任務です
「今日、C組に転校生が来たんだって?」
「そうそう!結構イケメンらしいよ」
斗和の事ですね。
「ふぇ~そうなんですか」
「あと、何か臨時教諭も来たらしいな」
「え、そうなのか?蓮」
「あぁ」
英二ですね、二人とも無事に潜入することに成功したようです。とりあえずイヤホンは常に付けているので何かあったら連絡が来るでしょう、それまで私はいつも通りの生活を行えばいいのです。
* * *
そして放課後、私とお兄ちゃんはすぐ機関に向かい、現在長の部屋にいます。鈴香先輩たちは家に戻り、父君と共に来るそうです…あぁ、緊張しますね。
「今すぐにも帰りたい」
「マリ、我慢だよ」
「うぅ…」
「頑張れ茉里奈」
うるさいです斗和、肩に手を乗せるなです、ついでに消えろです。
「あれ、なんか今酷いこと言われた?」
「気のせいです」
ノックが聞こえました、来ましたね。
「長、お連れしました」
「入れ」
弘人さんがお出迎えしたのですね。ちなみに私と斗和、英二は壁際に立っています…お兄ちゃんは長を継ぐものとして長の後ろに、飲み物を置いた弘人さんがその横に立ちます。私達は気配を経っているのでいることに気付いていませんね…むしろお兄ちゃんがいてビックリしています。
「久しぶりだな重信」
「お前も相変わらずだな和也、和葉君も久しぶりだね」
「ご無沙汰しております」
会長と鈴香先輩まだビックリしてますね。
「零君と鈴香さん」
「っ!はい」
「は、はい」
「初めまして…では無いのだけど、赤ん坊の時だったからな。私は有村和也だ、この機関の長をやっている…後ろに和葉がいて驚いているだろう?」
「…そうですね、さっき学校で一緒だったので」
ですよね~、さっきまで一緒に学校にいたお兄ちゃんがまさかこんな所にいるなんて驚きですよね。
「ははは!…さて、今回の件についてだが」
真剣な空気になりました。
「今日から既に監視体制を敷いている」
「…早いな」
「詳しい事は、有沢」
「はい、校内には和葉の他私の部下が三名護衛に当たります。暗殺をするなら恐らく人気のない場所、4人には常にお二人の側に居てもらいます」
「3人?…もしかして今日転校してきた南崎斗和と臨時教諭の佐山英二ですか?」
わぁ、さすが会長ですね。
「大正解だよ」
あ、斗和しゃべりやがったです。あー…気付かれました。
「あ、貴方…って、え?茉里奈ちゃん?」
「…どうもです」
「3人とは彼らのことですか」
「ええ」
斗和め、あとで覚えていろです。
「授業中は僕が零を、斗和が鈴香さんを護衛する。」
「俺と茉里奈は陰ながら2人を護衛する」
陰ながら護衛、変なものがいれば即行動です。ん?…鈴香先輩が不安そうですね。
「鈴香先輩、大丈夫ですよ…放課後になれば出来る限り私が近くにいますから。それに、この馬鹿は無能ではないので安心してください…嫌だったら直ぐにでも言ってくださいね」
「おいおい茉里奈、ひどくないか?」
「当然の事を言っただけです。斗和、鈴香先輩に何かしたら即刻処分しますから」
「お前が言うと冗談に聞こえないからな!?」
そんなこと知りませんよ。
「プッ、クスクス…ありがとう茉里奈ちゃん、よろしくお願いね南崎君」
「斗和でいいっすよ。俺、本当は一つ下なんで」
あ、安浦親子が固まったです。
「…は?」
「おい和也、どういうことだ」
「ん?この子達には幼い頃からそういう教育をしてきたからな、本気出せば大学の問題も解けるだろうな」
そういえばそうですね、私達は幼い頃からここで様々なことを学んできました…それこそ一般教科の他に音楽系や技術系、体術や銃の扱い、ナイフの使い方もやりましたね。
「昔は何のためだとずっと思っていましたがこういう時に使うのだとわかった時はとても感謝しました」
「あーそれ分かるな」
「だな」
辛くはなかった、と言えば嘘になりますが…結構楽しかったものです。
「そういえば、お前もそうだったな和也」
「だろう?」
そういえば、この2人は幼馴染同士だとお母さんが言ってましたね。だからこんな気軽さがあるのでしょう…お父さんの場合は誰でも気軽いのですけど。
「さて、そろっと帰らねばな」
「気を付けろよ」
「あぁ」
こうして初顔合わせは終了しました。明日からしっかりと守護しないとですね!
* * *
あの日から3日経ちました。未だ暗殺者は何も仕掛けてきません…何となく、今日動きそうな気もしますが。
実は今日、学校が午前だけなのです…それも部活なし、生徒会も仕事が無いので生徒は全員帰っています。本来なら安浦家の車が来るはずなのにまったく来ない…まさか、とは思いますが。あ、私は現在英二と共に草陰に隠れています!会長と鈴香先輩元にはしっかりお兄ちゃんと斗和がいますよ。
『緊急!安浦家の車が何者かによって爆破されました!!』
「何!?」
「やはり…ですね。恐らく来ますね」
「だな…斗和、和葉、気を抜くなよ」
『わかってるよ』
目を閉じて聴力を尖らせる…いる…5人、東から3人…南から2人ですね。到達時間およそ5秒後、4、3、2、1、今っ
「茉里奈ちゃん!?」
構っている暇は無いです!銃を取り出して5人いるうち4人の頭、一人の足に打つ…ヒット!
「英二!」
すかさず英二が一人を拘束…
「ま、茉里奈ちゃん」
暗殺者の方を見ようとした鈴香先輩に目隠しします、これは見てはいけないものですからね。
「…っ」
会長は直視しちゃいましたね、丁度額に当たりましたもん…即死ですよ。
「指揮官、奴らを運んでくれ」
『了解した』
加藤部隊の隊員さんが運び終わるのを見て鈴香先輩から離れました。
「零、鈴香さん、怪我は?」
「大丈夫だ」
「えぇ…私もよ」
暗殺者の左胸に付いていたエンブレム…あれは確か…。
「マリ?」
「…私はこのことを報告しに行きます。あ兄ちゃんたちは引き続き護衛を」
「おう」
「了解」
拘束した暗殺者と共に機関へ行き、私は長の部屋へと来ました。
「お疲れ様だったね、茉里奈。怪我は無いかい?」
「大丈夫です、今回は5人。情報を吐かせるために一人以外はすべて射殺しました」
「分かった、尋問は茉里奈に任せるよ」
「了解しました」
あの暗殺者は武器班たちよりも地下にある部屋に連れて行かれたので早速行きます。ここはいつ来ても薄暗いですね、牢屋もたくさんありますし…あ、ここですね。
「こんばんわ」
「……」
黙りですね。
「尋問しに来ました、暗殺者さん。貴方のお名前は?」
「……」
「じゃあポチさんと呼びましょうか、尋問…といっても貴方達の雇い主はもう分かっていますのでこちら側からの質問はありません」
「…なぜ俺を生かした」
しゃべりましたね、中々いい声です。
「ふふ、私個人で貴方に聞きたいことがあるのですよ」
「……」
「貴方は”今宵”の人でしょう?」
「っ!?……何故、その名を」
「マントの下に来ていた服の左胸のエンブレム、前に一度見たことがあります。貴方達はいつも私の大切なものを奪おうとしますね」
最悪です、思い出すだけでもこの人を殺しそうです。
「ふん、知ったことではない…我らはボスの命令で動くのみ」
「そのボスというのが誰かに依頼されて動くのですものね…何件かは私達が邪魔をしていますが」
「ボスは怒っておられた」
「でしょうね!ですが、これが私達の仕事なので…私はもう帰ります。死に方は自由です、下を噛む…いえ、仕込んである毒を飲んで死ぬといいですよ」
「…ふん」
明日になれば死んでいるでしょうね、そういえば尋問なんて…あぁ、長にはまだ黒幕を教えていないのでしたね。報告してから帰りましょうか…また上まで行くのですか、面倒ですね。
長に報告した結果、黒幕は即処分。会社の方は安浦が買収したようです…権力すごいですね。
ところでずっと疑問に思っていたのですけど、長…お父さんはかなりの人数の権力者とお知り合いですよね、どういったコネでしょう。
「あぁ、それはね…こういう仕事上、勝手に権力者と出会うんだよ」
「でもお父さんの場合昔からの知り合いが多いよ?」
「まぁ僕も茉里奈達と同じように幼い頃からこの機関にいて、今の和葉と同じ立場だったからね。まだ子供のうちに知り合いは作っていくものだよ」
《小さい頃からコネは作っていくものよ、たくさんの人と接しなさい茉里奈》
あの人も同じことを言っていました。
「和葉も今のうちに頑張るんだよ」
「はい」
《せっする…たくさんの人と?》
《そうよ、将来…必ず貴方の力が必要となるわ。……辛い事もあると思うけど、決して諦めないで》
あの時、あの人はこれから起きる事件を予知していたのかもしれない。だからあの時、あの人は私に…もう過ぎたことですね、あの件から毎日…あの人の夢を見ます。
「雨が降ってきた」
あの人が死んだのも、丁度雨の日でしたね…雨の日は嫌いです、あの時の後悔が頭によぎって離れません。お父さん達には今まで”今宵”については話していません…存在ぐらいは知っていると思いますが、正体不明の暗殺組織としか分からないでしょう。あの人の死んだ時も、今回の件も、”今宵”とは繋がりがあるとは思っていません。
《こよい?》
《暗殺組織”今宵”彼らの手に掛かれば暗殺なんてゲームのようなものよ。茉里奈、貴方は私の意思を継ぐものとしてしっかりと覚えておきなさい…いい?このエンブレムが左胸にあったら”今宵”の人間よ、そこらの暗殺者よりもっと強いから注意して。次…”今宵”にはボスがいるの、ボスの名は****。奴は依頼だけではなく邪魔だと思った人を排除する正真正銘の私達の敵…私も、随分と長いこと邪魔をしてきたからきっと奴は私を狙うわね…茉里奈も気を付けなさい》
《うんっ》
《次に教えることは絶対に誰にも教えてはいけないわ、約束する?》
《約束する!》
《よし、じゃあ教えるわね…奴らのアジトを―――》
あの後あの人は”今宵”に、ボスに殺された。私も恐らくボスに狙わる…でも私には簡単に死ぬわけには行かないのです。
《もし私が死んでも、別に復讐なんてしなくていいわよ?まぁしたかったらただ殺すのではなくて…ジワジワと死ぬ感じで殺して頂戴》
《…う、うん》
本当にあの人らしいです…私はやりますよ、やらなくてはいけないのです。そうでもしないと、あんなに苦しそうに死んでいったあの人が報われないです…だからどうか見ていてください、奏。