第13話 軍服
千代の背後に立ち上がった辻斬りが刀を振り下ろそうとしたが、一瞬早く佐奈の鎖鎌が巻き付いていた。辻斬りは苛立った様子で鎖を引いて佐奈を激しく引き倒し、同時に丸太のような足で千代を吹き飛ばす。その体が宙を舞い、民家の塀を突き破っていった。
ひひひと嗤う辻斬りの足に十五郎が斬り付ける。関節部分をわずかにそれて金属的な音が響き、倒れこそしないものの、辻斬りは巨体をぐらりと揺らした。
「軍服かぁぁ!」
これまた辻斬りから若い女の声。
「寄ってたかって私の邪魔をするなぁぁ! 私の腕を返せぇぇ! 忌々しい軍服めぇぇ!」
いなすように十五郎を蹴り飛ばし、琴葉以外に立っている者がいないことを確かめると、辻斬りは満足気に頷いた。
「あの軍服かと思ったら違うじゃないか。弱い弱い、あいつ一人の方が強かったなぁ」
言いながら、琴葉を見て舌なめずりをする。
「あの女の娘だぁぁ。間違いない。その腹、掻っ捌いてくれる。これで本当の鬼になる。橋を渡る幸せそうな女たちを永遠に呪ってやれるなぁぁ。ひひひ」
恐怖で動けない琴葉に向かって刀を振り下ろそうとした辻斬りの動きが止まった。
その周囲を白い紙がひらひらと舞っていた。正三が飛ばした紙の蝶、胡蝶の舞である。それに気を取られている隙に佐奈が琴葉を引き寄せる。
獲物を奪われた辻斬りは、怒り心頭の様で正三を蹴り飛ばすと、佐奈と琴葉の元へ歩を進めた。




