第6話 苦虫の佐藤
「断る」
即答したのは、苦虫を噛み潰したような顔をした佐藤英二警部補だ。舩坂和馬少佐の後輩で、憲兵上がり。武勇で知られる示現流の使い手である。
近頃、帝都で頻発する妖しの辻斬りについて和泉橋警察署へ状況を聞きに寄ったところの返答がこれだ。色よく応じてもらえると思っていただけに、けんもほろろの対応に面食らった。
後ろに控える千代が面白そうに見守り、正三は眠たそうにしていた。
気を取り直して、十五郎が改めて口を開く。
「そちらにはそちらの立場があることは分かります。しかし、我々もまた御上の意向に沿っての任務があります。帝都の治安を守る目的は同じでしょう? 辻斬りの件、今の状況を教えてもらえませんか」
「いくら舩坂少佐の部下であれ、事件のことをほいほいと話せるか!」
佐藤警部補としては、尊敬する少佐の頼みとあって、渋々会うには会ったが、なぜ自分に任せてもらえないのか、なぜ自分を少佐の元で使ってくれないのかという不満があり、かえって冷たい対応となった。
しばらく押し問答を続けているうちに、一人の巡査が慌てた様子で部屋に入ってきた。佐藤に耳打ちをする。ほとんど表情を変えずに聞き終えると、十五郎の方を向いた。
「悪いが急務が入った。他ならぬ少佐の頼みだから、いずれ多少の話はしてやる。今日のところは帰ってくれ」
「承知した。では、また後日」
収穫もないまま和泉橋警察署を出た十五郎。日はすでに落ちかけ、黄昏時である。どうしたものかと困惑していると、正三が十五郎の袖を引いて路地裏に引っ張り込んだ。何事かと問いかける十五郎に静かにするよう目で伝える。
と、佐藤警部補以下数名が表通りを駆け抜けて行った。状況が分からぬまま、今度は千代に引っ張られて佐藤らの後を追う。
「あれは大事なことを隠そうとする態度でした。間違いなく本命ですよ」
「そうそう、例の辻斬りが出たんだろうさ」
十五郎は、半信半疑ながら二人の先導を受けて走った。遠くから剣撃の音が聞こえてくる。




