第22話 狐憑きの娘
「お兄様!」
琴葉が声をあげ、男性が窓枠をひらりと飛び越えて部屋に入った。
「やあやあ、どうも。みなさん琴葉の御友人かな。兄の神尾瑞樹と言います。琴葉、何年ぶりかな。大きくなって」
しみじみと言いながら琴葉を抱きしめる。嫌がる素振りで恥ずかしそうにしながらもなすがままの琴葉である。しかし、急に雰囲気が変わって、瑞樹を突き飛ばした。
「どさくさ紛れに抱きつくんじゃない!」
「あ、く、葛葉か」
瑞樹が身を起こしながらいう。「これは大陸の挨拶で、親愛の印だよ。下種な気持ちなんか微塵もない。葛葉にも会いたかったよ」
と、もう一度、琴葉あるいは葛葉に抱きついた。
「この馬鹿兄貴め! 散々、痛い目に遭ったことを忘れたわけではあるまいな」
再び突き飛ばされて盛大に引っくり返った。
呆気に取られる十五郎たちだったが、瑞樹が引っくり返った音で我に返ると、斜な感じで立つ葛葉あるいは琴葉を取り巻いて質問攻めにする。溜息をついて面倒くさそうに答えて曰く。
私、姓を神尾、名は葛葉と申します。
説明しようにも、私自身よく分かりませんので要領を得ないかもしれません。
そうですね。まず、琴葉は私であり、私も琴葉です。琴葉は私が居ることを知りません。いえ、おそらく父母から聞かされていると思いますが、よくは分かっていないでしょう。
なぜなら、私は琴葉として生きている間のことを憶えていますが、琴葉は葛葉として生きている間のことを憶えていないのです。夢遊病のように思っているのでしょう。
昔であれば狐憑き、あるいは気の病、西洋風に言えば精神病といったところ。私が居るという事実は変わりませんので、どう名付けようと同じでしょうけれど。名付けることで安心したいのでしょうか。
神尾家では、時折こうした娘が出るそうで。
元々、神の憑く家系で、神託、巫術に優れ、神懸りでの言葉を降ろしていたとも言います。神尾の森は狐の森とも言われ、私もまた狐の化身やもしれません。
琴葉が驚いたり恐がったり、あるいは緊張の糸が解けたり、何らかのことで気持ちに変化があったとき、気まぐれに表に出られることがあるのです。私としましては、どうあれ、琴葉と共に生き、琴葉と共に死ぬものと思い定めております。
琴葉の方はどうかわかりませんが、私は琴葉としても生きておりますから、表に出たいとか、琴葉に取って代わりたいとか、そんなことは露ほども思いません。いずれにしても、私は買われた身。
「……そこな十五郎様に、わずか二銭で身請けされましたので、なんの自由も御座いません。これも遊女の血というものでしょうか。この間も正三様と二人がかりで……」
よよよと袖を目に当てる葛葉である。瑞樹が目をむいて怒り、佐奈が冷たい視線を寄越す。が、
「……もみくちゃになりながら、牛鍋をつついた仲です」
と言って、ころころと笑う。目を細めて笑う様は妖しく、婀娜っぽい雰囲気である。




