文化祭の準備は平凡には終わりません
今私は機関が所有する墓地に来ています、ここには戦死した方々で身寄りのない人のための墓地…そこに、他より大きいお墓があります。
「ようやく…来ることが出来ました。奏」
そう、この墓は奏のお墓…彼女はずっと施設で暮らし、親の顔も知らぬ孤児でした。でも本人は機関の人達が家族だと言っていましたけどね……ずっと、ずっと”今宵”を倒すまで来ないと誓っていました…ですがようやく、この日が来たのですね。
「弘人さん、先にどうぞ」
「…いいのかい?」
「はい。奏の相棒は弘人さんです…弘人さんが先に行くべきです」
「……分かった」
私は弘人さんを遠くで見つめながら、大きな石碑を見ました。特に何も書いていませんが私達は『誓いと祈りの碑』と呼んでいます…ここに眠る戦友、家族のために戦い続けるとここに来る人達は皆誓い、祈りを捧げるからだそうです。
「茉里奈」
「もういいのですか?」
「あぁ」
そうですか…では私の番ですね。
「…奏」
私はお墓に近づき跪いた。
「ようやくここに来ることが出来ました…」
貴方の敵…討つことが出来ましたよ。ですから、どうか安らかに…。
「早かったな」
「長いと奏に怒られてしまいますから」
「…そうだな」
ずっと、見守っていてくださいね…奏。
* * *
夏休みが終わり、時はあっという間に過ぎてゆきました。次なるイベントは文化祭です!今日は文化祭で各クラスの出し物を決めるそうです。
「俺はこのクラスが一番団結力があると思っている。期待してるからな…ってことで級長と副級長、あとはよろしく」
「はい、分かりました」
大谷君と杏奈ちゃんが前に出ました。
「出し物って言ってもたくさんあるよね。とりあえず、お店にするか劇とかにするか…どっちかに決めたほうが早いわね。みんなどっちがいい?」
これは多数決でお店に決定しました。
「はいはい!私喫茶店がやりたい!!」
「あーはいはい、候補ね」
舞ちゃんの言葉に杏奈ちゃんが面倒そうに書いて…でも、喫茶店はクラスの皆も高評価ですね。
「メイド喫茶」
「そこは執事喫茶でしょう」
なんか変な方向に行っている気が…
「メイドに執事ねぇ」
「私、茉里奈にメイドで蓮君が執事だったら絶対にいくな~…それで、『おかえりなさいませご主人様、お嬢様』とか!」
「ゆ、雪音」
「何故に俺…」
…ん?なんか静か…
「「「「「「それだ!!!!!!」」」」」
「え?」
「ん?」
「…え?」
「…は?」
上から雪音、悟君、蓮君、私の順です。……いやいやいや、皆さん…。
「ナイスだよ雪音ちゃん!」
「それだ!それにしよう!!」
クラスの皆が盛り上がってる…。
「よし、それじゃあ…名前は貴族カフェなんてどうだ?貴族の令息、令嬢になった気分にさせる」
「いいわねそれ」
「おっしゃー!決まりー!!」
あぁ…なんか決まってしまいましたね。貴族喫茶…めんど…いえ、楽しそうですねぇー…ははは。
「メニューとか衣装とか…内装も考えないとだな」
「よし…手芸部の愛子ちゃん、衣装係長に任命します!家庭部の響子ちゃんは料理係に任命!OK?」
「了解したよ!」
「OK!」
「内装は…」
「はいはいはーい!!」
「あー…いいわ、舞はセンスだけいいから。頼むわね…さっき挙手してない人達は他の係で手伝ってね」
このクラスって本当に団結力というか仲がいいですよね…普通男子って衣装とか料理とかやりたがらなそうなのに率先して手を上げましたから。
その後数週間、私達は文化祭に向けての準備を行いました。…杉浦高校はお金持ちの人から庶民までが通う学校、やはり何かしら事件は起こるというものです。
「…っ…っく…」
「美奈子、大丈夫だよ」
「そうだよ、元気だして?」
和田美奈子ちゃんが泣いています…どうしたのでしょう。
「雪音、何があったのです?」
「実は…」
雪音によると1年C組に在籍している美奈子ちゃんの親戚から不愉快な事を言われたらしいと…その親戚は本家筋で、分家である美奈子ちゃんのお家では手出しできないとのこと。
「…なるほど」
「私もその場にいたけど、本当にお嬢様だったよ…あれは絶対に何か仕掛けてくるって」
和田美奈子の本家…まぁ本家、高倉家ですね、あそこは前のご当主がとても良いお方だったのですが現在の当主はクズだと聞いています。あ、私は前の当主とはお知り合いですよ?奏と一緒に行なった護衛任務であの方とお会いになったのですが…確か今の当主って息子さんでしたよね?…まぁいいか。
「美奈子ちゃん、これ食べて元気だそう!」
そう言って響子ちゃんが持ってきたのは…マフィンですね。
「…おいしい、ありがとう響子ちゃん」
「んーん、準備頑張ろうね!」
「うん!」
元気が出たようで良かったです。…ん?あれは例のご令嬢ですね、いかにも何か企んでいる顔ですね~…取り巻きの方々と何やら話しているようですが、丁度良い所に英二が。
「英二、私のクラスを見ている女性との話を盗み聞きして」
英二はチラリと私を見たので大丈夫でしょう。
「茉里奈、何か言った?」
「何も言っていませんよ?」
「そっか…楽しみだね、文化祭」
「そうですね」
雪音は私から離れ悟君と蓮君がいる内装班へ行きました。私?私は何故かポスターを描いています。
『さっきの女子生徒、お前のクラスの内装をめちゃくちゃにするようだぞ?それも前日にな』
「ありがとう」
やはりですか、漫画やアニメ関係なくお嬢様というのは馬鹿なのですね。それにしても前日…あと5日もあるじゃないですか、馬鹿なの?
「茉里奈ちゃん、ポスターできた?」
「はい、ちょうど今終わりましたよ~」
「おお~!すごい!これはポスター賞取れるかもね」
「いえいえ」
適当に描いていますからね、こんなもので賞とったら目指している人に失礼です。
「衣装の試作品が出来たよ!」
おぉ、とっても可愛いメイド服ですね。
「誰が着るの?」
「それはもう決めてあるよ~ってことで、茉里奈ちゃんと蓮君来てみて!」
「え?」
「私ですか?」
蓮君はともかく何故私なのでしょう。って、えっ、お、押さないでください~!
「さぁ着替えて!」
愛子ちゃんに押され、更衣室に使う教室に入れられました…はぁ、仕方ありません。えーっと、これはどう着れば…
「やっぱり悩んでるかぁ」
「雪音っ、これはどうやって着れば?」
「これはこうやって…次はこうね」
雪音に教えてもらいながら、なんとか着ることができました。
「わぁ…ねぇ、一度眼鏡外してみて」
雪音に言われ眼鏡を外す。
「わぁ~!眼鏡があった方もいいけどやっぱり無い方もいいなぁ!可愛い!!」
「あ、ありがとうございます」
まぁ、眼鏡を外すことは無いと思いますけどね。さて、教室に戻りましょう…ん?あ、蓮君も着替えが終わったようですね。
「蓮君、とてもよく似合っていますよ」
「茉里奈も、似合ってる」
「二人ともすごく似合ってる…私の想像はすべて当たってたよ!」
執事服はとてもかっこいいデザインになっています。
「これは蓮君を一目見ようとたくさんやってくる気がしますね」
「…それは是非ともやめていただきたいが」
「無理でしょうね」
美形ですから…さて、教室に入りましょう。
「二人とも着替え…た…」
教室が静まった…え、な、なんですか。私がそう思った瞬間一気に教室中が沸いた。
「二人とも似合ってる!」
「メイドと執事やばすぎるだろ」
「似合いすぎる…」
「私達の想像よりも遥か上だね」
「メイド服…メガネ…ぐはっ」
な、なに、何なの?
「ほらね皆、私の言った通りでしょう?」
待って雪音、貴方皆に何を言ったの!?ねぇ!!今直ぐにでも着替えようと2人で扉を開けようとすると両腕を捕まえられた。
「雪音、舞ちゃん離してください!着替えたいです!」
「まーまー」
「だーめ!」
「おいこら離せ悟、匠」
「いいじゃんかよー」
「ダメダメ」
うぬぬぬぬ……
「茉里奈ちゃん、とても似合ってるよ!」
「あ、ありがとう美奈子ちゃん」
そ、そんな輝かしい目で見ないでください…うぅ。
「衣装はこれでいいね、後は人数分作るのが目標だね!」
「メニューとかは大体決まっているけど、皆作れるかしら」
「俺無理」
「私も料理は苦手かなぁ」
「うーん、料理する人と支給する人を別れて午前か午後を決めればいいかな?」
「とりあえず作法とかどうする?」
作法ですかぁ…どうするのでしょうね。
「杏奈の家メイドさんと執事さんいるよね」
「いるけど…そうねぇ」
そういえば杏奈ちゃんはご令嬢でしたね。体育祭の時ご両親をお見かけしましたが何か…すごく庶民に溶け込む人達でしたね、素晴らしかったです。
「ねぇ茉里奈、メイドの作法とかやったことない?」
雪音が小声で聞いてきました。メイドの作法なんてもちろん…
「ありますよ。仕事柄、使用人の作法を身につけなければなりませんでしたから」
「さっすがー。教えることって出来ない?」
「出来ないことも無いですが、説明するのが面倒なんですよね…あ、でも出来ますね」
事実、会長と鈴香先輩のお母様と私のお母さんは高校時代の友人ですし。何かあれば斗和のご両親を頼ればいいだけです…あ、あそこに試作品のいちごタルトがありますね。
「響子ちゃん、このいちごタルト使ってもいいですか?」
「ん?いいよ~」
「ありがとう」
「分かりました」
皆が首を傾げていますね。
「杏奈ちゃん、扉から教室に入ってきてください」
「え?いいけど」
雪音が机と椅子を並べて…スタンバイOKです。
「いい?」
「どうぞ」
杏奈ちゃんが扉を開けて、演技開始です!
「お帰りなさいませお嬢様、どうぞこちらにおかけくださいませ」
「……え、えぇ」
一瞬動きが止まりましたが恐らくいつも家で行なっている動作通りに動いていますね。椅子を引いて、座るタイミングで椅子を押す。さて次はいちごタルトと…あ、紅茶が!雪音が入れてくれたのですね、この紅茶は…レモンティーですか、まぁいいでしょう。
「いちごタルトとレモンティーでございます」
「ありがとう」
静かにいちごタルトを食べる…小さいのですぐ食べ終わりましたね。
「茉里奈ちゃん…すごいわね、家のメイドと動作もすべて同じ…完璧だわ」
「ありがとう」
参考になりますかね。
「これを喫茶店のようにアレンジすればいいのよね、執事の方も指導するから」
ふふ…楽しみですね。あ、チャイムが鳴ったので放課後ですね…着替えないとですし、この後風紀委員ですし…帰りたい。
「雪音、これから委員会があるので着替えて行きますね」
「俺もこれから生徒会がある」
「うん、分かった」
さてと、行きますか。
* * *
「もう分かるだろうが、文化祭の警備だこれは生徒会と合同で行う」
「この学校は広いからね、4人のペアになって一つの棟の警備を担当してもらう」
ちなみにこの4人のペア、私はいつもの4人ペアです。
「後は自由に役割を決めてくれ」
ところで須坂先輩はどうするんでしょう。
「大山」
「ん?」
「有村を抜けさせて大丈夫か?」
「ああ、大丈夫だよ」
へ?どういう意味ですか。
「お前は俺と和葉のチームな」
「何故ですか」
「その方が楽そう」
「はぁ?」
何言っているのですかねこの先輩は。お兄ちゃんを見てもニッコリ笑顔ですし…何のですかねまったく。
「全員決まったようだな、解散だ!」
「マリ、生徒会室に行くよ」
「え…何故」
「斗和と英二もいるから」
本当に何故…英二、もしかしてあの事を言ったわね?あの野郎…。
「英二から、ある女子生徒の事を聞いたんだよ」
予想的中、これは一発殴らねば。
「……分かりました、行きましょう」
さあさあ行きましょう、生徒会室は直ぐ上です…到着。お兄ちゃんと須坂先輩の後ろを着いて行って…。
「やっほー茉里奈」
「お、きたグアッ!!」
「英二貴方、あの事を言ったわね?何故言ったのかしら…ねぇ?何故言ってしまったのかしらぁ」
「イダイイダイイダイッ!!キブッ!ギブッ!」
「あーほらほら、猫の皮がはげてるぞー…英二可愛そうだからやめような~」
「離しなさい斗和、私は面白いことは一人で楽しむ主義なのを分かっているでしょう。この馬鹿は私の楽しみを奪ったのよ」
「まーまー、落ち着けって」
ふざけないでいただきたい。
「それで、有村妹…どうなんだ」
「…クラスメイトの和田美奈子を嫌っている1年C組の高倉小百合が、文化祭当日に私のクラスの内装を壊して絶望させる予定だそうです…頭の軽いお嬢様は本当に馬鹿ですね」
「…高倉?」
「会長の知っているあの高倉ですよ。まったく…前のご当主は良かったといのに、どう育てればあんなゴm、カs、クズになるのでしょうね」
「ま、茉里奈ちゃん…余計悪くなってるわよ」
あら失礼。
まったく…私のクラスメイトに手出ししたら容赦などしません。雪音が本当に楽しみにしているのです、いつも頑張っている雪音のため私も頑張るつもりなのに…ん、雪音から電話?
「どうしたのですか?」
『大変なの茉里奈!美奈子ちゃんが階段から落とされたのッ、犯人はあの従姉だよ!なのに権力振りかざして無罪になろうとしてるの!!』
「落ち着いてください、美奈子ちゃんはどうなったのですか」
『今保健室に行ってる、けど骨折してるかもって…』
ほぉ~…なるほどね。
「分かりました。雪音、ありがとうございます」
『うん、お願いね茉里奈』
ふふ、ふふふふ…よくもまぁ。
「手を出してくれたわね」
「殺気を抑えろ茉里奈、漏れ出てるぞ」
「黙れ英二、土に帰りたいか」
「…スイマセン」
しゃがんでいじける英二にお兄ちゃんが宥めている、ふっ…さて。
「斗和、ご隠居おじいさんに電話するわよ」
「おう」
「会長、隣の部屋借りますね」
「あ、ああ」
私はカバンの中から小型のパソコンを取り出し起動する…カメラモードをオンにして通話…これでよし。
『久しぶりじゃのマリ嬢、横にいるのは斗和坊じゃないか』
「久しぶり茂じい」
「お久しぶりです」
彼は高倉茂、高倉家の前当主です。
『今日はどうしたんじゃ?』
「茂じいの孫娘について」
『あぁ…なんじゃ、ついにマリ嬢の逆鱗に触れたか?』
「ご明察通りだよ茂じい」
『ほうほう、やはりじゃな。んで、何があった?』
「私のクラスメイトである和田美奈子ちゃんを高倉小百合が嫌っていたのはご存知でしたか?」
『…重人達は自分が選ばれた人間だと思い込んでいるのは知っておる』
「先程、美奈子ちゃんがあの女に階段から突き落とされました。突き落とした本人は家を盾にして無罪を主張しています」
本当にムカつきますよね。
『あぁ、ほるほどのぉ』
「茂じいさん、なんで綾人さんじゃなくてアレが当主になったんだ?力量なんてまるっきし綾人さんの方がいいじゃないか」
『綾人は愛を選んだのじゃ、だから婿養子になったんじゃよ…元々、奴は当主など興味ないようじゃったしの』
有能な方ほど愛に生きるって…是非とも両立していただきたいですね。
『重人の方はこちらで何とかなるのじゃが…そうじゃ、お主は佐山祐と知り合いじゃろう?英二の奴はどうしておる』
「それなら…」
隣の生徒会室を見るとあのバカは鈴香先輩の入れた紅茶を飲んでいました。
「別室で優雅にティータイムしていますよ」
『……そうかい、孫のことは佐山に頼んでよいかの』
「今電話して了承もらったぜ」
『…相変わらず行動はやいのお主らは。マリ嬢、美奈子の事頼むぞ』
「えぇ、笑顔の素敵な美奈子ちゃんを悲しませないよう…全力で高倉小百合に絶望を与えますからご安心を」
『…ほどほどにな、ではな。面白い報告を楽しみにしているぞい』
通話を切って…ふぅ、相変わらず元気なご隠居ですね。
「ふっ…」
「何?」
「…珍しいな、茉里奈がこんなに一生懸命になっているなんてな。奏の時ぐらいだぜ?やっぱ雪音や他の友人たちのおかげだな」
「…」
確かに、小学も中学も親しい友人なんていませんでした。高校に入学して、雪音と出会って…色々あって他の人達と交流して、クラスメイト達とも仲良くなりました。
「”今宵”の件が終わったらお前、どこかすっきりした顔になったんだぜ?今までは何か思いつめている感じだったが……よかったな」
そういえば…奏が死んでずっと泣いていた私に、斗和はずっと側にいてくれましたね。
「たくさんの人と関わるよう言ったのは奏だから」
「そうだな」
「……そばに居てくれて、ありがとう」
「婚約者の側にいるのは当然のことだしな」
…あ、そうでしたね。私と斗和は婚約者同士なのでした…いや、忘れていたわけでは…えっと、あはは…忘れていましたよ。
「今思い出したな?」
「い、いえっ!その、別に嫌いだから忘れていたのではないのよっ?寧ろ斗和のことは好きだしっ、その、今まで色々あったからっ」
「ほぉ?まあ俺のことが好きだから許すとしよう」
もう!顔が赤くなっていることが自分で分かります…恥ずかしいですねまったく。
「ほら、戻ろうぜ?」
「はいはい」
生徒会に戻ると英二がニヤニヤと…斗和、マイクのスイッチオンにしていましたね?あ、目をそらした。
「んで、どうするんだ?茉里奈」
「…斗和、貴方確かC組でしたよね」
「あぁ。うーん…あのご令嬢なら男子を使ってくるだろうなぁ、似たようなお坊ちゃんがいるし…なんで俺あのクラスになったのやら」
「そう、ではその人達も佐山送りにしましょう。調べあげているでしょう?」
「当然」
「お兄ちゃんと会長もご協力ください。面白いことを思いつきました」
楽しみです。




