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 めまぐるしいくらいの速さと重なりあった遮断機の音に、ぼくは気持ち悪くなって口元を押さえた。

 今思えば単に乗り物酔いだったのかもしれない、ずいぶんと速かったし、揺れたから。でもどうしてか当時のぼくはあの音のせいで気持ち悪くなったのだと確信していた。


 いくつもいくつも踏切を通り過ぎて、やがて電車はゆっくりになって、今にも止まりそうなトロトロとした速さになった。周りはどこにでもあるような街並みだった。

 なんだかそろそろ駅につきそうな雰囲気だけど、みことくんは降りるのかな。そう思って見上げたみことくんの様子は、ぼくが想像していたようなそれではなかった。

 窓の外はもう見ていなくて、ドアに両手をついてうつむいて、浅く呼吸を繰り返していて、髪に隠れて目は見えなかったけれど、きっと熱くはない汗が首元を伝っているのを見て、ぼくは「ああ、彼は焦っているんだ」と思った。

 みことくんの姿に既視感を感じたのは……そう、眠っていたみことくんが飛び起きてぼくに迫るまでのような、あんな表情だったからだと思う。


 今度こそ慎重に言葉を選ばなければ。と思った。

 それなのにぼくはみことくんのブレザーの裾を引っ張って、思わず言ってしまった。

 どうしてかぼくも焦っていたのだと今では思う。


「二十六……?」


 はっとしたようにみことくんはぼくを見た。

 そのまま長いこと見つめられていたわけではないはずなのだけど、ぼくにはあの一瞬が長くて長くて仕方なくて、自分が生唾を飲む音をあんなにはっきり聞いたのは初めてだった。

 そんな息苦しい一瞬の後、みことくんは脱力したようにへらりと笑った。


「そう……二十六。よかった……」


 みことくんは軽くドアに額をぶつけた。しばらくそのまま静止したあと、はあっとため息をついてドアに背中を預ける。

 そしてずるっとしゃがみこんで、うつむいてから、顔をあげた。


「……僕、数を数えるのが苦手みたいで。不安になっちゃってたんだ。だめだなあ……」

「いや……気にすることないですよ。ぼくも最近できるようになったので……」


 みことくんがドアに背中を預けるときに振りほどかれてしまった手を後ろ手に組んでぶらぶらしながらぼくは言ってみた。

 みことくんの卑屈——いや、あの表情は冗談というのが正しいだろうか——にうまく返せたか不安だったけれど、みことくんは気が抜けたように笑ってくれた。あといくつで降りるの、とは、やっぱり聞けなかったけれど。


 立ち上がったみことくんはもう席につく気はないようだったから、ぼくも立っていることにした。



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