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プロローグ
夕闇に沈んだ路地裏に、ひっそりと佇んでいる薄鳴館。
見栄えの良い洋館だたったのだろうが、荒れ果て亡霊のように佇む姿は、不気味で人を寄せ付けない。
明治時代頃に建てられた喫茶店だと言われているが、本当のところは誰にもわからない。この館はそんな歴史的な建物としてではなく、別の意味で有名なものだった。
その館から漏れる光を見た者は死期が近い。
その館の支配人と言葉を交わした者は、死へと誘われる。
誰がどんな目的でそのような噂を流したかは分からないが、いつしか周辺の住民はその噂を信じ、夜になるとその館の前を通る者はいなかったし、旅の者にもその旨を伝えていた。
しかし、ひとりぼっちの娘、綾は、そんな噂など何も知らず、薄鳴館に足を踏み入れてしまったのだった……。