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先生の提案

「今日、君に来てもらったのは他でもない仕事の話です。もしよかったら、私のアシスタントになってもらえませんか? 今の作家養成学校があるのは一年前に君が私の意見に賛同してくれたからです。今のこの流れは私と君で作ったといっても過言ではない。君には先を見通す力があります。それは物書きには欠かせない力です。今はまだ、それをうまく使いこなせていないだけで、しっかり力を積んでいけば、きっと大きな花を咲かせられるはず。とりあえず、プロジェクトで一通りのことは学んだはずですから、後は現場で下積みをすればいいでしょう。すでに私の元から二人の弟子が巣立ちました。南条君さえよければ私が必ず一人前にしますよ」


 こんな素晴らしい話があっていいのだろうか? 憧れの大先生から直々に「弟子になれ」なんで言われるなんで思ってもいなかった。


 でも、小説家のアシスタントって、どんなことをやるんだろう? 漫画家のアシスタントなら何となくやることが想像できるけど…。


「先生、先生の弟子になると、どんな仕事が与えられるんですか?」


 とりあえず、一つの質問をぶつけてみた。先生は僕を見透かすかのように、ただ僕を見ているだけだった。しばらく沈黙が続いた。その後、ようやく重い口が開いた。


「まず、私の弟子になると、どんな仕事が与えられるかと言うことですが、私が書いた原稿をパソコンに打ち込む作業をしてもらいたいのです。どういう訳か、私は紙に書かないとネタが浮かばない。だから、原稿に書きたくってから、弟子にパソコンに打ち込みと推敲をしてもらっています。それと私は作家養成学校の講師や文学賞の選考委員などで外に出ることが多いので、そのときの留守番をしてもらいたい」


 なるほど、弟子になればどうなるかだいたいわかった。これなら、先生の作品を誰よりも先に見ることができるから、それだけでも学ぶことは大いにある。ところで二人の弟子は今どうしているのだろうか…。


「先生、二人の弟子はどうしているんですか?」


「二人とも文学賞を取って、もう既に独り立ちしているよ。一番弟子の司馬やまとは『犬のカルテット』で大衆文学新人賞を取った。二番弟子の赤野あじさいは『私を突き動かして』で官能小説大賞を取って最近独り立ちした。そして、三番弟子が南条十四郎なんじょう としろう君、君だよ」


 僕はまだ弟子入りをするとは言っていないのだが、もう御金持好先生の三番弟子になってしまったようである。その後、先生は二枚の紙を持ってきた。


「これは何ですか?」


「契約書だよ。口約束では何か問題が起こったときに困るでしょ。だから、こうやってお互いに署名をしておくんだよ」


「何か、労働契約書みたいですね」


「師弟関係なんて、労使関係と変わらないよ。私が南条君にお金を払うんだ。まあ、漫画家の作家とアシスタントの関係と思ってもらったらいいだろう。それか、夏目漱石の小説に出て来る書生のようなものと考えたらいいだろう」


「かしこまりました」


 そう言うと先生はぱっと署名を済ませた。僕もぱっと署名を済ませた。そして、契約書の一枚は先生が、もう一枚を僕が持つ。こうして、僕は正式に御金持好先生の三番弟子となった。それは四月にしては少し暑い日のことだった。

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