プロローグ
はじめまして。
初めての小説投稿で、拙い点も多々あるかと思いますが、よろしくお願いします。
俺は、自分自身の事をごく普通の大学生だと思っていた。
普通に生まれ、何事もなく言葉を話して立ち上がり、学校へ通い、いつものように友達と遊んで、恋をして――――とにかく生まれてこのかた20年間、現代人のほとんどが歩んできたような、平凡な日々を過ごしてきたのだ。
そんな俺が、別に今この瞬間、突如として特別な存在になったというわけではない。
しかし、俺は現在、今までに体験したことのない特別な状況下に置かれていた。
俺は、何もない真っ白な空間にただ一人、立ち尽くしているのだ。
ここが何処なのかはわからない。どうしてここにいるのかもわからない。どうやってここに来たのか。それももちろん、わからない。とにかく、今の俺には何一つわからなかった。
「はじめまして。ようこそ、始まりの間へ」
突然、背後から男の声がした。
急なことで少し驚いたが、それは聞き覚えのある声ではあった。
とはいえ普段から聞きなれている友人達の声ではなく、声だけでそこにいるのがいったい誰なのか、そこまでの判断はできなかった。
声の主は記憶の片隅にでもいる、遠い知人だろうか。確認の意も込めつつ、俺は背後へと振り向いた。
「なっ……」
思わず声が出た。
そこにいたのは、遠い知人なんかではなかった。
むしろ真逆。
声の主は、俺自身だったのだ。
短めの黒い髪に、二重でアーモンド形の茶色がかった目。鼻も口も、その他すべての身体的特徴も、完全に俺自身がそこにいた。
確かに、これなら聞き覚えはあっても声の主に検討がつくはずはなかった。
「へえ、君の肉体はこんなデザインをしているのかあ。ボクはミラー。本当は名前なんか無いんだけど、君のようにボクと出会った人が名付けてった名前の中で、この名前が一番気に入ってるからミラーって名乗るようにしてるんだ」
俺が、いや、俺と同じ容姿をしたソイツが、歩み寄りながら話す。
「君って今さ、ボクのことを見て、俺だって思ってるでしょ。自分と同じ姿だって。ちょっと後ろ見てごらんよ」
ミラーが、俺と大体2メートルくらいの距離にまで近づいてきて、足を止めてそう言った。
「後ろって、さっきまで俺が向いてた方向だろう。何もなかったはずだが」
俺はこの状況になってから初めてまともに言葉を喋った。
その声は、いつもの自分の声とはだいぶかけ離れたものだった気がした。
「まあ、いいからいいから」
結局そそのかされるがまま、俺は後ろを振り向いた。
そこには、いつの間にか大きな鏡が置いてあった。
俺は、鏡に映しだされていたものを見て、言葉を失った。
鏡に映っているのは、普通に考えれば俺のはず。そう、今、俺のそばに立っているミラーってやつと同じ姿のはずだ。
しかし、そこには全く別の男の姿が映し出されていた。
背丈や服装こそ、今の俺と同じだが、目も口も鼻も髪型も、何一つ特徴のない、いわゆる初期設定状態のアバターであるかのような容姿に、俺はなっていた。
もちろん、鏡に映るその姿には、元の俺の面影は微塵も残ってはいない。
あまりの事態に肩を落とし、鏡に手をかけうなだれる俺の横にミラーが寄り、おちゃらけた様子で声をかけてきた。
「ところでさ、君の名前って……何だったっけ?」
突然のミラーの質問に対し、俺は混乱した頭で名乗ろうとした。
「俺は……お、俺は……」
出てこない。
名前が。
自分の名前が全く出てこない。
俺は……俺は、誰だ?
「出身地は?」
……わからない。
「家族や友人の名前は?」
…………何一つ出てこない。
困惑する俺の様子を見て、ミラーがにこりと笑みを浮かべた。
「よし! 記憶の方もOKみたいだね!」
……一体なにがオーケーなんだ。
そう思う間にも、ミラーは言葉を続けた。
「今から君にはあるゲームに参加してもらうよ。ゲームのルールは簡単。君にはこれから、このボクが作り出した世界に旅立ってもらうんだけど、その世界で自分自身の元々の名前を見つけ出してこられたらゲームクリア。全ての記憶を君に返して、君を元の世界に送り返そう。ただし……」
ミラーが人差し指をゆっくり立てて話を続ける。
「もしも途中で死んじゃったらゲームオーバー。君はいわゆるモブキャラとして生まれ変わり、ずっとゲームの世界で暮らしてもらうことになる。どうだい、簡単だろ?」
「うーん……ちょっと待ってほしいんだが、いくつかまだ聞きたいことが……」
「それじゃ、ボクはここで失礼するよ。あとは君専属のガイドがいるから、ソイツによろしく!」
俺の言葉を遮ってそう言い残すと、ミラーは白い空間に溶けていくかのようにして消え去ってしまった。
まったく、ゲームの話といい、とにかく自分勝手なヤツだ。
そんなことを考えていると、右の方から緑色に発光する球体がふわりふわりと揺れながら、俺の視界に飛んできた。
「…………?」
「私がお話にあった専属ガイドです。私のようなガイドのオーブは他にも多く存在しますが、私の事は便宜上『グリーン』とお呼びください」
落ち着いた男性のような声で、そんな言葉が耳に入ってきた。おそらく、目の前の球体……グリーンから発せられているのだろう。
「それでは、まずは早速ゲームの方を始めて行きましょうか。何か質問やお困りのことがあれば、いつでも聞いてください。頭の中で呼び出していただければ、すぐに参上いたしますので。」
グリーンは緑色のもやとなって姿を消した。
有無の一つも言わさぬうちに。
そして、それとほぼ同時に今いるこの空間も、白い霧が晴れるかのようにして消え去り、全く違う光景が俺の目に飛び込んできた。
なるほど。
どうやらゲームスタートのようだ。