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薄鳴館  作者: 春野
ようこそ、薄鳴館へ
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3


洋館ーー薄鳴館の中に入ると、わたしはその内装の豪華さに目を見開いた。


入ってすぐ、わたしを迎えでたのはつやつやとしたこげ茶の階段で、上から吊るされたいくつもの洋燈が、一階を淡い橙色に照らしている。

床には鮮やかな赤い絨毯が敷かれており、土足で歩くのが申し訳なくなってくる。

明らかに現代とはかけ離れた内装に驚きながらも、わたしは男のあとについて行った。


通されたのは二階の部屋だった。客間、というやつだろうか。

窓には色ガラスがはめ込まれていて、思わず感嘆の息をついていると、くすりと笑う気配がした。


「お気に召しましたか、薄鳴館は」


「は、はい……」


手で座るように示してから、男は「いまお茶を淹れますね」と微笑んでから、ティーカップに熱いお茶を淹れてくれた。お茶を淹れるというだけでなのに、その動きになぜか見惚れてしまう。


「どうされました?」


「えっ!? なんでもないです」


まずい、見つめすぎた。

だって、あんまり綺麗なんだもの。


「どうぞ、召し上がってください。お砂糖はここにあるので、よろしければどうぞ」


男はそういって、細く長い指でカップをつまみ、お茶をすする。


「いただきます」


あ、おいしい。

柑橘系の甘酸っぱいよい香りが、すっと鼻に抜けていく。あまりの美味しさにもう一杯飲むと、あたたかさが身体中にみちて、心が落ち着いた。


「では、お仕事のお話をしましょうか。まず、わたくしはカオルと申します。この薄鳴館の、主人でございます。あなたは、……綾さんでございますね」


「あ……はい」


どうして名前を知っているんだろう。

不審に思ったわたしをみて、カオルさんは苦笑した。


「あなたに声をかけた時、あなたの持っていた書類が見えまして、そこの名前を見てしまいました

。申し訳ございません」


あ、なるほど。わたしは慌てて手を振って、大丈夫です、そう言った。


「それでここのお仕事なんですけど、此処では喫茶店をしているんですね。ただ今、従業員がわたくし一人でして、だから、是非ともお手伝いをお願いしたいのです。……できたら住み込みで」


「住み込み?」


これは、家賃が浮くかもしれない。


「ええ。食事と家賃こみで。お願いできますか?」


「もちろんです! あ、でもお仕事ってなにをするんですか?」


わたしは大きく頷いてから、一番の疑問を口にした。こんなにいい話はそうそう無いが、さぞかし仕事はつらいのだろう。なんせ、二人しかいない喫茶店なのだから。


「食事や食器のあげさげと、お客さまのお話相手です」


「お話し相手?」


「はい。……お客さまがお越しいただいた時、わかると思います」


お話し相手、なんだろう、悩み相談とかかな。

わたしは首を傾げながらも、その仕事を了解した。どうせ一人暮らしのなに一つ持っていない女だ。この先どうなっても、もう、かまわないんだから。


「カオルさん。これからどうぞよろしくお願いします」


カオルさんは深々と頭を下げるわたしに、にっこりと微笑み、頷いた。


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