先生への最終説得
『司馬やまと(駒場一郎)様 当局は貴殿が選考に関することを口外したため、選考作業に著しく支障をきたす可能性があると判断致しました。貴殿が一二月三〇日までに事実無根のことを口外したとメディアに謝罪しない限り、当局は貴殿を一二月三一日付で選考委員の任を解くことに致しましたのでお伝え申し上げます。 二〇××年一一月三〇日 大衆文学社 大衆文学新人賞係』
兄さんは所に届いた一通の最終通告書は僕らを驚愕させた。一一月に入ってから兄さんはテレビに出てから選考委員を引き受けるときに大文社からもらった書類を見せたり、選考委員の立場からしゃしゃ丸の主張を支持したりしていた。また、姉さんや僕も自分の立場からテレビなどでこの事件の全力究明を呼びかけていた。
「それにしてもやり方が汚いね。私は大文社がこんなに汚いことを平気でやるとは思わなかったですよ」
「赤野さんの言う通りだよ。自分にとって都合の悪いことは力で無理やりねじ伏せようとするんだからな…。どうして、汚い過去を認めようとしないんだ。私は別に選考委員を辞めたってかまわないよ。こうなったら、どっちが正しいか白黒がはっきりするまで戦おうじゃないか」
兄さんが興奮しながら熱く語っていた。それにしても大文社のやり方は汚い。でも、こんなやり方をしてはかえって己の首を絞めることになるのに…。何を考えているのだろうか。
「こんなときに先生がいてくれたら、いいんですけど…」
「こら、車車車。そんなことを言うんじゃない。先生は僕らを見捨てて、自分の身を守る道を選んだんだ」
「すみません。つい、昔の癖で…」
今から一ヶ月前の十月の終わり、僕らは先生に最後の説得を試みた。それこそ、テープとか書類とかのたくさんの証拠を持って、何度も何度も説得してきた。
しかし、先生はどれだけたくさんの証拠を見せても、どれだけたくさん説得しても、絶対に首を縦に振ることはなかった。そして、先生の口から出た言葉は「もう、終わりにしよう」の一言だけだった。
「先生はどうしてこの事実を認めずに全てをうやむやにしようとするのですか? もし、先生がこの事実を認めてくだされば、この疑惑の全容解明のきっかけができるのです。事件の当事者の誰か一人でいいんです。先生、話してください」
しゃしゃ丸が必死に食い下がる。彼だって文学界での生き残りをかけているから、この事件の全容解明に必死だ。もし、それに失敗すれば彼はただの笑い者に成り下がるのだ。
一方、先生も必死だ。もし、うかつに自分の口から話そうものなら、間違いなく文学界最大のスキャンダルに発展するのは目に見えている。
「先生、かつて二人で旅行に行ったときに、僕に話してくれましたよね。『作家養成学校を作ったばかりに多くの人々に才能がないことを悟らせてしまった』と。でも、この学校があるからこそ、発掘される才能もあると二人で話しましたよね」
先生も他の人もあっけに取られていた。僕が急に昔話なんか始めたからだろう。
「ここからは僕の想像ですが、先生はこのことに対してずっと罪悪感を持っていた。だから、十一年前の青天出版倒産を利用して、作家養成学校を作り、そこで力を付けた人が実力で新人賞を取れる環境を作ろうとした。しかし、皮肉にも学校は夢をあきらめさせる機関に成り下がった」
「越前、お前は何が言いたいんだ…。こんな時に…」
「その後、先生は結局、先生同士で打ち合わせをして弟子に新人賞を取らせるのが一番確実だと思ったのではないですか。まあ、僕みたいな弟子を持てば、そういう考えに落ち着くのもわからなくないです。だって、もし新人賞が完全に実力だけで選考されているなら、僕は未だに新人賞なんか取れてなかったはずですよね」
僕は思いの丈を御金持好先生にぶつけた。今、それぞれの思いを真摯にぶつけなければ、僕らの絆も幻になってしまうだろう…。




