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 摩天楼はいつしか通り過ぎて、外は真っ暗になった。遠くにぽつぽつと連なった高速道路の赤い明かりが見えたけれど、やがてその高速道路も遠ざかって見えなくなった。

 車内は無言だった。みことくんの話にぼくは上手な返事が出来なくて、彼がどんな返事を求めているのかわからなくて、黙っていたらふと思った。

 みことくんだって、自分がなにを求めているのかわからないのかもしれない、と。


「みことくん」


 ぼくは話しかけた。


「そっちに座ってもいいですか?」


 みことくんはゆっくりと顔を上げると、疲れたように微笑んで隣の席にあったかばんをどかし、「どうぞ」と手で示して言った。

 ぼくはリュックを抱えてそこに座った。みことくんがかばんを足の間に挟んで床に置いていたから、ぼくだけ座席に荷物を置くのは不公平だと思ったからだった。


 特に何を話すわけでもなかったと思う。ただ、ぼくは彼の隣に座って彼と同じ景色を追っていた。

 満天とまではいかないものの空にはぽつんぽつんと星がちらついていて、真っ暗は真っ暗でもトンネルのそれよりずっと落ち着いた景色に見えた。

 しばらくそうして窓に映る自分とその隣のみことくんを眺めていたら、不意に聞き覚えのある音がした。


 踏切の音。

 みことくんがはじかれたように立ち上がるのにほんの少し遅れて、ぼくも思わず腰を浮かせた。みことくんはドアに張りついて外を見た。

 踏切の不安定なカンカンカンという音が近づいて、電車が通り過ぎるのにともなって歪みながら遠ざかっていく。思わずぼくは通り過ぎる遮断機を身体ごと傾けて追った。踏切の周りの景色は夜の住宅街に見えた。そんな二秒足らずの出来事の後、いや後というよりも重なるようなタイミングで次の踏切の音が聞こえる。首を電車の進行方向に向けるとちょうど踏切を通り過ぎるところで、犬とおじいさんが立っているのが見えた。


「は、速くなってません?」


 電車は明らかに加速していた。どんどん流れが速くなる窓の外とふらつく足元に、安全バーのないジェットコースターに乗っているような気分になって思わずぼくは呟いたけれど、ぼく以上に余裕のなさそうなみことくんは返事どころじゃなさそうだった。というか、聞こえてすらいなかったのかもしれない。

 それでも電車が速くなっているのはわかっていたのだろう、みことくんは片手をドアの窓につき、もう片方の手は手すりを握っていた。

 ぼくは両手で手すりにつかまってドアの外に目を凝らした。


 どんどん景色が流れてどんどん踏切を越えていく。

 そのたびにあの遮断機の不安定な音が脳に響いていって、どの踏切のまわりもただの住宅街なのに、なぜだかぼくは泣きたくなるほど怖くなった。



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