第31話 電撃のアレ
この世界の中でも特に大きな大陸、三角大陸。
その北端にあるのが、通称”北の王国”だ。正式にはアルカディア王国と言い、人口の多くを人間が占めているらしい。
そこは、ボクたちの目的地でもある。
コニーが欲しがっている魔素合戦用の的を買うため。
バル様が済ませたいらしい”用事”のため。
ボクは、転移魔術師に会うため……?
可能であれば、リリニアさんから頼まれている霊水も入手したい。
太陽と月の光を浴びて空を泳ぐ帆船、星乗りの韋駄天号の航路は順調だった。
ミナミとコニーが交代で動力部に魔素を送ることで船はさらに加速し、三日目の午後には王国のすぐ側までたどり着いた。
「ふぅー、ほんっと人使いが荒いんだから……」
ミナミは船室にあるソファに突っ伏して愚痴をこぼした。
「ミナミ、おつかれさまー! 次はあたしの番かなぁ?」
朗らかに返事をしたのはコニーだ。彼女は水の魔法を好んで使うが、元来自分が持つ光の魔素が役立っていることが嬉しいみたいだ。
「もう王国の哨戒区域だ。そろそろ船を停めて、そこからは徒歩で行くぞ」
二人の会話を聞いていたバル様が、声をかけた。
「えっ、歩き? 船で直接王国に入れないわけ~?」
「普通の人間は、そうするだろう。この船は王国系列の業者からのレンタル品だから識別上は問題ないはずだが……乗っている俺たちの人種からして良い顔はされないだろうからなァ」
「難儀ですねぇ、種族の壁って……。もっとみんな仲良くやってるもんだと思ってたよ、わたしは」
ミナミは頬杖をついて、他人事のように文句を言っている。実際、この船に乗っている中で種族が”人間”なのは彼女だけだ。
「ロゼッタ、ご苦労。夕食の準備を始めよう。停泊できそうなところは見つかりそうか?」
「う~ん、ちょうど良い水場がありませんねぇ~」
ロゼッタさんは操舵席の眼下から見える景色を見回しながら、船をぐるりと旋回させた。
星乗りの韋駄天号は空を飛べる船だけど、停泊場所は水場が望ましいそうだ。
「魔法でドドーンってさ、水場つくっちゃえばいいんじゃないの?」
ミナミが思いついたように提案した。
「理論上はできると思うけど〜……この大きさの船を停められる池を作るには、相当な量の魔素が必要になるのよねぇ」
ロゼッタさんは困ったように舵輪をくるくる回している。
「ごめんね、あたしは的の助けがないと、ちょろっとしか水の魔法を使えないんだ……」
「ちょろっとって?」
「おおさじ一杯くらい……」
コニーは申し訳なさそうに長い耳をしおらせた。
「そ、そっか……」
「コニーちゃんは悪くないのよ~! そんな、謝らないで!」
ロゼッタさんがあせあせとフォローする。
良い方法は、ないのかな──。
コニーは水の魔素を操るのには慣れているけど、肝心の魔力量が足りない……。
彼女らの会話を聞いて、ボクはあることを思いついた。
「あの──ボクが魔素を集めて、コニーが水の魔法を使うのって、できないでしょうか?」
「どゆこと?」
「コニーはさ……ほんとは得意なはずだよ、水の魔法が。魔素が足りないだけなら、ボクが手伝うよ。だから、やってみない?」
確かリリニアさんが言っていた。魔素は誰かに分け与えることもできると。──どうやるかは、聞いてないけど。
「ほう、それは面白そうだなァ。よし、やってみろ。──ロゼッタ、水が溜まりそうな窪地を探してくれ」
「畏まりました~。窪地ってだけならすぐ見つかりそうですねぇ」
二人は、地図を見ながら顔を突き合わせた。
「マコ……ありがと! ちょっとドキドキするけど……あたし、頑張ってみるよ!」
コニーはフンフンと鼻を鳴らして立ち上がった。その切り替えの早さは、本当に長所だと思う。
* * * * * * *
目的の窪地は、十数分後に見つかった。
星乗りの韋駄天号は空中で静止し、ボクとコニーは甲板から窪地を一望している。
「じゃあ……いくよ」
「がんばろーね!」
ボクは目を瞑り、自分の中に雨雲が集まってくるイメージを膨らませた──。
水の魔素、水の魔素、水の魔素……。
ひたすら魔素を集め、溜め込む。コニーに渡すために。
「なんか、みずみずしい感じするぅー」
コニーは足をコツコツ鳴らしながら、楽しそうに待っている。
「ほんとぉ?」
「あァ、大したものだな」
後ろで観戦しているミナミとバル様のひそひそ声が聞こえる。
うん、水の魔素がボクの中に集まってきている感じがする──!
これを、コニーになんとかして渡せばいいんだ。なんとか……。
「コニー、えーと……ボクの手をとって」
「わかった!」
彼女が後ろからボクの右手に触れた。触れた部分から、コニーに魔素を渡すイメージを更に練る。
かすかに、手から何かが流れ出る感覚がした。
『雲さん、空さん、お月さま。あたしに雨の、チカラを貸して──!』
コニーの詠唱は、簡単な言葉ながら心がこもっていた。
たしか、バル様も言っていた。詠唱にルールはない。自分の言葉で良いと。
──サァァァ……。
ごく狭い範囲、窪地の真上に雲が発生し、雨がしとしとと降り始めた。窪地の底にわずかに水が溜まっていく。
「すごい! 降った! あめ降ったよぉマコ!」
コニーはぴょんぴょんと飛び跳ねた。
しかし──ボクの中には、まだ大量の水の魔素が残っている。
「コニー、待って……。ぜんぜん魔素、渡せてないよ」
「そうなのぉ!?」
彼女は驚いたように身体を揺らした。雨が降っただけでも、コニーにとっては結構な成果だったらしい。
「右手からじゃ、ダメなのかも。ちょっと、その……顔とかツノとかも、試してみてくれる?」
「いいの? 触っても」
「恥ずかしいけど……しょうがないじゃん」
コニーのふかふかした手が、ぺたぺたとボクの顔を触る感触がした。
その間も、ボクは目を瞑って水の魔素を集めるイメージに集中し続ける。
ぺたり。彼女の手が、ボクのツノに触れた。
「んくっ……」
──ザザァァァ……!
雨が、強くなった。
ボクは、慣れないところを触られてつい自分の口から漏れた吐息を聞かれなかったように願った。
「もうちょっとなんだけどなぁ~」
コニーは夢中でぺたぺた触ってくる。くすぐっ、たい……! 魔素を集めるのに、集中しないと。
──きゅっ。ボクはしっぽに、電撃的な感覚を受けた──!
「ひゃうんッ!?」
──ドババドバァーー!!
大量の水が、地面とぶつかる音。
目を開けると──雲はきれいさっぱりなくなり、窪地は一瞬のうちにたっぷりと水で満たされていた。
「……ご、ごめんマコ。へんなとこ触っちゃったね?」
コニーは気まずそうに謝った。
「うぅ……いや、こちらこそ」
あぁっ──あられもない声をだしてしまった。
もう今すぐ、この場から退散したい。
振り向くと、ミナミが笑いを堪えるように口を抑えていた。バル様はどうしてか、背中を向けてあさっての方向を見ている。
……数十秒だけ、時間が巻き戻ればいいのに。
──ゴゥゥン……。
待ってましたとばかりに、船がたった今できたばかりの湖を目指して傾いた。
「……なんにせよ、うまくいってよかったよ。あ、あはは」
「うん──あたし、感動したよ! こんなふうに水の魔法を扱えたの、初めてだった……すっごい嬉しいよ! ありがとー、マコ!」
そう言うと、愛おしそうにハグをしてきた。ふかふかと暖かくて心地いい。
コニーが喜んでくれたことで、こっちまで嬉しくなる。
でも……さっきの嬌声については、みんななるべく早く忘れてくれますように──。
※お知らせ
この次の次のお話より、カクヨムコンテスト16万字制限の都合により、やや掲載間隔を伸ばします。
32話は4/11、33話は4/14、以後3日間隔でアップ予定です。
書き溜め自体は十分な量の用意があるので、制限解除以降は更新ペースを戻せるかもしれません!
次話が重要な回なので、1話ぶん早めてのお知らせとなりました。
引き続き、お読み下さると嬉しいです。よろしくお願いします。




