19
窓の外は平凡な街並みだった。夜の空の下に住宅が並んでたまにお店があって、たまに歩いている人がいて。
ぼくの家の近くに似ている、と思った。具体的な街並みが似ていたのか雰囲気が似ていたのか、それともなんとなくそう思ったのか。
判断した理由はあまりはっきり覚えていない。ただ漠然とした郷愁のようなものを感じながら、ぼくは流されていく窓の外をぼんやりと追っていた。
みことくんがどんな顔をしていたのかは覚えていないけれど、多分、ぼくと同じような気持ちだったんじゃないかと思う。
「これで全部だ」
幾つ目かの踏切を過ぎたとき、みことくんはぽそりとこぼした。ぼくもみことくんもしっかりと数は数えていたはずなのに、今となってはその数をどうしても思い出せない。
幾つ目の踏切だったか……どうしても…………思い出せない。
ぼくはみことくんを見上げて微笑んだ。
「次の駅で降りるの?」
「そうだね。そういうことになるね」
「そうですか」
じゃあ、とぼくは続けた。
「さよならですね」
「そういうことになるねえ」
あっけらかんと言ったみことくんに、ぼくは少し落胆して、それから彼との別れを惜しんでいるらしい自分に少し驚いた。きっとみことくんも寂しいだろうとある意味傲慢になっていた自分にも少し複雑な気持ちになった。
みことくんは最初から最後までよくわからない人だった、とぼくは思った。
やたら饒舌にグロテスクな話をすると思ったら今際の際のことは言葉に詰まったり、いじわるかと思えば親切にしてくれたり、ぼくに気をつかったり、そのくせぼくから何か言うとからりとしていたり。当時のぼくにはよくわからなかった。今でもよくわからない。
「あ」
不意にみことくんが呟いて、窓の外を指差した。
「見てごらん、さつきくん。花火だよ」
「本当だ」
「きれいだねえ」
「ええ、本当に」
そこにはみことくんの言う通り、大輪の花火が次々と開いていた。
ひゅるるると玉が昇っていく音。あまり星のない夜空に大きく開く花火。遅れて、パァンと小気味のいい炸裂音。それらが次々に生まれ重なって、青や赤や緑や黄色や、様々な色が重なって、つい先ほどまであんなに味気なかった夜空は華やかに彩られていった。
花火なんて見るのはいつぶりだろうか。昔両親に連れられて、父親の肩車の上から手を叩いて見たあの花火が最後だろうか。
懐かしい。懐かしい。
そんなことを考えていたら、いつのまにか涙が溢れていた。