第二話 小学生の頃のお話
―一週目を平日を終え迎えた土曜日の朝―
新しい学校生活が始まって、休日に入り、まだ慣れていないか、体の方に疲れが溜まっている。そして、普段の学生ならこの日は、家に出る時間帯よりも遅く起きて、ゆっくりしただろう。
僕の場合は、いつもより朝早く起きて、家から出る準備を着々と進めている。
荷物を持ち、忘れ物がないかだけ確認する。そんな最中、僕の携帯に一本の電話がかかる。
「もしもし……おはようございます」
「もう準備は、できたか?」
「はい、もうすぐ家を出るところです」
「そうか、今日はいろいろとやることがあるから忙しくなるぞ」
そして電話を切った後は、家を出て、最寄りの駅に向かう。
時を遡り、小学校六年生の頃。
僕が従来住んでいた東北地方にある山形県の都会の町に、学校があって、家から学校まで徒歩で30分のところだ。
そこは、田舎と比べれば、比較的に人口が多く、街中はにぎやかに包まれる。
学校に行く時は、お母さんに見送られながら、ランドセルを背負って歩いていた。
集合場所まで歩けば、友達がいて、時間になれば、みんなと固まって楽しく登校した。
そうして、六月になる時は、六年生の最初で最後の修学旅行がある。その修学旅行は二泊三日で、場所は東京になる。
東京までは、新幹線で東京駅まで向かい、降りた先に観光案内人が待ち構えている。その観光案内人に連れられて、バスに乗り、東京の街を観光する。
まず、向かった先は、国会議事堂だ。この国会議事堂は、国会議員や内閣総理大臣が集まる立法府である。学校の教師や議員にでもならないと、一般人が滅多に入れない場所。そして、バスを降りて、教師と一緒に向かい、中に入って、あたりを見渡すと、歴史の名残を感じさせる建築になっている。
その後はバスに乗り、築地、浅草の順に回って、東京の風景を眺める。夜になれば、ホテルに泊まり、体を休めることにする。
二日目の朝は、バイキング形式に則って、お皿の上におかずを乗せて、茶碗にご飯を寄せた後は、自由に席を座り、朝食を取る。
この後は、学校でグループ分けした班で、夕方の3時までは、自由に街中を散策する。もちろん、迷子や防犯の対策はしている。
そうした中、街を歩く途中にトイレがあり、そこで、ひとまず腰を落ち着かせて、休憩を取る。
みんながトイレに行っている間は、一人で、自販機の前で待つ。
ふと、僕の視界の端に見知らない女性が一人でこちらに向かってくるようだ。
「こんにちは、君は今ここで何をしているのかな?」
彼女から、突然話しかけられた僕は、少し戸惑いつつも今の状況を丁寧に伝える。
「……なるほど、君は修学旅行で東京に来ているというわけか」
そして、彼女はなぜ僕の前に姿を現したのか?そんな疑問を持つ中、こう答える。
「東宝エンターテイメントでマネージャーをしている清水 理恵だ。実は君の足を追って、スカウトをしに来た」
自己紹介とともに名刺を渡された。
「どうして、僕をスカウトしに来たのですか?」
「君は、かなりルックスがいいから、それを見込んでわざわざ足を運んで来たというわけだ」
事情は理解したが、ルックスがいいかどうかまでは自覚していない。このまま、スカウトに応じていいのだろうか?一度、家族に相談することにする。
「僕にスカウトをしてくれるのは、すごくありがたいですが、僕一人では決められないので、保留という形を取らせていただけませんか?」
「そこは、君の好きにしたらいい、最終的に決めるのは、君だからな」
「そうしてくれて助かります」
「名刺の下に電話番号が書いてあるから、そこにかけたらいい」
補足事項だが、彼は小学校で、女の子達からかなりモテているようだ。
彼女がこの場を立ち去る頃には、トイレ休憩が終わり、東京スカイツリーまで目指した。
東京スカイツリーは高さが634メートル。語呂合わせで"むさし"と覚える人がいるだろう。この350階は、東京の町全体を見渡せるほどまでの先が見える。中には高所恐怖症で怖がる人もいる。
そして、東京スカイツリーを出た後は、昼食を取り、食べ終えたら、最寄りの駅まで向かい、舞浜駅を目指す。
電車は地下にあり、待つ間隔が、地方と比べれば狭く、早く乗れる。
電車に乗り、しばらく時間が経つ頃には、海の景色が広がる。
夕方に赤く染まる太陽の光が海を照らし、エメラルドの色鮮やかな景色が目の視界に映し出される。
ずっと、都会にいて、ビルの建造物を見飽きる頃には、ちょうど、いい具合の息抜きににもなる。
僕達が向かおうとしている場所は、夢の国のディズニーランドだ。駅を降りて、少し移動した先に見える。入場は着いた班から中に入り、夜の8時まで過ごす。
中は、いろいろなジェットコースターやメリーゴーランド、ディズニーのキャラクターなど、いろいろな種類を楽しめる。
見るだけでも楽しませるような世界が広がる。
最後の時間に差し掛かれば、打ち上げ花火やパレードが行われ、フィナーレを飾る。
修学旅行が終わり、家に帰り、家のドアを開けると、そこには、お母さんが待ち構えている。
「おかえり、修学旅行は楽しかった?」
「うん、すごく楽しかったよ」
「それは良かった」
そして、すぐさま僕に抱きつき、しばらく心を落ち着かせたあとは
「ご飯の準備はできたから、荷物を下ろしてきてね」
リュックとスーツケースを自分の部屋に置き、手を洗い、うがいしてから、席に着く。
テーブルの上に並べられた料理は、いろんな種類の洋食がある。普段は、ご飯にお味噌汁、お皿の上にはキャベツやお肉が乗っているごく普通の一般家庭料理。
「今日は張り切って作ったから、いっぱい食べてね」
でも、量がかなり多い気がする。お腹に全て詰め込めるかは、分からない。
そこへお父さんがリビングに姿を現した。
「おかえりなさい、りゅう」
「ただいま、お父さん」
そして、久しぶりに、お父さんと会う。
「修学旅行は、どうだった?」
「うん、いい思い出が残せたよ」
お母さんは、キッチンで使った後の道具を片付けて、僕達がいる席に座った。
「全員揃ったところで、みんなで食べましょう」
僕はスプーンで受け皿によそい、ご飯と一緒に食べる。そして食事を進める中
「一応僕から話しておきたいことがあるんだけどいいかな?」
お父さんとお母さんが僕に視線を預けたのを確認してから、話しを続ける。
「実は、修学旅行中にあるマネージャーからスカウトされたんだ」
「スカウトって…そのマネージャーの人は一体誰なの?」
「東宝エンターテイメントに所属しているマネージャーだそうだよ」
それを聞いた両親は驚きを隠せないでいる。
「すごいじゃない!しかも芸能事務所からスカウトされるなんて」
東宝エンターテイメントとは、大手芸能事務所のことで、ここから多くの俳優やモデルを輩出しているとのこと。実際、僕にスカウトがかかったのは、その俳優やモデルについての案件だからだ。
「僕はここで頑張ってみようと思うんだけど、どうかな?」
「うん、それはお父さんとお母さんも応援するわ」
ちょうど何もやってこなかった自分にとっては、いい機会だと思い、変われるきっかけにもなれる。
「りゅう、日曜日は時間が空いているから、お父さんと一緒に行こう」
「うん」
こうして、休日に芸能事務所まで足を運ぶことになった。