2話:僕と練と由希さんと
ひょんなことからノラ猫のジャイブと生活をすることになってしまった、ツナ。そんなツナにさっそくとんでもなく悲しい事件が舞い込んできた・・・・。
ジャイブとの生活が始まって翌日の事だった。僕に恐ろしい訃報が訪れた。
翌朝、僕が配達を終えてお昼寝をしていた時に携帯が鳴ったんだ。
『はい・・・もしもーし。』
「ツ、ツナ君?あたしあたし!ユキだけど・・・」
『えええ・・・・ゆ・・・ユキさん?!ど、ど、どうしたの??』
驚いたよ。電話の主は津村由希さん。練からの紹介で昨日、三回目の飲み会をしたんだ。そして由希さんは結局、練の事が好きで・・・僕はまたフラれてしまったという・・思い出したくもない話だ。しかしどうしたんだろう?すごく慌てている。
『お、お、お、落ち着いて〜!ど、ど、どうしたの?!』
「おめーも落ちつけってんだい、このブタ!」
ジャイブが横で余計な事を言うが僕は無視した。
「練が・・・・昨日の帰りあたしをかばってトラックに撥ねられて・・・亡くなったの・・・。」
『え・・・・練が・・・・・』
信じられなかった。
僕をいつもバカにしていたあの練が亡くなったなんて信じられるはずもなかった。
『わ、わかった!僕も・・・お葬式に行くよ!』
お通夜まで時間がない。慌てて喪服を着て葬儀会場に向かう僕はジャイブに声をかけた。
『ジャイブ!君はどうする?ついてくるのかい?』
「へっ!葬式なんて辛気くせーとこ行きたかねえんだけどな〜・・・」
ジャイブはプイとそっぽを向いた。
『じゃあ家で待っててよ。ゴハン置いとくから!』
僕が少し怒って言うと
「あああ〜!待った待った、わかったよ、行くってば!おまえだけ外食しようったってそうはいかねえぞっ!」
全く・・・この猫は僕より食い意地が張っているなあ・・・。
『練は早くに両親を亡くしてるからお葬式もきっと寂しいだろうな・・・かわいそうに・・・』
僕はそんなことを考えながら配達用カブに飛び乗った。
うちから葬儀場まではほんの15分ほどだった。祭壇の前、練は棺の中でまるで昼寝でもしているかのような顔で眠っていた。
『練・・・・。』
練は確かにイヤなヤツだったけど日雇いのバイトで僕がヘマして監督にぶたれた時、練がその監督を思いっきり殴ってKOしちゃって練までクビになっちゃったこととかそんなこともあった。ただのイヤなヤツじゃなかったよ。
「へへへっ!悔しかったら早くオレにおいついてみろよ〜!ココが違うんだよ、コ・コ・が!」
な〜んてイヤミったらしく言ってたあの練。眠る本人を目の前にして初めて「死」を感じた。
気が付くと棺の周りには恐らく練の彼女などであろう5〜6人の女の子が練を見つめてビービー泣いていた。
なんにせよ彼は僕なんかよりたくさんの人に愛されていたんだ。だって練はバンドでギターやってるしダンスうまいし顔はジャニーズ系だもん。そうだよねえ。
「全く・・・・もう見てらんねーぜ。おい!ブタ!さっさと帰るぞ、いつまで泣いてんだ!!」
ジャイブが背中に背負ったリュックから顔を出して僕の後頭部を引っ掻きながら小声でまくしたてる。
『いてっ!いてててっ!なんだよお・・・友達が亡くなったんだぞぉ?!』
「バカッ!こんな時だからこそあの由希ちゃんなんかチャ〜ンスじゃねーか!顔はカワイイしイイカラダしてるし・・・むっふっふっふ・・」
まるでエロオヤジの如くにやけるジャイブ。
『・・・さいてーなエロ猫・・・。』
「うるせ〜〜〜!さ〜早く引き上げるぞっ!帰ってメシだっ!さんまのかば焼きが食いたいぞっ!!」
『はいはい・・・・わかったよう・・・』
涙も拭わぬまま帰ろうとしたその時だった。
「ツナ君!!」
振り返るとそこには・・・・・・・・・・・・・
『ゆ・・・・由希さん?!ど、ど、ど、どうしたの?!』
「バカッ!落ちつけ!」
ジャイブの声なんかもう僕の耳には入らない。
「もうあたし・・・どうしたらいいか・・・練がいなかったら・・・あたし・・・。」
『ゆ、ゆ、由希さん・・。元気出そう?僕も・・・ツラいけど・・・・今日は・・・練の傍にいてあげて?ぼ、ぼ、僕も・・・朝刊の配達終わったら明け方に行くから・・・。』
「うん・・・・。待ってるね・・・。」
後ろ髪を引かれる思いで僕は葬儀場を後にし、カブに乗ったんだ。
ブロロロロロ・・・・・・・・・・・
ボロのカブはホントに遅い・・・。規定速度の30キロ以上が出ないんだよ、僕のカブ。
「おいおい・・・あれでよかったのか〜〜?」
ジャイブがサンマの骨を咥えながら僕に言う。
『だって・・・由希さんはあれだけ練が好きなんだもん・・・仕方ないよ・・』
「かあ〜〜・・・・おまえの根性のなさにはほとほと感服するぜ〜!まったく〜!」
ジャイブはまるで呆れているようだ。
さあ・・・これから朝刊の配達です。僕だって練が亡くなってとても悲しい。でも僕がしっかりしなきゃ・・・・。