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気がつくとぼくは、座席の一番端に座って、手すりに寄りかかってぼんやりしていた。寝起きのようなだるさがあったから寝ていたのかもしれない。
周りには嘔吐物も肉片も特に見当たらなかったし、こすりすぎて剥けた手のひらも元に戻っていた。
少しだけ顎を上げて正面を見ると、ぼくと同じように手すりに寄りかかってすやすや眠るみことくんがいた。目をこらせば、寝息にあわせてかすかに胸が上下している。
生きてはいないとしても、少なくとも、死体ではないみことくんだった。
ぼくは彼に声をかけて起こすのはおろか、立ち上がって近づくことすら怖かった……いや、億劫だったから、気だるさに身をゆだねて手すりに寄りかかった。
何も考えずにぼうっと床を見つめて、そういえば外は……と思って顔をあげる。今までの田舎の風景とは打って変わって、電車は夜の摩天楼の間を走っているようだった。
高いビルの明るい窓にはたまに影が映って、何故だかは忘れたけれど、ぼくはそれを人間じゃないと思った。
みことくんが目を覚ましたら、またあの長い長い講義が始まるのだろうか。
嫌だな、とぼくは思った。
ぼくはみことくんと話をしたくなかった。あの公衆電話のことも、さっきの化物……化物みたいなあれのことも、みことくんが悪いわけではない。彼は何もしていなかった。けれど当時のぼくはそんなことに気づくほどの余裕を持っていなくて、どうしても彼のせいだと、ぼくが怖い思いをした責任を押し付けてしまっていた。
いっそみことくんが目を覚まさなければいいのに。そんなことを思って、それじゃまるで「死ね」と言っているみたいだと思って、それからみことくんはもう死んでいることを思い出した。
ぼくももう死んでたりして。そんなことも考えたけれど、だからといって泣きわめきたい気分にもならなかったし、諦めたかったというか、ただただ何もしたくなかった。
ぼくがみことくんを起こすこともなく、みことくんの身体が腐り落ちて剥がれることもなく、電車はガタンゴトンと揺れながら摩天楼の間を走っていた。
どれくらい経ったかはわからないけれど、そのうち電車は減速して止まった。次の駅についたのかと思ったけれど、ドアも開かないしどうやら違うらしい。
——故障?
流れるかもわからないアナウンスを待つことしばらく、待っていたものではなかったけど、聞いたことのある音が進行方向のほうから聞こえてきた。
少し音が割れていたけれど、それは踏み切りのカンカンカンカンカンカンというあの音だった。
今思えば変な話だ、電車が止まって踏み切りを待つなんて。あの時はなんとも思わなかったけれど。
踏み切りの中を渡っていたのは、なんだったか……あまり覚えていない。ただ単に見てなかったのかもしれない。
とにかくぼくは、特に何も感じずに遮断機があがって電車が動き出すのを待っていたし、電車は特にぼくの期待を裏切ることもなくまた揺れはじめた。
そんなことを四回……そう、四回。
確かに四回繰り返した時だった。
みことくんが目を覚ました。