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プロローグ

 振り抜いた剣が敵の胴に届く。

 金属同士がぶつかり合う音。

 予想と全く違う音だ。

 身体ごと押し返され、たたらを踏んだ。


 冗談じゃない。奴の体は金属製だとでも言うのか。


 地面にブーツを滑らせ、砂埃を跳ね上げる。

 砂に隠れて奴の背後へ。

 この巨大モンスター、以前ギルドに報告があった奴かもしれない。もしそうなら、石化能力などというとんでもない能力を持っていやがるはずだ。

 真正面から戦ってはだめだ。その視線に、いつ石化能力を込めてこちらを睨んでくるかわかったもんじゃない。

 だからなるべく奴の視界の外から攻撃を繰り出す必要がある。


 くそ、振り向くんじゃねえ。

 足音を忍ばせれば砂埃が立たない。砂埃を立てれば大きな足音が響く。

 このままじゃじり貧だ。


 しめた、岩がある。

 岩影に飛び込んだ。ひとまず息をつく。

 全く、まずったぜ。まだ腕がしびれてやがる。

 こんな難敵がいるとは知らず、街から少し足を伸ばしてしまったのだ。


 ギルドから受けた依頼はオーガ討伐。三匹の群れで、ここ最近街道を往来する商人たちを襲っていたという。

 オーガは大きな個体だと身長三メルトーに及ぶ。怪力で、主に爪や牙を武器に戦う。

 そいつら三匹を難なく単独で討伐した俺は、物足りなくてすぐにギルドに帰らなかった。それどころか特に何の準備もなく他の獲物を求めるの愚を犯した。


 その結果がこれだ。


 早く強くなりたい。俺こそが今代勇者となって魔王を討ち滅ぼしたい。この俺を戦災孤児にしやがった魔王軍を叩きのめしたい。

 ここしばらく、勇者が現れたという噂はどこの国からも聞こえてこない。そのせいか、魔王の暴虐ぶりには拍車がかかっているという。

 一刻も早く奴等をぶちのめすため、鍛えに鍛えた。強くなったと思い込んでいた。

 それなのに、たかが一匹のモンスターを相手にこのざまだ。


 おや?

 モンスターの奴、遠ざかっていくぞ。

 しめた。逃げるチャンスだ。

 情けないが、今の俺ではまだ奴を斃せない。


 岩の縁から顔を半分出し、モンスターの様子を窺う。


「なっ!?」


 くそ、声が出た。

 だが、それどころじゃない。

 モンスターの進む先に、別の岩がある。

 その岩影に潜むのは女の子だ。長い耳と緑の髪――エルフだな。そう言えば、ここはエルフの村からそんなに遠くない場所だ。

 足もとに籠を落とし、草が散らばっている。

 おそらく薬草集めでもしていたのだろう。

 十をほんの少し過ぎた程度か。

 腰を抜かしているのか、女の子座りのまま立てずにいるようだ。


 ええい!


「こっちだ、デカブツ!」


 時間にして三秒ほどか。

 迷いに迷ったが、勇者を目指す俺だ。ここであの娘を見捨てたら絶対に後悔する。


「必殺技を見せてやる!」


 はったりだ。そんなものはまだ会得していない。

 岩影から飛び出し、剣を大上段に構えた俺は――。

 しかし、それっきり動くことができなくなった。

 モンスターによる石化の視線。それを、真正面から浴びてしまったのだ。


「サンダーアロー!」

「目だ、目を潰せ!」

「クリス、クリス! おお、無事だったか!」


 まず視界が閉ざされ、次いで耳も聞こえづらくなっていく中、最後に聞こえてきた声がそれだった。

 よかった。

 できればあの娘を直接助けて、俺も一緒に脱出したかったけれど。少なくとも、あの娘だけでも助かりそうだ……。

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