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第9話 目隠し撃剣試合


 神田明神から離れて屋台も途切れたところに撃剣試合の会場が設けられていた。普段は浅草でやっているのが、春の大祭にあわせて出張ってきたらしい。


 十五郎と琴葉が通りがかると、ちょうど年嵩の男が口上を述べ始めた。


「さあさあ、お立会い。ここにお集まりの皆々様、いずれも腕に自慢の猛者に違いない。御一新あいなりて、安寧の世がやってきたは良いものの、磨いた腕を示す場がないとは嘆かわしい。

 これでは不満も溜まろうというもの。

 おっと、御上に不満があるわけじゃなし。そのあたりは誤解なきように。要は、腕試しの場をこちらで御提供。腕を示して召し抱えとはいかないが、わずか三番、試合に勝てば、名誉の印に花簪はなかんざしを御拝領。

 挑戦料は、たったの二十銭。さあないか、さあないか。おや、これはまた誰も出ないじゃ商売あがったりさがったり。こいつは困った。ええ、なんだい? 看板の目隠しってのは何だって?

 おお、そうだ。大事なことを忘れてた。

 こちらの武芸者は、みな目隠しをしての立ち合いだ。もちろん皆様方は目隠し不要。そのうえ御上に叱られちまうから真剣は使わない。さあ、どうだ。これでもないか。無鉄砲と博打と喧嘩は江戸の華。これでないなら、あたしはもう首をくくるよ。

 はい、そちらのお兄さん。はい、そちらの粋な方。まずは一番乗りに二番乗り。よく言った、よく出た、よく勝った。おっと、それはまだこれからか。早速やってもらいやしょう」


 口上に応じた若者が、興行主お抱えの武芸者と立ち合う。実際に武芸者側は目隠しをして立ち合い、若者は余裕の表情だ。

 一人目を難なく倒し、二人目となったところで、意外や武芸者側も目隠しに慣れているのか若者の負けとなった。惜しいところで誰も二番抜きができない。


 こうなると十五郎も落ち着かない。わずか二十銭で品の良い花簪が手に入るとあって、祭りの土産に琴葉に持たせてやろうと思った。


 撃剣試合に参加した十五郎は、一人目を軽くあしらい、二人目も苦労なく片付けた。そして三人目、あっさり賞品を持っていかれては困るとばかり、焦った様子の興行主が控えの天幕へ駆け込んでいった。


 天幕から出てきた三人目は、なんと若い女武芸者だ。すでに目隠しをして出てくる。その凛とした立ち振る舞いと物腰に聴衆から歓声が上がった。無造作に束ねられた黒髪が日の光に煌き、整った顔立ちが目隠しのために余計に映えている。


 維新の頃の剣客、榊原健吉の係累とも孫弟子とも言われ、浅草で人気の武芸者、山中佐奈だった。しっかりとした足取りで試合の場に向かうと、腰を落として構えを取った。手には鎖鎌、珍しい獲物である。


 腕に覚えのある十五郎だけに、三番抜きに自信があったが、佐奈の構えには隙がない。端から動くつもりはなく、その場で迎え撃つような静謐な構えだ。


 わずかな間をおいて不意に強い風が吹き、十五郎の気が逸れた瞬間、分銅付きの鎖で竹刀を絡め取られた。引き戻された鎖とともに、佐奈の手元へ。


 それで勝負ありとなった。


 激しい打ち合いを期待していた聴衆から溜息が出たのは言うまでもない。


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