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ボク、サキュバスに転生しちゃいました…!  作者: 三ヵ路ユーリ
夢魔の目覚めと二つの壁 編
52/107

第50話 壁を跨ぐもの

「おいおいおまえら、なんの集まりだ? 知り合いだったのか……?」


「──ああ、アイゼン。遅かったじゃないか」

「や、来てはいたんだぜ? だがあまりにも声をかけづらかったもんで……」


 ボクとミナミとノージェさん、三人の沈黙を破ったのは……どこからともなくやってきた、アイゼンだった。


 彼は、フウメイさんの息子であり──顔をあわせるのは、先日の路上魔素合戦ストリート・ゲームの時以来だけど。

 ボクは失礼ながら彼に対し、間が悪い場違いな登場だ──と、内心思った。


「あれ──ノージェさんと、アイゼンさんは、お知り合い……待ち合わせてたんですか?」


「そうさ。私とアイゼンはかつて三角大陸トライネントを股に掛け、二人で冒険した仲でね。な、相棒?」

「ふん。オレはただの護衛だ。おまえの酔狂すいきょうに付き合わされるのはもうコリゴリだぜ」


「フフッ。そう言いながらも、今日は来てくれたじゃないか──おや、どうした。座らないのか?」


 アイゼンは、ニット帽を深く被って目を逸らした。

 明らかにボクの事を避けている動きだ。


「オレ、こいつ、コワイ……」

「うん? マコくんが何をしたっていうんだい?」


「違うんだ──」

 そしてノージェさんに顔を近づけると、小声でぼそぼそとなにやら耳打ちしている。


「ほう……、へえ……、なるほど? アイゼン、キミは失礼な奴だな」

「──あがっ!? イデデデ!!」


 アイゼンはノージェさんにほおを引っ張られるようにして、無理やり椅子に座らされた。


「……マコくん。彼はね、女性関係で少々トラウマがあるそうなんだ。この通り態度を改めさせるから、許してやってくれ」

「は、はあ」


「おまえあの時、面白がって見てただろうが……」

 

 隣同士に座るノージェさんとアイゼンは、共に同年代に見える。

 気心の知れている仲だからなのか、二人の距離はとても近い。


 それを見てか、ミナミがまた噛みつくように言った。


「ハッ。ノージェ、だっけ? そんななりしてあんた、結局付き合う相手は男なの?」


 その声にアイゼンはギョッとして椅子を引き離すようにらしたが、ノージェさんは微動だにしなかった。


「……本当に悪かったよ、ミナミくん。そして──それは違う。私とアイゼンはそういう仲ではないし……そもそも、私の恋愛対象は、女性だ」


 ミナミは、まゆがくっつくほど眉間みけんにしわを寄せた。

「へえ……なんだ、似た者同士か。同族嫌悪ってやつだ。だけど、ますますあんたのことがわからないよ。どうしてそんなに堂々としていられるわけ?」


「いけないかい? ……いや。キミ自身が、”いけないこと”だと思い込んでるんじゃないかな?」


 ──ガタン!

 ミナミがはじかれるように立ち上がると、椅子が後ろに転がった。

 

「……ッ! ほんっと、ムカつく。わたしがこんなに……ずっと隠してるのに、あんたは……! ──はあ、もういいや。ちょっとわたし、その辺で頭を冷やしてくる。それじゃ──」


「──待ってくれ!」


 ノージェさんも席を立って、ミナミの腕を掴んだ。


「触んないでくれる?」


「違うんだ。キミは、自分が報われないものだと決めつけているだろうが、そんなことはない。……私は生まれた時は女性だったが……ある方法によって身体の一部(・・)を作り変えて、自分の望み通りの恋愛(・・・・・・・・・・)ができるようになったんだ」


「はっ──はあ!?」


「まあ少々……直接的には言いづらいことだがね」


 それだけ言うと、ノージェさんはゆっくり自分の席に戻った。


 か、身体の……一部(・・)

 確かに言いづらいことだけど、話の流れからして、予想できる答えは一つしか無い。


「……あー、よく聞こえなかったんだけど?」


 ミナミは顔を白くして、ボクの隣に座り直した。

 その手はがくがく震えて、椅子を元に戻すのに手間取るほどだった。


「それは、西の樹海のとあるお方が扱う”細胞錬成術さいぼうれんせいじゅつ”という特殊な魔法技術でね。王国と樹海の間で停戦協定ていせんきょうていが結ばれたおかげで、協力を受けられるようになったのさ。──いや、むしろその目的自体が先だったかな……」


「んな事を聞いてんじゃないよ! どんな魔法なの、それは」

「ハハハ、聞こえていたくせに。もう興味津々《きょうみしんしん》なんだろう?」


「……危うく雰囲気にだまされるとこだった。あんた、とんでもなく下世話げせわ野郎・・なんだね」


「これは手厳しいね。……まあ、私もね。以前は悩んでいたよ。しかしね、常識だと思っていたことが……ある日、急に崩れ去ることだってあるのさ」


 ミナミはノージェさんを睨みつけながら、しばし考えるように腕を組んだ。

 それを眺めるアイゼンは完全に蚊帳かやの外で、居心地が悪そうだけど……彼は相変わらず、こちらを見ようとしない。


「いいや、やっぱり同意できないね。身体を作り変えてまで──だなんて。そんなのおかしいよ。それよりまず、気持ちが大事でしょ」


「……そういう選択肢もあるってことをキミに伝えたかっただけさ、ミナミくん」


「選択肢……か。……あーあ、知らないほうがよかったよ。わけできなくなっちゃうじゃん。……ねえ、マコ?」


 ミナミはこちらを向いてため息をついた。


「えっ──な、なにが」

「さあね」


「気持ちが大事だ、ということには同意するよ。──マコくんの話に戻すけれど、性別はどうあれ、相手に”ときめき”を感じたなら、それを大切にしたほうがいいんじゃないかな」


「ときめき、ですかぁ……」


「へーえ。なんだ、いい事いうじゃん」

 ミナミは、ようやく機嫌を戻したみたいだ。


「見直してくれたかい?」


「……どうだかね」


 

 少しハラハラしたけど……ミナミとノージェさんの会話は、ひとまず丸く収まったみたいだ。


 だけど……、ノージェさんの言う”選択肢”の存在。

 以前なら、喉から出るほど欲しいものだった。

 なのに今は、興味をかれない。


 それが意味するところは、つまり……ボクはもう、受け入れているということかもしれない。

 いまの、”性”を。



「──それと、マコくん。キミは意中の人に対して先ほど”気になっている”という言い方をしていたが……まずは先まで考えずに、純粋な交際から初めてはいかがかな?」


「こっ、……交際ですか?」


「うん。何もいきなり結婚を申し込むわけでもないだろう?」


「はえっ!? そうですよね。普通は」


「そうとも。まずはお付き合いしてみて、違うと思ったらごめんなさいすればいいじゃないか」


「お付き合い……」


 言われてみれば確かに、”段階を踏む”というのはそういう事だ。

 彼の最初の求婚のインパクトが強すぎて、頭が固くなっていたのかも。


 でも、お付き合いって……どんなこと、するんだろ。

 手を繋いだり、とか。

 それと……。



「……マコ、それは何考えてる顔?」


「わっ、わかんないよ。ええと、ノージェさん、ミナミ……。ありがとうございます。……参考になりました」


「フフッ。とんでもない。こちらこそ」


「お付き合い、ね……。そっか、ふうん……」

 独り言のようにそうつぶやくミナミの顔色は、石のように冷たく見えた。




 

「……話は、終わったか? おまえら結局、なんの集まりだったんだ?」

 待ちかねたように、アイゼンが口を開いた。


「なんてことはない。いま、そこで、偶然知り合った集まりさ」


「おまえ本当、そういうのばっかりだよな」

「魅力的なレディーを見ると、口説かずにはいられないのさ。フフフ……」


 アイゼンはノージェさんの返答を流して、ようやくボクと目線を合わせた。

「……お嬢、おまえ処刑鎌ギロチンと一緒に居たってことは──おふくろの宿に泊まってるんだよな?」


「ギロ……。ええ、そうです」


「おふくろは、何か言ってたか?」


「いえ、あ……。年頃の子供はみんなかわいいって言ってました」


 一瞬、脳内でバル様とロゼッタさんの間で交わされた彼に関する会話がよぎった。

 しかし、これはボクが預かっている問題ではないので、下手な事は言えない。


「そ、それだけか? 霊水エーテルの事は、言ってなかったか?」


「フウメイさんからは、特には……。でも、いま魔法を習ってて……大会に出ることにしました」


「ほう……そうか、お嬢。おまえがおふくろからの刺客ってわけだな?」


「えっ!? そういう意図は聞いてないですが」


「いいや、それがおふくろのやり方だ。気に入らねえが……まあ、いい。誰が相手だろうとオレはベストを尽くすだけだ。負けねえからな!」


 アイゼンの宣誓を鼻で笑うように、ミナミが茶々を入れた。

「……はん。キザヤローだね。言っとくけど、マコはそのへんのチンピラじゃ敵わないくらい強いかんね?」


「ちょっと、ミナミ。ハードル上げないでよ……。ええと、アイゼンさん。もし勝負することになったら、よろしくお願いします」


「調子狂うやつだな、おまえ……。……おい、ノージェ。そろそろ──うおっ!?」


 アイゼンは突然、ノージェさんの耳を指差して叫んだ。

 つられて目をやると……ノージェさんの左耳についている、白く尖ったイヤリングが淡く発光している。


「──ッ!? どこだ? いつから光ってる?」


 ノージェさんは、あわただしく立ち上がった。

 イヤリングを素早く取り外し、緊張した面持おももちで当たりを見回している。


「どうしたんです? 何かのおまじないですか?」


「そうとも……! 私の一族は──王国は──ずっと、百年以上も探していたんだ。それが今、この近くに居る……らしい。こんな反応を見るのは、私自身も初めてだ」


 そう言いながらノージェさんは、手に乗せたイヤリングを凝視しながらどこへ行くともなくうろうろと歩いた。


「探してるって……? そんなに大変なことなんですか、それ」


「ああ。この王国に、間違いなく来ている。──”天弓てんきゅう巫女みこ”が!」


「へえ……!?」


 ノージェさんは、相当に焦っているみたいだ。

 先ほどまでの余裕ある立ち振る舞いは失せて、顔面蒼白になっている。


「にわかには信じられないことだが、これが光ったならそういうことだ。しかし──だめだな、これだけでは何もわからない。──アイゼン、一旦王宮へ戻るぞ。ついて来てくれ」


「全く、人使いが荒いやつだな」


「……ミナミくん、マコくん。慌ただしくて済まないが、私たちはこれで失礼する。楽しかったよ、また会おう(・・・・・)


「あっ、はい。相談に乗ってくださって、ありがとうございました……?」


 何やらよくわからないまま、ノージェさんとアイゼンは足早に去っていった。

 テーブルには空のグラスが残ったままだ。



 ボクとミナミは、嵐が去った後に立ち尽くす枯れ木さながら、呆然と顔を見合わせた。


 ノージェさんやバル様の言う”巫女”のことは気になるけど……魔素合戦マナゲーム大会を控えているボクには、どこか遠い場所の出来事にように感じる。



「……はぁ。へんなやつだったね」

 疲れた様子でテーブルに突っ伏すミナミの顔からは、一気に力が抜けたみたいだ。


「……いい人だったよ」


「そういうマコは、ほんとお人好しだよ」



 その後、カフェを出ようとしたボクたちは、会計にて”既にお代を頂いている”と言われ……。

 “また会おう”と言い残したノージェさんと、次はいつどこで再会することになるのかわからないまま帰路につくのだった。




「マコ、ところでさ。いくらなんでもその服……ヘビロテすぎるでしょ」


「えっ。でも──気に入ってる、から……」


「嬉しいこと言うじゃん。でも、せっかくお金浮いたしさ。帰りにまた服屋さん寄ろっか?」


「うん……そうだね。今度はボク、自分でも選んでみる」



 ……正確には、一つ寄り道してから帰ることになった。


 これからは、服を選ぶセンスも磨いていかないといけない……かな。



次回「第51話 内に秘めるもの」は5/25更新予定です。

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