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でも、ずっと変わらないものなんてない。
生きている限り、同じ状態で過ごすことは不可能なのだ。
京が二十三歳のときの、十二月。京の仕事先が海外に決まった。もちろん、大学生だった千華を連れて行くわけには行かない。
「千華、ごめんな……」
京が旅立つ前夜、そう言って京は千華を抱きしめた。みぞれの降る、冷たい夜だった。屋根をうつ音だけが聞こえる仄暗い部屋の中で、お互いの温度を確かめるように、何度も何度も抱き合った。
指の形も、髪の匂いも、互いをつくるもの全部を自分の中に留めておきたいのに、それは叶わない。どう足掻こうとも時間は刻一刻と過ぎ去り、戻ることはできないのだ。
しがみつこうと伸ばす千華の指に自分の指を絡めながら、京は言った。
「三年経ったら帰ってくるから。待っててくれるか?……そしたら、一緒に暮らそう」
ぎゅっと指に力がこもる。
「待ってる、待ってるわ」
千華の瞳を覗き込むと、その目は熱っぽく、涙に濡れていた。闇の中にきらめいているその目をしっかりと目に焼き付ける。
京微笑んだ。千華と過ごす長い未来を考えれば、三年なんて、あっという間だ。その時はそう思っていた。
千華は、本当に待ちつづけた。
三年の間、京だけのことを思って。
でも、 待てなかったのは、京の方だった。
三年の月日は、京の心をあっけなく変えてしまった。
……京は三年後、既婚者として、千華との再会を果たしたのだった。