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時の刻印  作者: maturi
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第零章 〜プロローグ〜

 砂の中。

 砂漠の、砂丘の、真ん中だった。

 昼中に目立たないように輝く星のように、砂の中に二つの輝きがあった。

 一つの光は金色に輝き、一つの光は銀色に輝いた。二つは、いや二人は寄り添うように砂漠の上を歩いていた。

 「見つからないよ!ほんとにここ?」

 「だったと思うよ!」

 「思う、じゃだめ!言い切って!」

 金の髪の少年は、すこし疲れきった顔で、銀の髪の少女に向かってため息をついた。

 「なによ」

 「だいたいななだって覚えてないじゃないか」

 「私はいいの。かいりが覚えているって信じていたもの」

 「そんなの卑怯だよ!」

 二人は互いに睨み合って頬を膨らませた。

 「もうっ!かいりと遭難だなんて嫌だからね!」

 「ぼくだって、ななと二人で死ぬなんて嫌だよ!」

 死ぬという言葉を使ったとたん、ことの深刻さに二人は気付いて今度は目一杯に涙を浮かべあった。

 「いやだよ…おとーさん!助けてよ!」

 「泣くなよ、なな…ううぅ、うわーん!」

 風は砂を巻き上げ、二人を囲んだ。二人の声さえもそこから逃さないのだ。

 けれど、風は二人の敵ではない。

 生き物のように吹き上げ風の作り上げた砂の壁は、一方向だけ開け道をつくったのだ。

 なながその先に気がついてかいりに声をかけた。

 「かいり!あれ!…あった…」

 「あったよ!」

 目指していた小さな小屋だった。視界が悪くなり近くまで来ていたのに気付かなかったのだ。

 『いこう!』



 

 古い小屋は今にも倒れそうだった。

 「本当にここで休むの?」

 「仕方ないだろう。都に行くまでの距離を最短で突っ切るにはここが一番いいってななも納得しただろう」

 かいりはすこし斜向いたドアをゆっくりと開いた。

 「うわっ」

 開けたとたん、古屋のオンボロぶりが視界に入ってきた。

 「本当にここで休むの〜」

 「ぼくだって嫌だよ…」

 かいりはゆっくりと奥に入っていった。その時、かいりは何かにひっかかって派手に転んだ。

 「かいり!」

 「いったー!」

 かいりがひっかかったのは黒いぼろ布だった。ぼろ布は何かを包んでいた。大きく盛り上がっていたのだ。

 「もうっ!なんだよ!」

 するとぼろ布はゆっくりと動きだした。

 「!!」

 「!!」

 二人は声にならない叫びをあげた。

 「…いった」

 布はよく見るとマントで、大きく盛り上がっていたのは人だった。

 「せ、先客!」

 ななはかいりの腕にしがみついた。

 「こんにちは」

 先客は愛想のいい笑顔を向けて来た。黒いマントに隠れていた金の髪が覗く。

 「ごめんなさい。先客とは知らず…でも僕達もここで休みたいんです」

 「ええ。どうぞ」

 ななはかいりにしがみついたまま、かいりが一歩前に進めばななも一歩進んだ。

 「王都に?」

 先客は二人に座るように手招きした。

 「…はい」

 二人はおそるおそる座った。

 「なにしに?」

 火をおこしはじめた。

 「救世主の銅像を見に行こうと思って」

 かいりはゆっくりと話す。

 「救世主にあこがれが?」

 かいりとななはお互いに顔を見合わせた。おかしな事をきくものだ。この星は近年一度滅びかけた。そう遠くない過去だ。その事を知らない大人はいないのだ。

 だからこそ、その歴史に登場する救世主はあこがれであり、崇拝している。それは二人に限った事じゃない。この世界の者全てが、といっても過言ではないのだ。

 「…もちろんです」

 くすっ。先客は笑った。

 「おかしなことですか?」

 「…いいえ。ただ、あの人をそんなふうに聞く日がくるなんて…」

 「!、あなたは、救世主を知ってるんですか!」

 ずっとだまっていたななが身を乗り出す。

「もちろん」

 ゆっくりと笑った。







 「セルト」

 「フェリオラル様…」

 “セルト”と呼ばれた少年は近付いてくる女性に寂しそうに微笑んだ。

 「様なんていらないのよ?そうね、私こそ呼び捨てなんて恐れ多いことね」

 「…」

 「もう、あなたをセルトって呼べなくなるね」

 女性あらため“フェリオラル”は自分より身長の低い少年に頭を下げた。

 「あなたは、いえ、あなた様はこの一族の希望。私はあなた様を誇りに思う。だから私もあなた様に負けない立派な生きざまを歩んでみせます」

 大嫌いな風が吹いた。

 「フェリオラル様…」

 いつも近くに感じていたフェリオラルがとても遠く感じる。距離を置かれた気がする。

 「どうか…お元気で…それから、ゼウス様を…いえ、もうこう呼んではダメなのね。理解してあげて。兄神も父神もあなた様を…」

 「時間だ」

 後ろから低い声がした。

 金色の髪が、深い蒼い瞳が、神々しい。

 「ゼウス様…」

 男は自分をゼウスと呼んだフェリオラルを睨んだ。

 「いえ、全能神様」

 フェリオラルは瞳をそらしながら小声で呼びなおした。

 「行きます」

 背を向けた男に少年は歩調をあわせてついていった。

 振り返る。

 大切な人が小さくなってゆく。

 今、フェリオラルはどんな表情をしているだろうか。

 何も見えない。

 『私はあなた様を誇りに思います』

 ―そんなこと望んでなかった。

 ただ、そばにいてほしかった。

 なにも考えずに笑いあっていたかった。

 共に時の刻印を探したかった。


 もう、戻らない。

 愛しい日々。





 「話しをききたいのですか?」

 目を輝かせて覗き込むかいりとななに、先客は微笑ましく思った。

 「ききたい!」

 「きかせて!」

 長い物語のはじまりはいつだっただろうか..............


第一章 〜光の扉〜 へつづく

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