふぅ抜ける気はないようだ。

 しかし小鎗も方向性は光属性だが、ちょっとヤバい性格してるな。

 この世界だと死因になりそうだ。頼むから友方(ともかた)を庇って死んだりするなよ。


「それじゃ森を少しでも早く抜けるためにも。物集(もずめ)を起こして出発しようぜ」


「ああ、そうだな。――起きろ朝だぞ、物集、拓也」


 残念なことに小鎗は、友方にも声をかけながら体を揺する。


「うん……朝……おはよう小鎗君。猫島君」


「ううう……お腹いっぱい食べる夢見てたのにぃ。責任取ってよぉ。お腹すいたよぉ。喉渇いたよぉ。僕死んじゃ――むぐぅ」


 友方の口に激苦葉っぱを押し込んでやる。


「ぷううううううぎゃぁぁっぁぁぁあ。ぺぇぺぇぺぇマズマズマズいいいいい」


 元気に跳ね起きた。いいね! 次から友方のことはこれで起こそうかな。


「猫島かぁ! 何でこんなひどいイジメができるのさ!? クズッとてもつもないクズッ! 地球に帰ったらお父さんに逮捕してもらうからな!」


「まぁ地球に帰れるなら、友方イジメ罪で懲役1ヶ月ぐらいは我慢してやるよ」


「はん。1ヶ月で出られるとでも? 僕のお父さん舐めるなよ! イジメは倍返しだ! 3ヶ月は少年院だぁぁぁぁぁぁ」


 友方数学は難問すぎる。


「よし、全員目は覚めたな。森を進むぞ、必ず出口はあるはずだ!」


 小鎗は友方のことを見捨てる気はなさそうだが、発狂する友方をスルーして話を進める。

 まあ構っていたら、話が進まないから当然の対応だがな。


 しかし横から見るかぎり特別仲がいいようには見えない2人が、なぜ名前で呼び合う関係なのか、さっぱりわからないな。




 ――――俺たちは森を進んだ。


 途中で魔物に何度も遭遇するが、昨日のオークと同じ戦法で危なげなく撃破し続ける。

 5体の魔物が同時に現れても『告げ口』で、すべてのタゲを俺に集めることができた。

 そして5体の魔物にフルボッコにされても『うずくまる』俺には傷ひとつない。

 マジで強いぞ、この戦法。


 難点は相変わらずレベルが上がるのが、小鎗だけなことぐらいか。

 小鎗は8回発光した。最初を1として、いまはレベル9なのだろうか?

 ……ゲーム的な考えだと強敵を倒したことで、レベルが1度に複数上がっている可能性もある。

 まぁそもそもレベルアップはクラスで決めた呼称にすぎない。


 ――わからないことだらけだな。


「はぁぁぁぁ」


 バギィ。

 小鎗が木の幹に蹴りを放つ。決して小さくはない木を折った。


「スキルなしで凄いでござる。これがレベルアップの身体能力強化でござるか」


「さすがの小鎗君でも、もとから折れたりしないよね?」


「あぁ無理だ、俺にこんな筋力はなかった。いや、いまでも筋肉が増加したような感じはしない。なぜか強くなったとしか説明できない……異世界は何でもありだな」


 レベルを上げればスキルなしでも、魔物と戦える力が手に入るのは朗報だな。

 後はどうにか小鎗以外のレベルも上げられるといいんだが……。

 敵を倒した火力しか評価されないのはエグい。

 友方に目を向ける。


「うーうーうーむうむうむう」


 先ほどからずっとムッとして唸っている。

 理由は簡単。自分のレベルが上がらないのがつまらないのだ。

 ガキかよ……と思いたいところだが。さすがに小鎗しか上がらない状況はマズい。


 俺はうずくまるがぶっ壊れスキルだったからか、精神に余裕があるが。

 物集や毒島はどうだろうか? いまのところ小鎗への険は感じないが……。


「みんな……俺ばっかり悪いな……」


 ばつが悪そうにしながら、名案はないかと救いを求めるような視線を俺に向けてくる。俺は賢者じゃないぞ、あまり期待しないでくれ。

 とはいえこのままではマズい。下手をすれば数日で険悪になりかねない。


 小鎗の攻撃が頑強な魔物に通じる理由は、毒矢を放つさい『極小貫通孔』のスキルを付与して、命中時に毒を体内に送りこむための孔を空けているからだ。


「――小鎗。お前のスキルを付与した毒矢を、ほかの奴に渡すとスキルはどうなる?」


「それは試してないな! よし、次の魔物で試してみよう」


「うがあぁぁぁ!」


 タイミング良く魔物と遭遇した。


 太った人間大の猿みたいな魔物。コンガって奴が近いな。


「『うずくまる』ッ! 友方ッ!」


 うずくまりながら指示を出す。


「ちぇーどうせ僕レベル上がらないのになぁ。不公平だよ。……おーいお猿様! そこにいる男、猫島 嵐真が貴方の真っ赤なお尻を熟れてない青い果実って馬鹿にしてましたよ。あと体臭が臭すぎて猿界のお下品スメルチャンピオンだって、貴方の群れに秒速13キロで拡散してましたよ!」


 わけがわからない告げ口。言ってる当人もわかってないだろう。


 常識的に考えれば、誰も信じるはずがない。

 しかし友方はまだ気づいてないようだが、ほぼ間違いなく『告げ口』には告げた内容を強く信じさせる洗脳効果がある。

 上手く扱えば相手を使役することすらできそうだ。


 もちろん友方にそんなこと教えられるわけないが。


「が……がぁあああああああああああぁあああああぁああああああ」


 うお、何だ。これまで見たことがないぐらいブチ切れたぞこの魔物。

 まさかあのメチャクチャな悪口に、思い当たるふしがあったのか!?

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