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そのあと確か一つか二つくらい駅を過ぎて、地上に出た。眩しさが一通り過ぎたあとに改めて見れば、そこは夕暮れ時の山だった。
あんなに乗ってもまだ山かあなんて考えながら、ぼくはふと思いついた。さっきまでの地下鉄は地下じゃなくて山の中を、トンネルの中を通っていたのかもしれない。途中にあった駅は地下鉄駅じゃなくて山の下駅だったのかもしれない。でも、そんな山の下、あるいは山の中に駅をつくって、利用する人たちはどこに住んでるんだろう? …………
そんなことを考えてぼんやりしていたのが伝わってしまったのだろう、みことくんは話をやめて座席の端の手すりにむすっと頬杖をついた。
「見てきていいよ。綺麗な景色だからね」
僕の話よりずっと楽しいよ、と拗ねてしまった。
「そんなことないですよあの、ずっと立ちっぱなしだったから足がちょっと疲れちゃって……」
そんな弁解をしながらふと振り返って、息を飲んだ。
ぼくは結局ずっとみことくんの前に立っていた。その状態で見えた景色は確かに山だったのだけど、みことくんから見える側、ぼくの後ろの景色は全く違った。
城下町と言ったらいいのだろうか。山あいの村といった雰囲気ではなくて、長屋が遥か遠くまで連なった、江戸時代の町並みのようなものが広がっていた。ぼくはこの電車に乗ってから初めていい意味で感動していた。大河ドラマのセットでもない、CGでしか見たことないような広大な町並みだったから、和風ファンタジーのゲームみたいだと思った。
すごい。
そんな呟きを口に出したかどうかは覚えてないけど、みことくんにもう一度「見てきたら」と言われた。さっきのような拗ねた声じゃなくて、お兄さんらしい落ち着いた声と表情だった。
ぼくが内心はしゃいでいたのが分かったのだろう。優しく笑ったみことくんを見ながら、悪い人じゃないんだよな、と心の中で言ってみた。ただちょっと、その……年のわりに、素直なだけで。
ぼくはお言葉に甘えて反対側の座席に膝立ちになって外を見た。行儀が悪いかなと思ったけれど、ちらほら車内に残っていた乗客は別のところに座っていたし、何も感じないような無表情でじっと前を見ていたから、まあいいかと思い直した。
しばらく膝立ちのまま流れていく町並みを眺めて、疲れたらそのままぺたんこ座りをした。
夕日がさす町の中、川沿いに青い柳の木が揺れているのを見つけて、やっぱり夏なんだとぼくは思った。
ホームに出たら暑いんだろうか。江戸時代の夕方ってヒグラシは鳴いてるんだろうか。この外はどこか違う時代の世界なんだろうか、それとも、今の日本のどこかなんだろうか。
みことくんのいたあの駅では気が動転していてそれどころじゃなかったけれど、色んなことが気になって気になって仕方なかった。
「みことくん、あの……」
きっとみことくんなら喜んでいろんな話をしてくれるだろう。そう思ってワクワクしながら振り返った。
なのに、座席はからっぽで誰もいなかった。