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ボク、サキュバスに転生しちゃいました…!  作者: 三ヵ路ユーリ
天弓の巫女と二つの正義 編
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第60話 招待

 嘘だ──!

 きっと、何かの間違いだ。


 ボクが……天弓てんきゅう巫女みこ


 ボクには関係ない話だと思ってた。

 “巫女みこ”は人間の中から現れるそうだし、百年以上現れていないって聞いていたし。


 だいたい、ノージェさんが持っているイヤリングが光ったから、どうしたって言うんだ。

 そんなことを一方的に言われても、困る……!


「嘘、ですよね……? あの──」



 横から、バル様の視線を感じる。

 ……彼が王国に滞在していたのはおそらく、天弓てんきゅう巫女みこを始末する為だ。


 どこか他人事のように思っていたし……。

 巫女みこが見つかっても、ボクはバル様のことをどうにかして説得するつもりだった。



「──事実だよ。マコくん、これは本当にめでたい事さ。私と来てくれないか。キミに頼みたいことが沢山あるんだ」


 ノージェさんの口調は、有無を言わせぬものがある。

 その後ろに控える二人の精鋭が、逃げ場がないことを目で語っている。


「い、いやです……!」


「……なんだって? これは大変に名誉なことなんだよ」

 口調からは、一切の悪意が感じられない。

 ただ、当たり前のことを当たり前のように言ったという顔だ。


「名誉って……? 王国では、そう習うんですか?」


「そうさ。天弓てんきゅう祭壇さいだんを起動できれば、百年来ひゃくねんらいの快挙となる。三角大陸トライネントは豊富な魔素マナに満ち溢れて、この国はとても豊かになるんだ!」



 ──ゴゴォッ……!!


 返事をする前に、思わず飛び退いてしまうほどの激しい熱気が上がった。

 ボクのすぐ隣で、空気がゆがむほどの火柱が燃えて──。


おめでたいヤツだなァ(・・・・・・・・・・)……」


 彼の顔に映る感情は……怒りや悲しみといった言葉では、とても言い表せない。

 ただ黒い意志を秘めた、触れるもの全てをがす魔物のようだ。


 "煉獄れんごく魔王まおう"の腕が、まっすぐこちらに伸びてくる。

 ボクは彼の放つ怒気に圧倒されて、一歩も身動きがとれなかった──。



 ──がばっ。


 肩を、抱き寄せられた。

 彼の腕がかばうように巻きついて──ボクの顔は彼の胸板にうずめられた。

 

 このあつさは……あたたかさは。ボクを焼くための炎ではない。


「一度ならず、二度までも……目の前でオマエを連れていかれてたまるか」


「バル、さま……」


「マコ。オマエの事はこの俺が……必ず、まもる」



 ……ああ。

 やっぱり、そうだ。

 一瞬でも恐怖心をいだいてしまった事を、許してください……。

 


「バルフラムさん、誤解しないでおくれよ。何も私たちは、無理やり連れていこうってつもりではないんだよ?」

 ノージェさんはそう言いながら、両腕を広げて二人の臣下をおさえている。

 

「問題はそこではない。オマエのような若造わかぞうは知らんのだろう。過去に、祭壇さいだんの起動が何をもたらしたのかを」


「私なりに、調べたつもりさ。……悲しいことだ。過去の人間たちは、おろかで浅はかだった」


「……自分は違うとでも?」



 ノージェさんは呼吸を整えると、ひときわ真剣な目つきでバル様を見つめ返した。


「……マリアさん(・・・・・)から、あなたへの手紙を預かっているんだ」


「なッ……に……!?」



 一言で、場の空気が変わった。


 目を丸く開いたバル様は、見えない冷水を浴びせかけられたかのように動きを止め、立ち尽くした。



 その反応にどうやら手応えを感じたのか、ノージェさんは再度言葉を投げかけた。

「マコくんだけじゃなく、あなたにも同行してほしい。どうか私の屋敷に来てくれ、バルフラムさん」

 

「──殿下でんかッ! 何をおっしゃっているのですか! 魔人を二人も招くなど……!」


「ヘイムダール、黙れ! 彼が何に怒りを感じているのか、わからないのか?」


「……ッ! わしは、貴方の身を案じているのですぞ」


 しかし、臣下の老魔術師は主君しゅくんの考えに賛成できないらしい。

 彼はぎりぎりと歯を食いしばって、相変わらずバル様をうらめしそうに見ている。



 バル様が、ゆっくりと口を開いた。


「……ノージェと言ったか。"天弓てんきゅう宝杖ほうじょう"は、オマエの屋敷にあるのか?」

 くすぶったマグマのような、冷静さを取り戻した声だ。


「今は王宮に安置されているが……私の権限で持ち出すことも可能さ。来てくれるのかい?」


「本当にマコが巫女みこかどうか、オマエが持っている"欠片かけら"だけでは信用に足りん」


殿下でんか、なりません! 此奴こやつがまた宝杖ほうじょうを破壊しようものなら、一大事です!」



「……ならば、かせでも何でもつけるといい」

 そう言うと、バル様は両腕を差し出した。


 ノージェさんは彼と老魔術師の顔を交互に見て、眉を釣り上げている。


「……そうしようか。──ジュリアス、頼む」

「はっ」


 ジュリアス……?

 おそらくノージェさんが連れてきた壮年の護衛のことだろう。

 さっきから一言も喋っていなかったけど、ずっと主君を庇おうと武器を構えていた人だ。

 

 青いマントを羽織はおり、長剣と重厚な鎧を着込んで騎士のようないでたち。

 顔に刻まれた眉間のしわが歴戦を物語っているが、中年と呼ぶほど老け込んでもいない。


 彼は腰に下げた長剣を地面に置き、手のひらをバル様に見せながら前に歩み出て、静かに詠唱した。


ときしばいしはりうつろうつはいうみ太古たいこふうずるひつぎとなり、水底みなそことざせ──凍結錠フリーズ・シール


 ──ギィンッ!


 バル様の両手首を、立方体のガラスのような透き通った氷塊ひょうかいが包み込んで、固まった。

 腕を手錠のようにガッチリと固められたバル様は、それでも表情にまだ余裕を残している。


「──ふん。では同行しよう。だが、もし。オマエらがマコに無理やり何かさせようとしてみろ。俺は自分の腕を食いちぎってでも、ひと暴れ(・・・・)してやるつもりだぞ」


「バル様……大丈夫でしょうか」


「俺を信じろ、マコ」


「……わかりました」



「……信じられんな」

 老魔術師が、嫌味たっぷりにつぶやいた。


 ノージェさんはそれを無視するように腕を広げ、ニコニコと歩み寄ってきた。

「ああ、よかった。嬉しいよ、バルフラムさん。さて、ここでは目撃者も多いし──今すぐここを去ろうか。ヘイムダール、飛んでくれ(・・・・・)


「……御意ぎょい


 主君の合図で、老魔術師が杖を地面に突き立てると──。


 ──ピシャァン!!


 目の前の景色がまばゆい光に包まれて、ボクは目をつむった。


 * * * * * * *


 ここは……!?

 さっきまで居たはずの闘技場コロッセオの舞台は、もうどこにもない。

 一瞬のうちに、どこか別の場所に連れてこられたらしい。



「ありがとう、さすがヘイムダールだ。本当に助かったよ。ジュリアスも、お疲れ様」


 ノージェさんと、配下の二人も一緒だ。

 もちろん、バル様も隣にいる。

 

 どうやら建物の中で……水晶宮殿すいしょうきゅうでんほどではないけど、かなり広いホールだ。

 室内の壁は豪華な装飾品で飾られており、美しい毛並みの絨毯が敷き詰められている。

 窓からの光はステンドグラスを通して、カラフルな模様を床に描いている。


「何なんですか、ここは……どこですか?」


「ここはアルカディア王国の中心さ。ようこそバルフラムさん、マコくん。私の屋敷へ」


「……大層な所に住んでいるなァ」


「きっと貴方の城よりは質素しっそだと思うよ。見た事はないけどね」


「いくら大きな城だろうと、住人がいなくなってしまえば宝の持ち腐れというものだ」


「……ははは」

「……ククク」


 ノージェさんの笑い声だけが、乾いていた。

 


「──さて、ヘイムダール。送ってもらったばかりで済まないが、大会へ戻って騒ぎをしずめてくれないか」


殿下でんか、しかし……! 魔力を封じた魔王はともかく、このむすめも”魔人”ですぞ」

 老魔術師はたっぷりと長い髭をいじりながら、ボクたちに向かってまるで野に放たれた獣でも見ているかのような視線を送ってきた。


「言っただろう、何も心配はいらないって。彼女は私の友人なのだからね。それに、ジュリアスにはこちらに残ってもらう」

 

「それだけでは信用には足りませんな。……念のため、このむすめにもかせを付けさせて頂こう」


 ──シュルルッ!


 ヘイムダールさんが素早く杖を振ると、にぶく光る二本のひものようなものが出現し──逃げる間もなく、ボクの左右の腕にそれぞれ巻き付いた。


「うっ、あッ!?」


 途端に腕から、魔力が抜けていく……!

 背中から生えていた翼が、身体の中に引っ込んでいく。

 あぁっ、ちからが抜けて──思わず、床にへたり込んでしまった。


 老魔術師はくずおれたボクを見下みおろしながら、護衛の騎士に向かって釘をさすように言った。

「……ふん。くれぐれも殿下でんかを頼みますぞ、メルクリウスきょう


「お任せを」


 ──ピシャァン!!

 再び雷鳴のような光がとどろいて、ヘイムダールさんの姿は煙のように消えた。



「全く、頑固なお人だね。……大丈夫かい? マコくん」


「あっ……あれ──?」


 ボクは立ち上がろうして、身体に違和感を覚えた。


 身体が粘土になったみたいに、感覚がぼやけている。

 魔素マナをうまく練れない……!?

 たぶん、たった今ヘイムダールさんに付けられた”かせ”のしわざだ。


「──あんまり大丈夫じゃないです……」


「ふうん、不便そうだね。だが彼はもう行ってしまったし……悪いけど、私ではそれを外すことはできないんだ」


「うう……」


「マコ、案ずるな。いざとなったら俺がなんとかしてやる」


「……」

 護衛の騎士であるジュリアスと呼ばれた人物は、眉一つ動かさずにボクとバル様を見張っている。

 何とも不気味ながら──どこかで知っているような顔立ちにも見える。彼とは、初対面のはずだけど。

 


「さてと、マコくん。そんなボロボロの服じゃあ忍びないだろう。いま、着替えを用意させようか」


「はい……」


 もう翼は引っ込んでしまったけど……ボクが着ていた服には、翼が飛び出した時に破れた穴だけが無惨に大きく開いて、いまは背中が丸出しだ。

 どちらにしても、服が貰えるというなら貰いたい……。

 こんな格好でうろつくわけにはいかないから。



 でも──これから、どうなるんだろう、ボクは……?


 不安になって、バル様の表情を伺った。

 彼は両腕を拘束されているけど……眼差しはむしろ煌々《こうこう》と燃えている。


 ……きっと、大丈夫だ。

 ボクがたとえ、本当に”天弓てんきゅう巫女みこ”だったとしても。


 いいや、だからこそ。

 いまの三角大陸トライネントの”平和”のカギを担っているのは……おそらく、ボクなんだ。

 







次回「第61話 心の行方」は6/22更新予定です。


お知らせ:

いろいろ考えた結果、改題を検討中です。

詳しくは活動報告に記載しておりますが、次回以降の更新で「ボク、サキュバスに転生しちゃいました…」的なタイトルに変えようと思っておりますので、ブックマーク登録をしてくださっている方はあらかじめご了承いただけると幸いですm(_ _)m

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