英雄は100回死す ~命、激安!~
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「あぁ、俺は何故生まれたのだろうか?」
俺は自分の部屋でベッドで横たえながら呟く。
それは人が生きていたら誰しも一度は考える事であり、誰しもが中々見つけられずにいる問題である。
俺は草加英雄……関東にある都会でも無く、田舎でも無い地元の普通科高校に通う高校二年生であり、絶賛中二病の男である。
「人生が100回あれば、俺はその答えを見つける事が出来るのだろうか……」
「いいランね! その願い叶えてあげるラン!」
「は……?」
暇だったからそれっぽい事を呟いてカッコつけていた所、急にファンシーな語尾の絶妙にイラッと来る声質で返事が返ってくる。
俺はベッドから身を起こし、声が聞こえた方向に顔を向けると、そこにはフワフワとした白い毛玉のようなものが宙に浮いていた。
「ボクはケサランパサランのササラン! 君の願いを叶える妖精ランよ!」
「……何だお前は? 何処から入ってきた」
「ボクを見ても驚かないんランね! そんな君は記念すべき最後の一人にふさわしいラン!」
白いフワフワがくるりと回ると、くりくりとした大きな目とオメガ(ω←コレ)のような形の口がついている生物が喋りだす。
謎の生物は俺の問いには一切答えないで自分の話を進める。
俺は中二病以外これといった特徴がなく、割りと何処にでもいる高校生だが、一つだけ特技がある。
それはポーカーフェイス、驚いても内心に留めておく技術だ。
内心は(何だよコレ! 夢か!? それとも幻か!)……と言ったように滅茶苦茶ビックリしていて、なんならベッドから転げ落ちそうな位衝撃を受けている。
「人生100回! その願い、叶えたまラン~!」
「……何だ?」
ササランとか名乗る珍妙生物は唐突に光だし、俺はその光に包まれた――――
「――と言う夢を見たんだ」
「あっはっは! ヒデ、お前変な夢もそうだけど家でもその謎にカッコつける癖やってんのかよ!」
俺の友達の一人である啓太郎は豪快に笑い飛ばす。
現在学校帰りで同じクラスメートで俺と同じ帰宅部である溝呂木啓太郎と帰宅途中であった。
帰り途中の話題に昨日見た夢の内容を話すと啓太郎はツボにはまって笑いが止まらなくなっていた。
「ぷくくっ、ふー……あーおもしろっ! そんな魔法少女モノみたいな始まりを迎えたヒデは一体何て言う物語の主人公なのかなぁ? ぷぷっ」
「そうだな……啓太郎と二人でタッグを組んで、ふたりはムサキュアなんてどうだ?」
「だっさ! 名前の通りムサイ感じが最悪だな!」
俺達はそんな下らない会話をしながら歩いていると啓太郎はふと思いだしたように言う。
「あ、そう言えばヒデは進路のプリント書いた?」
「……そう言えば机の中に放り込んだまんまだな。それがどうした?」
「あれ、明日の朝までに提出だったはずだぞ。俺は今日出したけどヒデの事だから白紙だろ? 今日持って帰って親とか相談しないと不味いんじゃねーの? 進路指導の村上にどやされるぞ」
なん……だと……? 面倒だからと机に入れっぱなしだったプリントの提出日が明日までだとは……
しかも進路指導の村上は竹刀を持ったコテコテの昭和教師で、昨今体罰が問題視されているので竹刀で殴られる事は無いが、バシバシと竹刀で床を叩く音は中々心臓に悪い。
恐らくプリントを提出しなかったら放課後一時間以上説教コースだろう。
青春を謳歌する年頃である俺の放課後の一時間は貴重だ。
なんとしても説教だけは回避せねば……
「その通りだな。悪いが啓太郎、先帰っていてくれ。学校にプリントを取りに行ってくる」
「おう、じゃあまた明日な」
「じゃあな」
俺は夕日が沈み始めて暗くなりつつある学校に到着し、自分の教室前まで問題なく辿り着く。
流石に夕暮れ時のこの時間になると部活動に励む生徒もまばらで、殆ど人が居ない。
教室には誰も居ないのだろうと扉を開くと一人だけ席に座っている生徒がいた。
「なんだ芳賀さんか。まだ教室に残ってたのか」
芳賀茉莉……クラスメートで一つ年下の妹と同じ家庭部に所属している生徒だ。
小柄でおとなしく、顔に分厚いレンズのメガネを掛けて、ミドルヘアのせいで顔が隠れがちな女の子だ。
妹曰く、ちゃんと化粧等をしたら絶対にモテる容姿なのに勿体ないと言っていた。
「はい、今日は部活が無い日なので教室でぬいぐるみを縫っていました。その……草加君は?」
「俺は忘れ物を取りに来たんだ。……所でそれは何のぬいぐるみなんだ?」
こちらから見るとそのぬいぐるみは真っ白の球体で、バレーボールにしか見えない。
ふと好奇心が湧いて芳賀さんに近づいてみる。
「えっと……こんなのです」
芳賀の前に立つと、芳賀さんはクルリとぬいぐるみを反転し、こちらにぬいぐるみの顔が見えるように手に持った。
それは、くりくりとした大きな目とオメガ(ω←コレ)のような形の口がついているぬいぐるみだった。
それは昨日見た夢に出てきた珍妙生物の――――
「ササランみたいだ……」
「……? どうしたんですか草加君」
どことなく……いや、特徴をかなり掴んでいるので、一目で似認識した。
そんな事を思っていると芳賀さんの机からチャコペンがコロコロと転がり机から落ちてしまう。
「あっ、すみません取って貰えます? それで、ササランって何ですか?」
俺は机から転がり落ちたチャコペンをしゃがんで拾い上げる。
うん―――白か、印象通りだ。
しゃがんだ際にふと視線を上に上げると、うちの学校指定制服の短いスカートからつい至宝が見えてしまった。
少し申し訳ない気持ちになりつつ俺は立ち上がりながら昨日見た夢の話をする。
「いや、昨日急に願いを叶えるとか言うヘンテコな生き物が現れる夢を――――」
見たんだ、そう言おうとしても言葉が出ない。
ふと違和感を持った俺は喉に手でに触れてみるとぬめりとした感触を感じる。
そのぬめりの正体を知ろうとして手を顔の前に持ってくると、血で真っ赤に染まった自分の手が目の前にあった。
「ゴボッ……?」
口の中に鉄の味が広がり、口から血が溢れ出て息が出来なくなる。
唐突に起こった事に理解が出来ずに痛覚すら麻痺しており、俺は訳も分からず前を見る。
「くふふっ、まさかこんなにも早く一人目に会えるなんてっ……!」
芳賀さんは席から立ち上がっており、右手を水平に上げていた。
いや、違う……右手に持っているサバイバルナイフを俺の首を切り裂いて振り抜いたのか。
「草加君が願い人だったなんて思いもしなかったなぁ……!」
「ゼヒュッ……! コヒュー……!」
トン、と指先で押されて俺は力無く背中から倒れる。
背中に鈍い痛みが広がりはじめ、痛覚が徐々に戻ってきているようだ。
芳賀さん、いや、芳賀はそんな俺の腹の上に血が着くのも気にせず跨がる。
右手には相変わらず不似合いなサバイバルナイフが逆手で持たれている。
「ありがとう草加君っ。私、夢だったの! 人を自分の手で切り刻むのがっ……! 最後まで草加君をいっぱい感じてあげるから安心してね!」
「ヒュッ……! ヒュッ……!」
俺が何かを言おうとしても喉に空気が素通りするだけで声帯を震わす事が出来ない。
喉から流れ出た血が作った血溜まりの温度が少しずつ低くなっていく。
あぁ、俺はこんなところで死ぬのかと今実感した。
芳賀はサバイバルナイフを振り下ろすと殆ど抵抗がなく俺の体へと刺さる。
皮膚が、肉が、内臓が裂かれる痛みは現実味がまるで無く、思ったより痛くは無かった。
違う……それを感じるだけの脳が……活動を止めてしまって……いるん……だ。
「感想が聞けないのは残念だけどっ、今叫ばれたら困るからねっ! あぁん! この肉の裂ける感じが堪らない……! アレ……? 草加君もう死んじゃった? ふぅ……気持ちよかったぁ……後はササランが処理してくれるんだよね? じゃあ草加君バイバイっ」
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「何で俺は生きている」
確かに俺は芳賀にメタメタの滅多刺しにされて無惨な死体になっていたはずだが俺は無傷で生きていた。
いや、正確には制服はズタボロなのだが。
「その質問はこのササランがお答えするラン!」
「……出たなUMA」
「違うランよ!」
何処からと無く現れた白い毛むくじゃら――ササランが俺の目の前にはふわりと浮いていた。
夢じゃ無かったのか!! と内心は驚いているが、勿論顔には一切出さない。
そう、実にクールな表情である。
「ヒデオが能力に覚醒したらすぐに寝たから説明出来なかったラン! ヒデオは108人の能力を持った願い人同士が殺し合うゲームの参加者、つまりはヒデオも願い人だラン。最後の一人には更に一つ願いを叶える権利が与えられるランよ!」
「はぁ? なんだそれ?」
いきなり刺されて死んだかと思ったら、今度はよく分からない現実離れしたデスゲームに巻き込まれている? そんなのごめん被る。
俺は中二病だが、別に非日常など求めていない。
俺は俺がカッコいいと思う行動や思考をするだけで十分だ。
「悪いがそんな物騒なのは降りさせて貰うぞ。大体俺は願いなど無い。他を当たってくれ」
「ヒデオの願いはもう叶えたラン。そのズタズタの服が物語っていると思うラン。だからこのゲームからは絶対に降りられないラン」
「俺の願い……?」
「普通の人間が刺殺されたのに無傷で居られると思うラン? ヒデオはもう一度死んでるランよ。そして生き返ったラン」
俺の願い……ササランが現れる前に呟いた一言は――――
「まさか……“人生が100回あれば”か……?」
「そうラン!名付けるなら【人生99%オフ】ラン! 他の人より少し死にやすいけど100回まで死んだら生き返る能力ラン!そしてさっきヒデオを滅多刺しにしたマツリも勿論願い人ラン! 今回はササランの事前の説明不足と言う不手際という事でもう一つ良いことを教えるラン! 今――――」
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「おい芳賀ァ、下校時間はとっくに過ぎてるぞ? 一体何をしていたんだ」
「村上先生、すみません忘れ物をして……」
俺は一度トイレに言ったと言うササランの言葉を聞き、芳賀が出てくるのを待ってから後をつける。
端から見たらただの変態だかそれはご愛嬌。
俺は一度あのサイコパス女に殺されているのだから、普通に接触するのは一番あり得ないだろう?
取り敢えずこうやってバッティングしないように後を追っているのだ。
どうやらあのクレイジー女はここからは聞こえないが、生徒指導の村上に何か言われているようだ。
「まぁ良い、丁度良いところに居た。屋上に着いてきてくれ。明日は天気が荒れるようだから屋上にある花のプランターを動かしたいんだ、手伝ってくれ」
「……分かりました」
村上は芳賀を伴って上の階へと登っていく。
この学校は四階建てに加えて屋上があり、俺達二年生のクラスが有るのは三階で、一番上の階は一年生の教室しか存在しない。
そんなところに用が有るとは思えないので、恐らくは屋上に向かっているのだろう。
俺はゆっくりと二人を尾行し、屋上の扉の鍵を解錠して二人が入っていく様子を確認してから上へと登って扉の隙間から二人の様子を見る。
「芳賀……お前家庭部なんだっけか?」
「はい、それがどうかしました?」
「なに、今日はそう言えば部活が無いはずだったなと思ってな」
「そうですか。それで、プランターは何処に?」
「それがなぁ……プランターなんて無いんだよ……全ては誰にも見られずにお前をここに連れてきたかったんだよぉ……!」
村上が突然芳賀へと竹刀で襲いかかる。
しかし、芳賀は何もない空中から俺の喉を引き裂いたサバイバルナイフを取り出して応戦する。
「俺は見たぞぉ……! 草加を殺したお前をなぁ! 願い人同士の殺し合いがもう始まっているとは先生ビックリしたぞ!」
「先生もそうなんですね……だったら草加君と同じようにしてあげますよっ!」
草加英雄生きてここに居ますよーだ。
実際に言いはしないが心の片隅でそう呟く。
「俺の能力は絶対的大人の優位だ! 俺は俺より弱い奴に強いんだよぉ!」
村上は剣道の有段者で、所詮素人でしかない芳賀のナイフを弾き飛ばして屋上から下へと落下させる。
これで芳賀は丸腰になった。
「あっ……!」
「大方ナイフでも召喚する能力か!? お前はもう何も出来ない小娘なんだよ!」
竹刀で芳賀を叩きつけ床に転がす村上、しかし、何を思ったか芳賀に対してマウントポジションを取る。
「俺の願いは昔みたいにもっと学校で滅茶苦茶がしたい、だっ! 昔はお前みたいな地味な娘を何人も食ってきたが今はガキがいっちょまえに逆らって来やがる! どうせ死ぬんだから最後くらい良い思いをさせてやるよ!」
「きゃあっ! やだっ!」
「叫んでも誰も来やしねぇよ! おとなしくしやがれ!」
力ずくに芳賀のブラウスを破き、白い健康的な肌と下着が露出させられる。
芳賀は勿論抵抗するが、大人の男である村上には力では勝てなく、徐々に抵抗する力が弱くなっている。
このままでは村上に暴行されるのは明白だろう。
「やめてっ! 離してぇ!」
「安心しろ! すぐに天国に連れてってやるからよぉ!」
所で俺がどういう人間であるか覚えてるだろうか?
中二病の男子高校生……そう、無駄にカッコつけてしまうお年頃である。
例え自宅でも何処でも場所が関係なく、誰に対してもそうしてしまう男……それが俺である
「どうやら、俺位なら来るみたいですよ」
「…………は?」
「え?」
芳賀に夢中なって背後から走ってきた俺には気が付かなかった村上は俺のタックルを受けて幽霊を見たような顔をする。
心外だ、傷ついちゃう。
のの学校の屋上には手すりが無く、屋上の周囲を囲むフェンスだけだ。
これを、男二人分の体重に加え、男子高校生の全力疾走の速度が乗っていたら? 答えは明白、倒壊である。
「うわぁぁぁあぁあ!!!」
「……ッッッ~~~!」
村上はけたたましい声で叫びながら屋上から地面へと共に落ちていく。
俺も本当の意味で地に足が着かない感覚に恐怖し、悲鳴が出そうになる。
だが俺は中二病、最後までカッコつける事を止めない。
例えそれが、命の大安売りだとしても……
「先生、セクハラは……め、でしょう?」
「草加ァァア、貴様アァ!!」
地面に当たる瞬間、自分の肉が押しつぶれていく感触と激痛と共に俺は意識が途切れる。
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俺は意識がゆっくりと戻ってくると、何か頭に柔らかい感触を感じた。
「くふ、草加君、起きました?」
「……芳賀」
正直心臓が止まるかと思うくらいビックリした。
何故なら俺はあのクレイジーサイコパス殺人女の膝の上で目を覚ましたからだ。
俺は相手に焦っていると悟らせない程度に身を直ぐ様起こして立ち上がる。
周囲の景色を見るにどうやらここは学校近くの公園のようで、ベンチで膝枕されていたようだ。
辺りはもう真っ暗で、完全に夜の時間帯である。
「……あの後どうなった?」
「村上先生と草加君はぐちゃぐちゃの美しい肉塊になって混ざりあったと思ったら、草加君だけ光の粒子になって元に戻っちゃいました。屋上の損壊や、村上先生の死体はササランが綺麗さっぱり証拠を消したみたいです。このゲーム、秘匿性が高いですから誰も信じてくれないと思いますよ」
「……俺とお前、ジャージ姿になってるけど?」
「草加君のは屋上から飛び降りたら殆どぼろきれみたいになっちゃったから教室から取ってきました。後でササランが直して持ってきてくれるみたいです。私も、その、ブラウスを破かれたから……」
「……悪い、無粋だった。じゃあまた明日」
「待って下さい……!」
嫌な事を思い出させてしまったのだろうと思い素直に謝り、取り敢えずは一人にしてやろうと別れようとすると呼び止められる。
「その、何で助けたんですか……? 草加君を八つ裂きにした私を……」
「さぁな? 男と言う奴は馬鹿みたいにカッコつけるんだよ。そして馬鹿は死んでも治らないようだ。これは貸しにしといてやるよ」
無論嘘である。
話は遡ってササランに再開した時の事だ。
「今回はササランの事前の説明不足と言う不手際という事でもう一つ良いことを教えるラン!今、この学校にはもう一人願い人がいるラン!」
「は? もう一人だと?」
俺はササランから願い人がもう一人居ることを聞いていたのである。
明日学校来ればまた芳賀に俺が生存していたのがバレてしまう。
だったらもう一人の願い人に協力してヤバい奴である芳賀をやっつけてしまおうと言うのが初期の作戦だ。
その為、いきなり芳賀を呼び出した村上を俺は願い人だと、決めつけていた。
まぁ襲われているのが例えクレイジーサイコパスキラー女でも、つい助けてしまったのが今回の顛末だが。
「3300円の3回払い」
「え?」
「私の能力です。刃物を召喚する能力で、人を切り裂きたいと言う望みで発言した能力です。私、暫くは草加君の事は狙わない事にします」
「芳賀に似合った物騒な能力だな。後、出来るなら永遠に命を狙わないでくれ」
「くふふ、そうですか……それと、どうして確かに死んだのにまた生き返ったのでしょうか?」
そうやって俺から能力を聞き出したいのだろうが教えて堪るか、この女狐め。
俺は背後を振り返らずに言い聞かせる。
「知らないのか? 英雄は一度死んで甦るんだよ」
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「おはようヒデ!」
「あぁ、おはよう啓太郎。お前を見ると日常を取り戻した感覚を実感するよ」
「ヒデは相変わらず面白い奴だなぁ」
友達の啓太郎と駄弁りながら登校していると、通学路途中にあるコンビニから一人の女子生徒が出てくる。
げっ、クレイジーサイコパスキラースプラッタ女の芳賀茉莉だ。
「おはようございます! 溝呂木君、英雄君!」
「あれぇ~! ヒデ、いつの間に芳賀さんと仲良くなったのかぁ~? ねぇねぇ、芳賀さんとヒデってどんな関係!?」
加害者と被害者、襲撃者と犠牲者、狩人と獲物、捕食者と披捕食者の関係である。
無論、全部俺が後者である。
「くふふ、私の初めてを捧げた人です♡」
「は?」
「えええええぇぇ! 嘘だろヒデ!」
初めてとは初殺人の事だろう?
やれやれ、一体どうやって啓太郎に説明しようか……
これは、108の煩悩を禊、最後に残った純粋な願いを叶える爽やかな物語、はたまた蟲毒の如く、何物かが裏で暗躍し、邪な欲望を実現させようとする序章なのかもしれない。
だが、一つだけ、紛れない事がある。
それはこれが俺の100回死ぬまでの物語であると言うことだ。
どうやら俺の日常を取り戻す戦いの火蓋はとっくに切り落とされているようである。
残りLIFE98