↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
31/107

幕間 結ばれた生命 ★番外編4コマ付き

「リリニア様、お目覚めの時間でございます」

「あ”ー……」


 締め切ったカーテンから、薄く朝日が射している。

 とにかく、眠い──。アタシは、頭から布団を被りなおした。


「リリニア様、お目覚めの時間でございます」

 囁くような声とともに、ぐいぐいと布団を引っ張られる。


「あと十分……いや、二十分寝かせてくれ、トネリ」


「本日は樹海の獣人同盟での定例会議がございます。お早めに準備を初めたほうがよろしいかと」

 トネリの声は、樹の根の間からゴウゴウと吹く掠れた風のように、アタシの微睡《まどろ》みを削った。


「そんなのさぁ……アタシは遠隔出席でもいいだろ?」

「前回、それで数名の出席者が恐れをなしたそうで──、可能であれば、直接顔を出して頂きたいとのことです」

「はぁ、めんどくさ──」


 ──シャッ。

「ギャッ!」

 トネリがカーテンを勢いよく開け、朝日で視界が眩《くら》んだ。


 トネリ──。こいつの身体は、植物でできている。

 アタシが魂を吹き込んで動けるようにした、人面樹だ。


 水晶宮殿《すいしょうきゅうでん》内に張り巡らされた樹の根を伝い、こいつはどこにでも自由に移動できる。

 大抵の身の回りの世話をしてくれるが、火を使う料理だけは任せることができないので、アタシの仕事だ。


「まもなく、ベリオ様もお目覚めになるかと思います」

「わかったよ。しょうがないねェ……」


 昔は、二度寝こそがアタシの一番の至福だと思っていたが……近頃そんな時間は、とんと無い。

 いつのまにかアタシの周りには、それよりも大事なことが増えたのだ。


「それと報告がございます。先日、樹海の入り口付近に配置されていた泥兵士《ゴーレム》が三体、何者かの手によって破壊されたとのことです」

「なんだと──三体も? 誰だよ全くもう。アレ造るの大変だし高いんだぞ……」

 

 アタシのしもべは、専《もっぱ》ら植物や土くれ、石でできた人形たちだ。

 ヒトと関わるのは、面倒臭くてかなわん。

 

 だが──最近はそうも言ってられなくなったな……。



 * * * * * * *


「うんめ~~!! やっぱり母《かあ》さまのオムレツはさいッこうだよ~~!!」

 ベリオが、アタシの作った料理を美味しそうに食べている……。

 あぁ、この幸せそうな顔──たまらん。


「ベリオ、最近よく食べるようになったねェ?」

「エヘヘ、バルさまみたいにでっかくなりたくてさァ〜!」


 うっ──バルフラムか。アイツめ……。

 アイツらを宮殿に招いてからというもの、ベリオはすっかり影響されたのか、その時の話をよくするようになった。

 

「ベリオはそんなに憧れてるのかい? バルフラムに」

「うんっ! このまえのバルさまの炎の魔法、すんごかった! おれ、おおきくなったら、あんなふうになりたいなァ!」


 ベリオは、本当に嬉しそうだ。

 目標を持つってのは、とても良い事だからな──アタシは母として、息子の成長を素直に応援したいと思う。


「なれるさ、ベリオ。アタシが保証するよ」

「ありがと、母《かあ》さま! よーし、今日もしゅぎょうするぞっ!」

「……その前にちゃんと歯ぁ磨いていきな?」

「はーい!」


 外へ向かって駆け出す息子を、意識と視界を遠隔操作して軽く追いかける。

 ──ああ、今日もいつもの場所でやるのか。特に危ないことはなさそうだねェ。


「トネリ。ベリオに何かあったら知らせてくれよ」

「……承知いたしました」


 

 ──そう、ベリオ。

 お前がいつかバルフラムのような遣《つか》い手に成長することは、間違いないだろう。


 なんて言ったって、ベリオ、お前は──アタシと、バルフラムと、両方の遺伝子を持った子だから。



 アタシは、悔しかった。

 バルフラムと共に転生術《てんせいじゅつ》と細胞錬成術《さいぼうれんせいじゅつ》の研究をしている時に──どうしても、アイツの細胞だけはうまく増やすことができなかったのだ。

 

 これはアイツ自身も、何度も試行錯誤して失敗を繰り返していたことだ。

 水晶宮殿《すいしょうきゅうでん》に移り住んでからも、アタシはどうしてもあの時の無念を忘れられず、アイツから預かった細胞を使って実験を繰り返していたのだ。



 ──十年前。

 ベリオが産まれた場所は、錬成魔法陣の上。

 やけになったアタシは、実験パターンの一つとしてアイツの細胞と他の生き物の細胞を混ぜての試行を行った。


 そして、新しい生命《いのち》が生まれた。

 偶然か、必然か。アタシの細胞と合わせたサンプルから。

 

 

 それ以来……もう実験はしていない。

 お腹を痛めて産んだ子ではないが──ベリオはアタシの遺伝子を受け継いだ、大切な息子だ。それは、未来永劫変わることはない。

 いま、アタシの執念が詰まった錬成魔法陣は、玄関ホールの絨毯の下に眠っている。



 ベリオ。

 どのような生まれだろうと、アタシはお前を愛している。


 お前が初めて歩いた日。

 アタシのことを、母さまと呼んでくれた日。

 人間の街を見に行きたいと、だだをこねた日。


 たくさん泣いて、たくさん笑ったお前との日々は、アタシの長い人生の中でもっとも大切な時間になった。

 お前がアタシの所に来てくれて、本当に感謝しているんだ。


 ベリオには、何不自由なく暮らしていって欲しいし、その努力は惜しまない。



 ただ──お前に父親がいないこと……それだけは、申し訳なく思っている。

 

 父親が、欲しいかい──?

 何度も聞こうと思ったが……望んだところで、どうなることでもない。



 ……バルフラム。

 お前の首輪は、まだその役目を果たしているのか?

 

 たまには、遊びに来いよ。


 ベリオが待っているからな。







* * * * * * *


※番外編 デフォルメ4コマです。23話と24話の間の出来事。


「供給方法」

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。